北海道農業研究センターが組み換えイネの野外栽培試験と申し入れ交渉
反対の声上がるイネの野外栽培試験
農水省の農業技術研究機構北海道農業研究センターがトウモロコシの遺伝子を導入した光合成を高める組み換えイネの野外栽培試験を始めようとしています。特に問題なのは一般圃場で収穫まで行おうしていることです。
報道によれば、5月20日地元で開催された説明会に参加した有機生産者や住民など、60人近くの人々から安全性や遺伝子汚染などの懸念から強い反対の声が上がったといいます。
参加者のメールによれば、農業研究センターは、「いまのところ、商品化は考えておらず、1.8mx7mの試験区で行う。又、このイネは根から土壌の酸性を中和する物質を出す可能性があるので、調べてみたい」と説明。
しかし、強い反発を受け、26日予定していた圃場への移植や再説明会などの対応を検討することで説明会は終わったそうです。
農水省技術安全課長との交渉
急遽5月27日に農水省でもたれた、北海道農業研究センターを管轄する農水省技術安全課の長谷川課長との交渉に出席しました。
長谷川課長によれば、北海道での再説明会は29日に開催、野外圃場への移植は30日に予定されているという。移植を翌日に決定しての説明会とはなんとも市民をばかにした説明会ではないですか。
なお、北海道のほか、遺伝子組み換えイネの野外栽培試験を行っているのは、つくばにある中央農業総合研究センターと香川県善通寺市にある四国研究センターで、2001年度から長期栽培試験に取り組んでいるといいます。どちらも特に地元での反対は起こっていないと述べましたが、地元に情報が知らされていないだけでしょう。
また、北海道農業研究センターの栽培種は「キタアケ」という品種のコメにトウモロコシの光合成を高める遺伝子を入れたもの。現在10アールあたりコメの場合平均1・5トン(穂、茎含め)ほど採れるが、トウモロコシは2.5トンから3トン採れるという事です。
トウモロコシが持つ高い光合成遺伝子を入れ、コメをトウモロコシ並みの収量に高めることができるのではないかという期待を担っての実験だそうです。
収量2倍への疑問
イネが二倍近い収量になるには1本のイネがどれだけ分結し、どれだけの茎丈で穂にはどれだけの米粒がなるのか、生物が本来の2倍の実をつけるような形態になりうるのか、肥料だってたくさん施さなければならないですが、肥料やけしないで済むのでしょうか。
そもそもいまの日本農業の実態で、1本のイネがいまの2倍の収量になることを求めるニーズがあるのでしょうか。
減反が増える現状で、コメの生産量を増やす国家的必要性があるのか、食べたくないという消費者の拒否反応がある遺伝子組み換えイネの商品化の意味は? というこちら側の問いに対し、「だから家畜飼料とか加工品、あるいはバイオマス利用とかの利用も考えている……」と述べました。
公共事業の構造と同じで始めにバイオ研究推進の計画があり、その推進が目的だから、理由はあとからつけているのです。だから、反対に会うと理由はつぎつぎと変わっていきます。話を聞いていてそう感じました。
だれのための開発かが問われています。いずれにしても北海道での一般圃場での栽培はまったなしの状況にあるのです。
栽培試験計画中止を求める申し入れ書
5月27日農水省技術安全課との交渉において、日本有機農業研究会は農水大臣と同センターに対する、栽培試験計画中止を求める以下の申し入れ書を提出しました。
北海道農業研究センターが計画している遺伝子組み換えイネの野外栽培試験について、日本有機農業研究会は強い懸念をここに表明し、栽培試験を取りやめるよう申し入れます。
遺伝子組み換え作物の遺伝子汚染は不可逆的でひとたび遺伝子伝播により汚染が引き起こされれば人の手によって環境をもとにもどすことは不可能です。北海道農業研究センターが敷地内とはいえ、国内で初めて一般圃場で収穫まで行おうというのは、組み換え作物の環境影響を過小評価し、地元はもとより日本農業への影響を配慮しない、無責任な行為です。花粉の交雑の可能性を引き起こし、鳥が実を食べて遠方で糞を落とし広めてしまう危険性をもたらします。緩衝地帯を設ければすむというものではないのです。イネは自家受粉のため遺伝子汚染は起こらないと説明されていますが、遺伝子組み換えしたシロイヌナズナで予想外の変化が起き他家受粉の傾向が強まったという報告もあります。通常のイネでもある割合で他家受粉が起きていることは生産者のよく知るところです。
遺伝子汚染が起きたら、これをもとの環境にもどすことは誰もできません。結果に対して責任を取れないことはしてはならないことです。また、遺伝子組み換え作物に対しては消費者の強い懸念があり、北海道で組み換えイネの栽培がなされれば、消費者は北海道産のコメを買わなくなります。コメのDNA鑑定が行われるようになっていますが、普通のコメであっても組み換えイネの汚染が明らかになれば、北海道産のコメは売れなくなります。BSEにみるごとく、風評被害に生産者がみまわれます。こういう事態が起こった時、被害者たちに対し、どのように責任を取るのですか。
野外栽培試験は応用化に向けてのステップです。組み換えイネが商品化される場合、作物ですからDNA検知が可能で、表示がされるでしょう。消費者が望まないものはまったく売れないでしょう。生産者の利益にもならないのです。
遺伝子組み換え作物は最近の海外での、ネズミの実験や初めての被験者による実験で思わぬリスクが明らかにされています。これまでの安全性評価では不十分であることが示されているのです。
日本有機農業研究会は環境、健康、そして経済的にも取り返しのつかない事態を招く遺伝子組み換えイネの国内栽培に強い危機感を抱いております。 日本農業の優位性は遺伝子組み換え生産がないことなのです。農水省及び北海道農業研究センターは日本農業の未来のためにも、野外栽培試験を取りやめるよう、強く要請致します。 以上
(2003/5/29)