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遺伝子組み換え作物(GMO)をめぐる最近の国際動向


米国バーモント州が画期的な遺伝子組み換え(GMO)表示法を決定

5月8日、バーモント州知事は米国初の、条件付きではない、州のGM表示法に署名した。このバーモント州法は2016年半ばに発効する。これはメイン州やコネチカット州の表示法が要求するような近隣州にも表示法が作られることを条件にしていない。すでにバーモント州は食料雑貨メーカー協会のような表示に敵対するところとの法的戦いに備えて、新しい法律を擁護するために、「Food Fight Fund(食品裁判闘争基金)」を同時に準備した。(Cornucopia.orgより)

米国オレゴン州の2つの郡が遺伝子組み換え作物の生産を禁止

5月20日、オレゴン州のJackson郡とJosephine郡は、住民投票の結果、遺伝子組み換え作物の生産の禁止を決めた。Our Family Farms Coalitionのキャンペーン責任者はGM作物の特許を有する農薬巨大企業のモンサントやその他の企業に対し、自分たちの作物をGM汚染させないという農業者の基本的権利を勝ち取ったと述べた。モンサント、シンジェンタ、ダウやその他の農薬企業は投票に影響を及ぼすためにTVコマーシャルに約100万ドルを投入した。GM花粉による交雑はオーガニック農家だけの問題という嘘のキャンペーンを展開した。実際はGM作物の花粉と農家の作物が交雑すると、生産された種子は法的に特許保持者の企業のものとみなされる。オーガニック認証にかかわるだけでなく、翌年の作物のために種を保存したり、商業的にそれを売ったりする権利について、どの農家も紛争対象となる。Oregon Right to Knowの支持者たちがGM食品表示を要求する州投票実施を求める署名を集めたことが地滑り的勝利につながった。米国の農家と市民は、よりよい食品システムを構築し、農家を守り、われわれの食品のなかに何が入っているかを知る権利を確立するために横断的に連帯する。(ecowatch.comより)

世界各地で合計100万人がモンサント社への抗議行進

5月24日にモンサントに反対するイベントが52カ国、400を超える都市で同時的に行われる。昨年の36カ国、286都市を上回る。「過去、モンサントは我々にDDT、PCB、エージェントオレンジ(枯葉剤)とダイオキシンを持ちこんだ。モンサントによる化学製品の向こうみずな使用、科学的な厳格さに欠けた彼らのテスト基準、予防原則を無視し人の生命と生態系を無視してきた」「現在、我々は、モンサントが種に特許をとること、さらにその収穫物からの支払いの強要、遺伝子組み換え食品の激増、危険な農薬の使用と食物供給をコントロールしようとする野心に直面している」と異議が唱えられる。

イベントは、モンサントが地球上の人々にもたらした苦悩の事例を浮き彫りにするだろう。たとえば、インドの250,000人以上の貧困農民は期待通りではなかったモンサントのBtコットン種子の結果として自殺した。 不妊、乳児死亡率、先天性欠損症、増加したガンのリスクは、モンサントの農薬と種が関連した健康リスクの一つだ。

エクアドルの行進のオーガナイザーは、 世界同時行進の声明で次のように述べた。「バイオテクノロジーは、世界飢餓の解決でありません。モンサントの有害な農薬は土壌の劣化、単作、生物多様性の損失、生息地破壊を引き起こしていて、蜂の巣崩壊の原因となっています。 GMO作物は伝統的な作物と花粉の交配を起こして農民の生計を危険にさらしています。」 米国では50州のうち47州でこの行進が行われる。(ecowatch.comより)

スリランカ、腎臓病との関連にもかかわらず、モンサント除草剤禁止を保留

スリランカの大臣は、グリフォサート(除草剤ラウンドアップの主成分)が腎臓病蔓延の主要な原因とし、グリフォサートを市場から直ちに除去するとリポーターに話した。しかし、1カ月経たないうちに突然、それについてあいまいにした。

スリランカ政府は、当初、グリフォサートが環境中でカドミウムやヒ素のような有毒な金属とくっついてできる合成物が食物や水を通して取り込まれ分解せずに腎臓に達するという科学者Channa Jayasumanaの理論に耳を傾けていた。スリランカの腎臓病患者たちが使っている井戸水のテストではグリフォサートといっしょに高レベルのカルシウムと他の金属が見つかっている。世界保健機構によるとこのスリランカの研究以前に、中央アメリカとインドを含む腎臓病の影響がみられる地域で、腎臓病患者の尿中に、他の農薬と重金属に加えて、グリフォサートとカドミウムを見つけている。スリランカでは以前から1日平均13人が腎不全で死んでいる。 腎臓病は、スリランカで少なくとも89の地域で蔓延している。

「グリフォサートは、これらの重金属を腎臓へ運ぶキャリアーやベクターの働きをします」とJayasumanaは語った。2012年のモンサント研究ではグリフォサートはカルシウム、マンガン、鉄のような重金属のキレート(金属イオンへの結合)作用があることを暗示していた。

