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中国餃子事件から「食べ物」のあり方を考える


連綿と続く食品偽装に加え、農薬入り餃子事件が起き、食品への不安・不信が日本全体を覆った。どこで餃子に農薬が入れられたのか、いまだ解明されていない。

その食品、何が入っているの?

今回の事件で、多品目の冷凍加工食品が中国の工場で委託生産されている実態が知らされました。外食産業のみならず、大手生協で取り扱われていたこと、また、多くの学校給食で使っていたことにも驚かされました。JTフーズをはじめ、多数の貿易商社が輸入していた天洋食品の製品は、餃子の他にも、ひれかつ、串カツ、煮豚、ロールキャベツ、肉まん、豚肉野菜巻き、お好み焼き、アスパラベーコン巻フライ……と、なじみの惣菜が並びます。

今日では、食べ物は食品産業の商品となり、メーカーは、消費者を巻き込んで便利さや効率性、低価格を追求してきました。消費者は、大手メーカーだから、生協だから、そこそこの材料で衛生的な工場で製造しているはずと自分を納得させ、「安くてお手軽便利」のワナにはまっていったのです。朝、お弁当に冷凍のまま入れて、昼には食べ頃になる究極のお手軽冷凍惣菜も、売れ行きを伸ばしています。

グローバル化した食品産業は、より安い産地を求めて地球規模で食材を調達します。以前堺市であった学校給食のO-157汚染による児童死亡事件では、結局原因の食材を特定できませんでした。原料や中間加工品も含めて、多くの業者が介在しているので、元まで辿ることができなかったというのです。いずれにしろ学校給食に、どこから来たのか不明の原料が使われている実態に危惧を覚えましたが、、その状況は今も変わりません。

また加工食品は、マーケッティングコスト(流通経費や広告費など)の割合が増え続け、一方原料費の割合は下がり続けています。今では原料費(農家手取り)は製品価格の1割ほどで、100円のジュースなら10円がその原料価格です。これでは農家経営は厳しく生産者は減っていくばかり。そのうえ加工食品は消費者には中身が判断できないので、業者の操作が思いのまま。利益優先に走る業者によって、食品偽装が後を絶たないのです。

違反が分かったときにはすでに……

冷凍を含む加工食品が大量に輸入されていますが、この度問題になった「餃子」は、検疫所で残留農薬検査を受けていませんでした。年間200万件近くある輸入食品などの届け出のうち、残留農薬の検査は約2万6400件(2007年度)に止まっています。輸入食品の検疫検査が、自由貿易を阻害しないようにと、迅速化、簡易化が要求され、検査は輸入食品全体の3〜10%程度。ほとんどが事前の書類審査だけですが、それすら廃止の方向が検討されています。港に着いた荷物はとどまらずに、そのまま通関して国内に入っていきます。また、検疫検査は一部だけを抽出するモニタリング検査に変更されました。サンプルを採取し、荷物は先に通関してしまうのです。ですからサンプル検査で違反が見つかっても、その食品はすでに人々のおなかに入った後で回収は不可能なのです。

06年から加工食品や肉、魚なども残留農薬基準適用の対象となりましたが、餃子のような加熱冷凍加工食品は対象外だったのです。全国約30カ所の検疫所で検査をおこなう食品安全監視員も、わずか334人(07年度)で、急増する輸入冷凍食品に対応する体制にはなっていません。輸入検査の不備が、今回の使用禁止農薬「メタミドホス」による中毒事件につながりました。

輸入食品はすべて一たん留め置き、安全確認検査(スクリーニング)に合格してはじめて通関するようにしなければ、有効な検疫体制とはいえません。最新の機器配備と人員増で、それが可能になるのですが、政府にやる気はないようです。

工場が清潔なら安全性など他は無視していいか

天洋食品は、衛生管理ではお墨付きのハサップ(HACCP Hazard Analysis Critical Control Pointの概念を取り入れた衛生管理)認証工場でした。これを取ると、ノーチェックで通関できます。製造工場の部分だけ衛生基準を満たしていれば、原料の安全性、製品の保管管理、流通過程などは、すべて無視して「安全」とし、検査しないのは納得できないことです。

