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遺伝子組み換え(GM)のコメをつくる実験が進行中


アエラ 2005.12.5号 「明日はどっちだ!commentary 278」

※安田節子へのインタビュー記事「遺伝子組み換え(GM)のコメをつくる実験が進行中」

国内屈指の米どころ、新潟県上越市の農業生産者と消費者がこの夏、日本で初めての遺伝子組み換え(GM)裁判を起こしました。市内にある研究機関がGMイネの野外栽培実験を強行したのに対し、これを差し止める仮処分を申し立てたのです。

実験したのは、農業・生物系特定産業技術研究機構の中央農業総合センター北陸研究センターです。コシヒカリ系統の「どんとこい」という品種にカラシナ(芥子菜)の遺伝子を組み込んだ、いもち病などに強いGMイネを開発し、室内実験を終えたので野外栽培実験をすると、今年4月に発表しました。

怒ったのは付近の生産者と消費者です。GM作物は安全性が十分に確認されていないのに、日本は醤油・食用油、加工食品や飼料の原料として世界一の量を輸入しています。さらに主食の米までGMになってはモルモットになるようなものです。昨年、GM小麦は、普通の小麦との混入が避けられないという理由で国際的に大反対運動が起こり、商業栽培は断念に追い込まれています。

GMイネの遺伝子が実験農業から飛散し、付近のイネと交雑すれば生産者は風評被害を受けるし、消費者は安全性に疑問がある米を食べてしまいかねない。地元の市民たちが強く中止を求めたのですが、センター側が強行したため、新潟地裁高田支部に仮処分を申し立てたわけです。

裁判では、遺伝子汚染の防止策が十分かどうかなど様々な問題点が争われましたが、内により注目されたのは、GMイネに作られる「ディフェンシン」という抗菌たんぱく質が、これへの耐性菌を作り出す危険です。

人を始めとする多くの動植物は、病原菌に襲われたとき、その侵入から身を守るためにディフェンシンを作り出します。たとえば、エイズに感染しながら長期間発症しない人は、ある種のディフェンシンを作ってエイズウイルスの活動を抑えていることが、最近の研究で明らかになっています。

ディフェンシンは、普通の動植物では必要に応じて作られます。ところがGMイネでは人工的にディフェンシンを常時大量に作り続けるようにしてある。環境中に存在する微生物がそれに頻繁に接触するうちに、これまで自然界には存在しなかった「ディフェンシンに強い菌(耐性菌)」が生まれます。このことは実験室ですでに確認されています。

ディフェンシン耐性菌の出現は、動植物が病原菌から身を守る最初の「防壁」が破られることを意味し、人を含む自然界に大変な脅威をもたらす可能性があります。

ところが、GMイネを開発中の研究センターは、そのような危険性を想定していません。市民側は裁判で、開発を一時停止して危険性を十分に検討すべきだと主張したのですが、一審の地裁では「ディフェンシン耐性菌の発生が確認されたのは実験室でのことであり、自然界とは環境が異なる」などを理由に、申し立ては却下されました。二審の東京高裁では「杞憂」に過ぎないと退けられました。

しかし、この問題の深刻さは著名な科学誌「ネイチャー」の11月10日号でも指摘されています。そう遠くないうちに大問題になるでしょう。市民側は来年も予定されている実験に、民事訴訟を起こす準備を進めています。

実験をした研究センターは、農林水産省の試験場が独立行政法人になったもの。企業や自治体がGMイネの開発から手を引いた中で、政府の研究機関や大学が開発に力を注ぐのは「イネ遺伝子の解析で先行する日本がGM特許を押さえれば、国際的に優位に立てる」とみた農水省が国家事業として推進しているからです。

しかし、GM米が売り出されたとして、だれが買って食べるのでしょうか。「GM」と表示されたら売れないのが多くの先進国の現状です。飢えに直面するアフリカでも、米国が食料援助として送ったGMトウモロコシを敢然と拒否した国が出ています。

米国のモンサント社を始めとする巨大バイオ企業は、種子企業の買収を重ね、いまや最大の種苗企業でもあります。GM技術と種子を通じて世界の農業支配をもくろんでいます。その際の武器がGM種子の「特許」です。

カナダの農家パーシー・シュマイザーさんに「特許侵害の賠償金を支払え」という文書が突然モンサント社から届いたのは1998年のこと。自分のナタネ畑で知らぬ間にGMナタネとの交雑が引き起こされていたことが、その理由でした。最高裁まで争った末、特許侵害の判決を受けました。モンサント社は農家から多額の賠償金を取り立てるビジネスを展開しています。

同じようなことが日本でも起こりかねません。GM作物の栽培が始まれば、普通に農業を営むことさえできなくなるかもしれない。さらに、種子を毎年買わせるために、種取りした2代目の種は毒ができて自滅させる技術も認められるようになってきています。

私たちの命に欠かせない食糧の命運を、多国籍企業に握られていいのでしょうか。日本では決してGM作物を作らせないことが、日本農業を生き残らせ、再生させていく道だと思います。(聞き手・ライター 岡田幹治)

(2005/12/13)

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