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厚生労働省研究班報告書、体細胞クローン牛の食肉流通へ道


体細胞クローン牛がまもなく国内流通へ

4月11日厚生労働省は、体細胞利用のクローン牛の安全性を認める報告書をまとめました。

研究班は、国内で生まれた体細胞クローン牛の肉や乳を分析し、ラットに餌として与えた結果、異常はなかったとした農水省の研究結果を踏まえて安全性が損なわれることはないとしました。7月に発足する食品安全委員会に諮問し、国内流通する可能性が高まりました。

なによりも消費者はそんなものを望んでいないし、そのうえ体細胞クローン動物は開発途上の技術で、不明の部分が多すぎます。

死亡率が高く、今年1月までに国内各地の畜産試験場で生まれた体細胞クローン牛330頭のうち、30%が死産か、生後まもなく死んでいるし、病死も17%という高率に上っています。生存率は約43%。こんなに生存率が低い原因はいまだ不明です。

ドリーの安楽死が意味するもの

今年の2月、スコットランドのロスリン研究所は、羊の一般的な寿命のおよそ半分の6歳になっていた体細胞クローン羊の『ドリー』を安楽死させたと発表しました。

ドリーは老化が早く、若いのに関節炎や肺の疾患を患っていました。ドリーは、6歳の雌羊の乳腺細胞からのクローニングによって誕生しています。成体の細胞からの遺伝物質を使ったドリーの細胞は、6歳の状態からのスタートであり、老化の進んだ状態で生まれたのではないかと懸念されていました。

安全性も、経済性も認めがたい

多くのクローン動物が作られていますが、失敗例が多すぎます。

器官の肥大する奇形があって胎内で死亡したり、誕生直後に死んだりする割合が高いこと、また誕生から数日後に突然死亡したり、通常の2倍近い大きさで生まれる過大仔も問題になっています。

通常とは異なる変異が起こり、その原因もわからないまま食肉として応用化してよいはずがありません。また経済性からいってもとうてい割に合わないのです。

生まれた330頭(そのうち半数は死亡した)の影にどれほどたくさんの失敗例があったことか。ドリーは、実験に使われた277個のクローン胚の中からたった1頭生まれた羊だったのです。それほどクローンを誕生させる成功率は低いということです。

ではなぜクローンを流通させようとしているのか?

クローン牛を食肉流通させようとするのは、農家のために新技術を応用化するということではなく、作り出したクローン牛を飼い続ける餌代、維持費がかさむために、売却したいがためなのです。

実際私がクローン牛問題で農水省と交渉したとき、「畜産試験場で生み出した新技術の実験動物なのだから生涯観察し、その情報公開が必要であること、それなのに途中で売却し、消費者に食べさせて処理するとはとんでもない」と反対意見を述べたところ、担当官僚から「実験動物のネズミと違って牛は経済動物なのだから」というびっくりする理屈を聞かされたのです。

しかも、消費者が選択できるための、明確な表示義務も課していないのです。生命を弄ぶクローンや、遺伝子組換え食品は、科学者たちの生命の尊厳に対する冒涜ではないでしょうか。

(2003/4/20)

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