しかし、現在、政府はモンサントや他の農薬企業、またスリランカの農薬登録にかかわる当局からグリフォサートのキレート作用は弱い、と不満を受け取り、農薬技術委員会会長が禁止の「広範囲にわたる影響」について大統領との会談を要請した。禁止は、茶農園、更には米生産に多大な影響を及ぼすからだ。そして禁止措置は停止させることになった。(4月14日 ecowatch)

フランス下院がGMコーンを全面禁止

フランスの下院はGMコーンを全面的に禁止する法を採択した。この法令は、この3月に可決されたモンサントのMON 810(欧州連合(EU)で認可された唯一のGM作物)の販売、使用と耕作を禁止する法令を強化し、即時のGMOの耕作禁止と対象をすべてのGMコーン種にまで広げた。

GMコーン禁止法は下院から上院に送られるが、たとえ上院で拒絶されても、下院には最終的な決定権がある。

EU28加盟国中19カ国が阻止するのに必要な票を集めることができず、今年後半にEU執行部が承認するDuPont とDow Chemicalが共同開発したGMコーンPioneer 1507 を含む将来EUレベルで承認する、どのようなものにもこの禁止法は適用される。(ロイター4月15日)

オーストラリアの南オーストラリア州とタスマニア州が2019年までGM生産禁止のフリーゾーン延長

2003年に始まったGMフリーゾーンのモラトリアム開始以来3度目の延長となり、さらに5年の延長が決まった。TPPのISD条項によって企業がGMフリーゾーンの作物や表示を訴えないように、オーストラリアはGreens Billを議会で探っている。

南アフリカ共和国の広告基準局はモンサントのGM作物は利益をもたらすという根拠のない主張を撤回させた

ともにgene ethics newsletter April 2014より

ビタミンA豊富なGMバナナ 臨床試験に

米国クイーンズランド技術大学が開発したGMバナナはベータカロチンを増すようにした。ベータカロチンは体内でビタミンAになる。ビル&メリンダ財団の支援で6週間の臨床試験が行われる。結果は2014年の終わりに発表される見込み。商品化は2020年までにウガンダで始まると見込まれる。この技術はルワンダ、コンゴ、ケニヤ、タンザニアを含むアフリカ諸国にも普及が計画されている。

EU 2014年2月GMコーン品種の認可に関する議論で、各国が独自に禁止、認可ができるという提案が復活。6月12日28カ国中26カ国が同意した。

数か月以内に欧州閣僚会議が欧州議会とともに同意し、2015年には最終テキストが 採択される見込み。(ともにCrop Biotech Update 2014/06/18より)

安田コメント

欧米では、GMOに逆風が吹き始めている。市民のGM拒否の声が企業の圧力を跳ね返しつつある。まずEU(欧州連合)は加盟各国が独自にGMOを禁止するかしないか決めることが可能になる。これは欧州食品安全機関(EFSA)が認可しても各国が独自に禁止できることを意味する。フランスはじめ、イタリア、ドイツ、ルクセンブルグ、オーストリアなど国民の強い反対があって規制を続けてきた国々はその権利が認められ、これに他の国々が続くだろう。

米国では、企業が議会工作や規制局を牛耳る人事の回転ドアのせいでGMO表示法案はなんども否決されてきた。しかし、あきらめず粘り強く続けられた市民運動は連帯を広げ、ついにバーモント州で突破口が切り開かれた。バーモント州は企業からの訴訟攻撃に備え、訴訟資金を準備したという。そう、米国では企業の自由な活動を制限する規制は憲法で保障する自由権の侵害として企業が訴訟に持ち込むようなことが起こっている。例えば遺伝子組み換え飼料は使わないとうたった乳業メーカーがバイテク企業から訴えられたり。

人の自由権保障なのに、法“人”にもあるという理屈。私的企業の権利が公(パブリック)の公益より上回る企業化国家に堕した米国。

日本の表示や作付け禁止などは、TPPで、ISD条項を使って標的にされるだろう。訴訟慣れした米国企業相手に日本が勝つのは困難だ。悲しいかな、先進国のなかでは、対米従属の際立つ日本はGM勢力が期待をかける国なのだ。

EUから撤退せざるを得なくなったGM企業は、インド、スリランカ、アフリカ、南米でGMOを広げている。以前、フィリピンのIRRI(国際稲研究所)やシンジェンタ社が中心となってベーターカロチン増大のGM米「ゴールデンライス」をビタミンA欠乏症をなくすためという人道アピールを掲げ開発した。「ゴールデンライス」の場合、食事で採るGM米の量では必要摂取量はまったく賄えないこと、1日の必要なβ−カロテンをゴールデンライスから摂ろうとすると、1キロ以上食べなければならず、非現実的であると非難された。ビタミンAの不足による健康障害には、そもそもカボチャやニンジンなどのおかずが満足に食べられない貧困が原因だ。貧困対策こそが必要なのだ。ゴールデンライスは批判が大勢を占め、いまだ実用化されていない。そこで今度は懲りずにアフリカ向けにバナナ開発に向かった。アフリカ諸国にもGMOの懸念が届くようになったと感じる。商品化に辿り着くのは難しいのではと思う。

(2014/06/27)

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