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欧州委が提案 遺伝子組み換え作物栽培の認否 各国の裁量にゆだねる


農業情報研究所(WAPIC)HP10.7.14より転載

欧州委員会が7月13日、その領土の一部または全体において遺伝子組み換え(GM)作物の栽培を許すか、制限するか、禁止するか、欧州連合(EU)構成国が自由に決定できるとするGMOに関する新たな制度を提案した。EUとして、"科学"に基づくGMO許可制度そのものは変えないが、それぞれの領土内でのGM作物の栽培を制限するか、禁止するかは構成国が決められるように指令を改正、構成国が採択すべき通常作物や有機作物との"共存"措置に関しても地方、地域、国の条件に応じた柔軟性を認めるという。

指令については、構成国がその領土内でのGMOの栽培を制限あるいは禁止することができるとする条項を追加する。この新指令が発効すれば、構成国は、EUレベルで栽培が許可されたすべてのGM作物について、栽培を許すか、制限するか、禁止するか、決定できる。ただし、栽培が許可されたGM作物種子のEU内の輸入やEU内での販売そのものを禁止することは許されない。

共存措置の目的は、GM作物栽培地域での通常作物や有機作物の偶然のGM汚染を回避、汚染によって生じ得る経済的損害や影響を防ぐことにあり、現在のこれに関するガイドラインは表示基準の0.9%以上の汚染を防ぐような共存措置の採択を各国に求めている。新たなガイドラインでは、0.9%未満の汚染も防ぐような共存措置の採択を認める。さらに、共存措置では偶然の汚染を防ぐに十分でないときには、従来は認められなかったGMOフリー地域―大規模な面積でのGM作物栽培の制限―も認めるという。ただし、このような制限措置は、通常作物・有機作物の保護という目的に相応するものでなければならない。

安田コメント

欧州連合の現行ルールでは、加盟各国はEUレベルで栽培が承認されたGM作物の栽培を、基本的には禁止することができない。

EUが栽培を承認したGM作物は、モンサント社の害虫抵抗性性(Bt)トウモロコシ1種(MON810)、バイエル社の除草剤耐性トウモロコシ1種(T25)と、今年3月に承認されたBASF社のスターチポテト(EH92-527-1)だけだ。

しかし、1998年に承認されたMON810は、新たなリスクは認められないという欧州食品安全機関(EFSA)の再三の再評価にもかかわらず、オーストリアとハンガリーが禁止の解除を拒み続けている。2009年3月2日の閣僚理事会は、両国に解除を求める欧州委員会の提案を否決し、両国の措置継続を助けた。

オーストリアのT25禁止についても、閣僚理事会が支持して欧州委員会が求めた解除は拒まれた。さらに、2009年、ルクセンブルグとドイツもMON810の禁止に踏み切った。

このように、EUはGMOをめぐって「麻痺」状態にあり、今回の欧州委員会の提案はこの麻痺状態を解消しようとするもの。今回の欧州委員会の提案によって、GM拒否の姿勢のオーストリア、ハンガリー、イタリア、ギリシャ、それにフランスやドイツなどは、GM作物の栽培に厳しい対応をとる可能性が高い。しかも0.9%未満の汚染を防ぐという条件の共存措置の採択となれば、実質GM作物栽培は不可能だ。

欧州委員会がこの提言に至ったことは欧州の市民運動の成果として賞賛したい。今日では、GMの安全性を否定する実験研究がいくつも発表され、推進側の大掛かりなプロパガンダにもかかわらずGMが飢餓や環境問題の解決にはならないとの認識が広がっている。

GM推進側は、今後、ますます強い逆風にさらされるだろう。日本政府がGM輸出国の米国だけに顔を向けて、GM輸入認可を乱発し続けている姿は特異である。

(2010/09/06)

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