また、原産地表示の問題があります。加工食品にはラッキョウ、梅干、水産品など、加工度の低い20品目に原産地表示があるだけです。濃縮還元ジュースの原料のほとんどや、ハム、ソーセージの原料肉も輸入品です。加工食品の場合、原料が複数のため表示するのが難しいとか、絶えず調達先や原料構成が変わるというのが政府の説明ですが、表示したくない業者の言い分を代弁しているにすぎません。加工食品すべての原材料の原産地表示を義務づけるべきですし、レストランメニューにも欲しいものです。

漬物原料の輸入塩漬け野菜は、農薬検査がされていないことをご存知ですか。農薬検査のために塩分を除くと、農薬も流れてしまうというのが、政府の言い分です。漬物を求める場合は、原料原産地表示をよく見て、国産原料のものにしたいものです。このように輸入食品の安全検査というのは不備だらけで、ないに等しいのです。

センター方式の学校給食が冷凍加工品に頼る

また、学校給食に輸入の冷凍加工品が使用される背景には、合理化の掛け声のもと、センター方式(いくつかの学校、学区をまとめ一括して調理し、各学校に配送する)の学校給食が増えたからだと思います。1日1万食を超える給食を作っているところもあるセンター方式は、一度に大量の給食を作らなければならないため、加工食品に頼らざるを得ないのが実情です。

またセンターの場合、民間委託が多く、営利事業となれば、食材のコストを下げる方向に向かいます。学校給食は自校単独調理場方式が食育上も、安全性、おいしさのうえでも最も望ましい形です。そして食材はできるだけ地場産を利用すること。ポストハーベストの殺虫剤が検出されている輸入小麦のパンではなく、食文化、食育の点からも米飯がお勧めです。

「見える」食べ物を選ぶ

問題は、中国産というよりもグローバル化によって、どこでどのように生産され、何が入っているのか見えなくなったことにあります。生鮮野菜も農薬や化学肥料が大量に使われ、遺伝子組み換え作物まで輸入しています。これらは、目に見えません。私たちが口にする食べ物が、ブラックボックスになってしまったのです。

つまるところ食べ物は、「見える」食べ物を選ぶことです。誰が作り、何でできていて、どのように作ったかがわかる……となると、生産から口にするまでの距離が短いことが必要条件になります。それに距離が短いことで、化石燃料の消費も抑えられ、ビタミンCは時間とともに低下しますから栄養的にもメリットが高いといえます。農民連食品分析センターによる輸入品と国産の比較では、輸入ブロッコリーのビタミンCは国産の半分しかありませんでした。

野菜などは少しでも自分で作り、次は地場のものを選び、そして国内のもの、国内にないものは、生産国の生産者とのフェアートレード(公正取引)を目指したいものです。そしてできるだけ素材で、また加工度の低いものを求め、調理すること。その場合、農薬や化学肥料を使わない有機農産物を、誰もが普通に手に入れられるようにならなければなりません。

英国土壌協会は、有機と非有機の食品で、微量要素の大掛かりな調査を行い、ビタミンC、必須ミネラルのカルシウム、マグネシウム、鉄、クロムなど、平均的に有機食品が高いと発表しました。

加工食品は、着色料や保存料、香料など、添加物の使用の極力少ないものを選びたいもの。原料の鮮度や品質が良ければ、添加物は不要です。

「見える」ことを保証するのが表示制度です。原産地表示に加えて、私は使用農薬をすべて表示する制度がいまもっとも必要ではないかと思います。農薬表示が実現したら大きな変化が起きます。消費者に嫌われるものは使用されなくなるからです。表示するだけで他のコストをかけなくても農薬削減や有機農産物への転換が実現していくのです。

日本は世界第1位の農産物純輸入国です。世界人口の2%の日本が、輸出される世界の農産物の10・2%(金額ベース)を輸入しています。重量にして年間6000万トンもの食料を輸入しているのです。そのため食料自給率は主要な先進国の中で、最低の39%にまで下がっています(アメリカ128%、フランス122%、ドイツ84%、英国70%)。食料の海外依存は、石油燃料の高騰と穀物高騰に直面して、限界が見えてきました。本気で国内農業の維持、発展と自給率アップに向き合う時です。

鍵は地産地消と有機農業の推進にあります。この潮流は世界的に広がりつつある一方、ハイテク化、工業化、効率化指向も企業や政府で一層強まっています。いま、二極分化の重大な岐路に立っています。方向を決めるのは私たちの選択にかかっていると言えます。

(「婦人之友」2008年5月号掲載原稿より 2008/04/17)

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