タイトル 「食政策センター ビジョン21」主宰の安田節子公式ウェブサイト/
リンクは自由です(連絡不要)/お問い合わせは管理者まで

安田節子ドットコム

米国、EUの遺伝子組み換え食品のモラトリアム(停止措置)をWTOに提訴


アメリカ、ついに提訴

米国貿易代表部(USTR)と米国農務省(USDA)は5月13日、欧州連合(EU)が遺伝子組み換え作物の認可を5年間凍結してきたことをWTO協定違反として世界貿易機関(WTO)に提訴すると発表しました。

EUは、1998年までに9つの遺伝子組み換え作物の栽培および輸入を認可しましたが、その後、新たな承認の手続きを中止しています。WTO協定では、加盟国に健康や環境を守るために作物および食品を規制する権利が与えられているのですが、加盟国がそのような措置を採る場合には「十分な科学的な証拠」を必要としています。証拠が示せない場合、加盟国は承認手続きを「不当な遅延」とならないよう遂行しなければならないからです。

しかし、2003年後半にはEUはモラトリアムを解除して、表示と追跡可能性(トレーサビリティ)の新しい仕組みを導入することにしているのですが。

アメリカの真意は?

ブッシュ政権は、イラク戦争でEU諸国が米国を支持しなかったので、WTOへの提訴を決めたのでしょうか。EUに対し、成長ホルモン投与のアメリカ産牛肉の輸入禁止をWTOから違法とされても、解除していないことへの根深い思いもあるかもしれません。

それから、2万6千の大豆農家を代表するアメリカ大豆協会(ASA)が、3月26日に下院の農業委員会で、ブッシュ政権に直ちにEUをWTOへ提訴するよう求め、他の国々がEUを見習うことがないようにアメリカが強硬な行動を起こすよう圧力をかけたからかもしれません。

EUの現状とアメリカ大豆農家の危機感

2002年米国の大豆の75%、コーンの34%、綿花の71%が遺伝子組換え作物です。大豆は2003年には80%が遺伝子組み換えとなっています。遺伝子組み換え大豆生産農家は、組み換え大豆の輸入を実質的に不可能にしているEUの表示制度や規制に強い危機感を抱いています。

EUは1996年にラウンドアップ大豆を認可しましたが、2年後には、1%以上のラウンドアップ大豆を含むいかなる食品にも「遺伝子組み換え」の表示を食品メーカーに義務づける規制を制定しました。

EUは生産地までたどれる追跡可能性や表示規制が最終的に承認され、実行されるまでは新たな認可は与えない方針です。さらに現在0.9%以上の遺伝子組み換え原料を含むすべての食品に、「遺伝子組み換えを含む」との表示義務づけと追跡可能性を求める新たな規制が検討されています。

追跡可能性が導入されるということは、食品が遺伝子組み換え技術によって生産されたものなら、表示がされ、食品が遺伝子組換え成分を含んでいるかどうかは問題ではなくなります。油であっても表示されるのです。

EUに輸出している多くの食品メーカーが、アメリカ産の大豆タンパクを原料として使用することを躊躇するようになっています。植物油も大豆油からそうでないものへ変える傾向を強めています。こうした状況がASAの危機感と政府への要請の背景でしょう。

しかし、そもそも需要がないものを作り続けておいて、いよいよ売れなくなったら今度は力づくで無理やり買わそうとする。これが米国が標榜する公正で自由な市場競争なのでしょうか? したたかなEUに期待と声援を送ります。

出典:United States Department of AgricultureASA Supports WTO Biotech Case Against European Union

(2003/6/8)

[INDEX][遺伝子組み換え食品目次][遺伝子組み換え食品コラム・目次]

©2000 Setsuko Yasuda All rights reserved.