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北海道の遺伝子組み換え大豆 ついに栽培阻止!


宮井氏ついに断念

10月27日、地元地区の農家の栽培中止を求める決議などが出されたことを受けて、宮井氏が計画していた来年の生産を断念したことが報じられました。

これまで北海道が中止を要請し、10月20日には、宮井氏が組合員として所属する、ながぬま農協が加入組合員のGM作物の栽培を規制する方針を決めました。規制を無視した場合、GM以外の作物も含め一切集荷を受け付けないという罰則を設けました。そして地区農家の決議が出されてついに宮井氏は生産断念せざるを得なくなりました。生産者と消費者が一体となって北海道農産物の安心・安全を守ることができました。

強引に出荷した”前科”がある宮井氏

10月始め、北海道夕張郡長沼町の西南農場(宮井能雅氏)が来年春に遺伝子組み換え(GM)大豆の商業栽培を計画しているとわかって以来、北海道、JA、市民団体、生協、有機生産者団体、食品メーカーなどさまざまな方面から宮井氏に栽培中止を強く求めてきました。しかし、宮井氏は輸入・流通が認められたGM品種であり、作付けは止めないと強硬に拒んできました。宮井氏は98年、99年に表示のないまま、8トンを出荷したことも表明し、消費者にショックを与えました。

しかし、先にここでお知らせしたように、宮井氏が計画する来春の作付けは2003年3月から罰則強化された農薬取締法の農薬使用基準違反に当たります。遺伝子組み換え大豆の場合、発芽後に除草剤(グリホサート系除草剤ラウンドアップ)を散布するので、これはグリホサート系除草剤の大豆での使用基準「発芽前までの散布」に違反となります。使用基準違反の場合、懲役3年以下又は罰金30万円以下の罰則が、使用者に科せられます。

宮井氏は農家にとって省力化のメリットがあると主張していますが、それはバイテク企業の受け売りでしかなく、実際日本の農家には以下のようなデメリットしかありません。

日本の生産者にとってGM大豆はデメリットしかないという事実

第一に、消費者の拒否があり、GMであることを明らかにしては、決して売れないこと。現在、国産大豆は「非組み換え」という消費者の認識のもとに購入、販売されているものであり、そこに汚染や混入を作り出すことは国産の優位性を損なうことになります。

第二に、地域全体が風評被害を蒙るリスクがあります。作付けにあたっては地元の同意が求められますが今回のように同意を得るのは困難です。

なによりもGMとの共存は不可能です。しかし、もしも、政府が認めることがあるとするなら、最低限、栽培者に交雑(風評被害を含む)・混入に対する損害賠償や、飛散防止の措置など責任と賠償、罰則を課す法規制が整ってからでなくてはならないはずです。

第三に、経済的にも見合わないこと。大豆の主要集荷先である全農と全集連が、GM大豆は扱わないこと、そして栽培した農家の周辺農家の大豆についても、交雑や混入の判断が難しいため取り扱わないことを表明(02年1月)しています。

また、大豆農家はどちらかの団体に出荷しなければ国からの交付金を受け取ることができません。道農政部によると、道産大豆(黄大豆)の約75%が国の交付金の対象で、1俵あたり8千円が補填されています。02年度の道産大豆の平均価格は5500円程度で、交付金がなくなると経営に極めて大きな影響が出ます。

もし、栽培が強行された場合、周辺農家の大豆までもが集荷や販売ルートから除外され、交付金が付かないだけでなく、独自にルートを開拓しなければならなくなります。周辺農家にまで経済的被害をもたらすことになります。

第四に、収量においても優位性はなく、宮井氏の場合、99年以降生産を止めたのは、通常品種に比べかなり収量が低かったからと述べています。米国のような大規模生産の場合に、除草の省力化ということがせいぜい目先のメリット(いずれ耐性雑草が発生する)といえるくらいです。

以上のように、日本ではGM大豆を生産するメリットはないのに、なぜ、生産を強行しようとするのかという疑問です。

デメリットしかないはずのGM大豆をなぜ宮井氏は栽培しようとするのかという謎

宮井氏は再三渡米して種子も米国から直接入手しており、また、「バイテク情報普及会」のシンポに出席して組み換えの宣伝をしています。バイテク情報普及会は、本部は米国にあり、シンジェンタ、ダウ・ケミカル、デュポン、バイエル クロップサイエンス、モンサント、BASFアグロ、アメリカ穀物協会など、バイテク企業群が構成会員です。バイテク企業からの支援を受けてのことではないと断言できるでしょうか。

現在、バイテク企業側はGM大豆生産に必要な、グリホサート系農薬の発芽後使用を合法化するために農薬の登録変更申請を準備していると思われます。新たな登録に際しては、残留性に関する試験成績を実施することがメーカーに求められます。通常、データ作成は、2個所以上の公的機関で収穫までの試験を実施する必要があります。

これについては、すでに畜産草地研究所(栃木県那須郡西那須野町)が、ラウンドアップ耐性GM大豆を一般圃場で栽培した場合の環境への影響に関するモニタリング試験を行っています。10月下旬に収穫期を迎え、マスコミなどに対し、見学会を開催するそうです。農薬登録の変更で、数年以内にGM大豆の栽培が合法になることも視野に入れて今後も監視していかねばならないでしょう。

油断大敵ですが、日本では生産者・消費者が一体となれたことは心強い限りです。日本の農家と消費者が手を結ぶということがいかに大事かと思いました。

以下は私が送ったメールへのながぬま農協からいただいた返信です。


食政策センター ビジョン21 代表 安田節子様

メール、ありがとうございます。

この度の「遺伝子組換大豆作付け問題」では、大変お騒がせし、御心配をおかけし ましたこと深くお詫び申し上げます。

貴団体をはじめ多くの方々の力をお借りし説得してまいりましたところ、おかげさ まで昨日(10月27日)作付けをしないことを本人より確認することが出来ました。

ながぬま農協は、常に「いのち」を育み、消費者に安全・安心して食べていただけ る農産物を届けることを念頭に置き、生産者総意のもと長沼町が一体となり、土作り から始まる環境に負荷を極力かけない取組、食の大切さ、農業を少しでも理解してい ただくためのグリーンツーリズム、スローフード運動などを展開しております。

このすばらしい北海道・日本の環境をいつまでも残していく責任は、今の私たちに あります。

これからも消費者に顔を向けた「安心」でないものは絶対に作らない・作らせない ことを再確認しこれからも取り組んでまいりますので、更なる北海道産農産物の消費 拡大にご協力いただきたくお願い申し上げ、取り急ぎご報告とさせていただきます。

ながぬま農業協同組合  代表理事組合長 内田 和幸


(2004/10/29)

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