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食用油の表示改正を求める意見書


食用油の表示の不備

12月18日に消費者庁長官と消費者委員会委員長に以下の「食用油の表示改正を求める意見書」を提出しました。これは昨年6月に国会内の会場で開催された「国産ナタネの灯を消すな!農水省緊急要請集会」に関連して、食用油の表示の不備が国産ナタネの振興を妨げていることから、食品表示を管轄する消費者庁へ申し入れたものです。年明けてから本格的な交渉に取り組みます。

食用油の表示改正を求める意見書

輸入食料の増大に対する消費者の懸念に対応して、これまでJAS法において生鮮食品の原産地表示、また加工食品の原料原産地表示が順次取組まれてきています。一方、食用油の表示はまったく手付かずのままであり、食用油の表示の不備の改善を強く求めるものです。

輸入農産物のなかでもっとも大量輸入している油糧作物ですが、原産地表示もGM表示もされないままです。大手植物油メーカーでなる業界団体は原産地表示は不可能であるかのように主張していますが、加工食品における原料原産地表示の検討会において、原料調達先の変動や複数あることの課題にも対応しようとしています。油においても消費者の立場に立った前向きの取り組みを期待致します。

自分が口にするものがいかなるものなのか、消費者は知りたいのです。JAS法の品質表示基準に基づく消費者の選択、情報提供の趣旨からも以下の改正を早急に取組まれますよう、お願い致します。

  1. 原材料名が、"食用〇〇油"と精油名表示になっていますが、正しく、もとの原料(油糧作物を輸入して国内搾油する場合はその原料油糧作物名を、輸入した油を利用する場合はその旨を)を表示すべきです。
    表示例
    社団法人日本植物油協会資料(平成20年11月4日)によると、なたね油(カノーラ油)は輸入ナタネ種子による国内搾油割合は98%(平成19年 以下同様)で油で輸入する割合は2%です。大豆油は94%が大豆を輸入し国内搾油しています。コーン油は100%が輸入コーンを国内搾油しています。オリーブ油やパーム油は逆に輸入油での供給が100%となっています。これを表示するのは難しいことではないはずです。
  2. 原材料の原産国表示が必要です。
    いまでは食用油のほとんどが輸入原料によるものです。風前の灯となっている貴重な国産ものは原産地表示があれば消費の拡大が望めます。原産地表示が早急に必要です。
  3. 混合割合を表記するようにしてください。その場合、同じナタネ油であっても、産地の異なる場合(輸入と国産の場合など)はそれぞれの産地表示を割合とともに義務づけてください。
    また、現在2種以上を混合した「食用調合油(表示例参照)」の場合、量の多い順から記載となっていますが、それに割合表示をさせてください。米においてはブレンドの場合、割合表示が義務付けられています。
  4. 商品名に油の種類を表示する場合はその油が100%の場合としてください。現在は種類表示される油が60%以上であればよいとされています。「食用ごま油」と記載されていれば、ごま油が60%以上入っていればよく、40%も異なるものが入っていてもよいというのは納得できません。
    また、国産原料使用の表示は100%国産の場合に限定してください。
  5. 遺伝子組み換え不分別の原料を使用する食用油にその旨を表示させてください。
    現在の遺伝子組み換え表示においては、最終商品のDNA分析によって検知できる場合に表示という理屈になっています。そのためDNAを検知しにくい油には表示がされません。大豆、キャノーラ、コーン、綿実はそれぞれ遺伝子組み換え品種が8割、9割を占める生産国からの輸入によっています。原料のほとんどが遺伝子組み換え品種であることからも、その情報は消費者に開示されるべきです。表示に当たっては、EUのように原料作物での検知を基準にするよう切り替えるべきです。遺伝子組み換え不分別の原料を利用した油はその旨を表示されるべきです。

付記 国産ナタネの状況

国内では、1957年に最高の作付け面積258,600ヘクタール、生産量286,200トンを示した後、1961年大豆の貿易自由化(油糧用大豆の輸入)、1971年にはナタネの自由化となり、減少の一途を辿った。2006年産は800ヘクタール弱である。国内生産量は1千トン、輸入量は220万トンで、最近のなたねの自給率は0.04%程度といわれる。

2000年まで「大豆なたね交付金暫定措置法」により生産者への助成金が支払われていたが、2001年に廃止。2001年産より「なたね契約栽培推進対策事業」(2001〜2006)、「高品質なたね産地確立対策事業」(2006年〜2008年)によるさらなる暫定措置により主産地の北海道滝川、青森横浜町などの契約栽培が推進されている一部産地において助成金が支払われてきた。しかし、2009年産でこの事業も終了する。なお、「新たな食料・農業・農村基本計画」の策定資料によれば、水田利活用自給力向上事業としてナタネの助成金(10a当たり20,000円)が計上されているが、低く、必要十分な額とはいえない。地域が安定して生産に取組める環境とはいえず、栽培の持続、発展は思うようには望めない状況にある。

ナタネの国産振興の意味

高齢化の進行が課題となっている日本農業において、ナタネ10a当たり労働時間は約4時間であり、一般野菜の約20分の1となっている。汎用コンバインによる収穫や機械乾燥の普及により時間だけでなく、作業そのものが軽減され、高齢化でも栽培できることから遊休農地の解消や余剰時間での野菜栽培への取り組み、菜花の出荷、景観作物としての観光客誘致など複数の効果をもたらしている。また、一昔に行われていたように輪作作物としても有用であり、国内の小規模搾油業者が行う圧搾法による搾油後の油粕は、良質の有機肥料としてひっぱりだことなっている。

消費者の遺伝子組み換えナタネに対する懸念、不安は強く、安心、安全な国産ナタネの必要性は高まっている。菜の花は国民に農村ならではの景観と文化を提供する作物であり、わずかとなった「なたね」の自給率向上を真摯に図らなければならない。

以上

食政策センター ビジョン21 代表 安田節子

「いのちの講座」61号(09年12月23日)巻頭言より (2010/01/14)

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