TPPと遺伝子組み換え(GM)食品
公約破りの自民党
自民党は「TPP断固反対」を公約して政権に返り咲いたが、安倍政権は公約破りをして協議に参加した。今国会でTPP批准を(強行)採決すると米国に伝えている。あからさまな国会無視の対米隷属政権だ。
合意されたTPP協定に、この2月、12カ国が署名したので、あとは12カ国が議会承認など国内手続きを終えれば発効するがいまだどの国も最終手続きを終了した国はない。また12ヵ国のGDP合計の85%以上を占める6か国が手続きを終えれば発効することになっている。米国が60.4%、日本が17.7%なので日米が批准しないと発効できない。米国の場合次期大統領候補のトランプ氏はTPP反対、ヒラリー・クリントン氏は賛成であったが選挙選で反対を表明、当選したらTPPの修正を行うと見られている。米国のゆくえが定まらないのに日本だけが批准を急ぐ必要はまったくないだけでなく、それは日本にとって不利なことだ。
TPPを推進する米国オバマ政権の標的は米国に次ぐGDPの大きい日本市場なのだ。
米議会調査局報告書に「TPPで日本の規制の自由化を成し遂げる」とある。
規制撤廃、これがTPPの本命とみてよい。米国に本拠をおくグローバル大企業群が米国政府とともに条文を書きあげた。多国籍企業らが国境のない自由な営利活動を可能にするために徹底した「関税撤廃」と「規制撤廃」を実現するのが目的なのだ。
10月7日にGM表示の署名提出集会が衆議院第2議員会館内で開催された。遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン、日本消費者連盟、食の安全・監視市民委員会が主催し、「すべての遺伝子組み換え食品に表示を求める署名」が第1次と第2次集約の合計197,879筆という沢山の署名が消費者庁担当官に提出された。
この署名は、現在の不備なGM表示では消費者の知る権利、選択の権利、安全が守られる権利が侵害されたままであり、GMを含むすべての食品に表示義務付けを求めるもの。
この集会で「TPPとGM食品」について話をする機会を与えられたので、以下に要旨を紹介する。
「TPPとGM食品」要旨
第2章「内国民待遇及び物品の市場アクセス」章の「モダンバイオテクノロジーによる生産品の貿易」条項(GM食品に関連するTPP協定文から)
これまでの自由貿易協定にはない条項、TPPで初めてGM貿易を取り上げている。
- GM農産物貿易の中断を回避し、新規承認を促進
- 意思決定プロセスの「透明性」の促進
- 微量混入の際の協力
- モダンバイオテクノロジー生産品の時宜にかなった承認促進
- 微量混入の貨物の処分措置が「適当なもの」であること
- 農産物貿易を促進するため「農業貿易に関する小委員会」に「現代バイオテクノロジー生産品作業部会」を創設
日本政府はTPPにGMの制度変更を迫る条項はないと説明するが、現行制度は維持されても、規制強化は困難になるだろう。
日本の国内法より上位にある「作業部会」の設置により、輸入国に新規承認を促進させ、規制の強化を困難にさせる。
安全審査は形骸化し、日本のGM輸入を大幅に加速させることになる。
これまで違法GMの微量混入があれば、輸入禁止措置が取られていたが、TPPのもとでは貿易中断は回避せねばならず、違法GMの微量混入を容認させられることになる。
微量混入の対処は作業部会が「適当」と判断するものでなければならなくなる。
第7章「衛生植物検疫(SPS)措置」
- 食品安全規制が「貿易に対して不当な障害にならないようにする」
- 規制を設ける場合、「科学的な証拠」に基づいていると認められなければならない
- 利害関係者及び他の締約国に対して意見を述べる機会を与えることを義務づける
- SPS委員会を設置 SPSの規定を効果的に実施し、運用するため
GMで起きているいくつもの動物実験や家畜で起きている健康障害から未知の生成物、成分変化などを疑い人の健康を将来にわたって守るため予防的に規制するのが予防原則。米国やアグロバイオ企業らはTPP協定を使って予防原則を排除。科学的にリスクを立証できる場合に限って新たな規制ができるとする。
→ リスクの立証責任は規制しようとする輸入国に課せられている。
本来なら輸出企業が安全性を科学的に立証したものを輸出すべき。TPPは逆さまの論理。企業至上主義。
第8章 貿易の技術的障害(TBT)
- 「TBT委員会」を設置しTBTルールの設定や見直しなどを行う
- 「利害関係者に基準設定にあたって意見を提出する機会を与え、その意見を考慮し、政府機関による強制規格、任意規格および適合性評価手続きの作成に参加することを認める
- 強制規格及び適合性(安全性)評価手続きの結果については、他国のものが自国のものと異なる場合においても、それらが同等であると認められる場合において受け入れること
米国連邦議会でGMO表示法案を可決(2016年7月)。
表示としてQRコード(二次元バーコード)を容認。市民は「GM非表示法」と批判。米国からの輸入食品のQRコードを受け入れざるを得なくなる。
国内法より上位の権限をもつTBT委員会が安全性評価基準や表示ルールに関与する 日本の基準策定に、モンサントら利害関係企業の関与が可能になり、基準は企業に配慮したものにならざるを得なくなる。
国民の主権、国家主権は損なわれる。今後日本が厳しい食品表示をしようとしても自国だけで決められなくなる。
第9章「投資」ISDS「企業対国家紛争処理」条項
- 内国民待遇、最恵国待遇の原則に基づく投資家及び投資財産を保護する義務を定める
- 企業は、投資先の国の政府を相手取って国際仲裁を申し立てることができる
- 規制の導入や変更によって損害を被る場合や、投資家の期待した利益が損なわれるような場合、ISDS条項による仲裁申立ての対象になる
企業の提訴を避けるために、政府に政策の委縮効果をもたらす。規制強化はあり得ず、ひたすら規制緩和、規制撤廃へ。国民ではなく米国や進出企業のほうを向いた政策に傾く。
第18章「知的財産権強化」章
知的財産権の強化は種子の生物特許についても権利強化に。生物特許をかけた種子を使ったモンサントの特許侵害ビジネスの展開。
交雑などを理由にGM作物の特許侵害として農家から賠償金を取り立てている。
内閣主導の国家戦略特区。兵庫県養父市。農地の企業所有へ道を開いた。
GMの国内生産が始まれば、日本の農家は特許侵害ビジネスの餌食にされ、国産は非GMという優位性を失い、消費者の選択肢が奪われることになる。
日米2国間協議でさらなる追加要求
TPP発効が足踏みしても、米国に本拠を置く多国籍企業群は引き続き日米2国間協議を通じてさらなる要求をしてくるだろう。(『いのちの講座』101号 10月29日発行 より)
(2016/10/31)