細菌から多細胞の昆虫に遺伝子移動を初確認
米科学アカデミー紀要に発表
昆虫に寄生した細菌の遺伝子が、宿主の細胞核に入り込んで遺伝している例を、東京大学と産業技術総合研究所(茨城県つくば市)のグループが発見し、10月29日付の米科学アカデミー紀要に発表した。
東大大学院博士課程の今藤夏子さんらは、アズキの害虫「アズキゾウムシ」と、昆虫の寄生細菌「ボルバキア」の関係を研究していた。その中で、寄生されていないアズキゾウムシから、ボルバキアの遺伝子が見つかる例を発見。念のためボルバキアを駆除する抗生物質を与えても、遺伝子はなくならなかった。
このボルバキアの遺伝子は、アズキゾウムシ自身の遺伝子の中にあり、親から子に遺伝もしていた。
産総研の深津武馬主任研究員は、この遺伝子がアズキゾウムシに移ったのは、数百万年前〜数万年前と推定している。(ソース:毎日新聞 10/29他)
安田節子コメント
これまでも細菌同士や、ウイルス──宿主間で遺伝子が移動することは知られていました。
しかし、細菌から多細胞の宿主に移動が確認されたのは初めて。ミトコンドリアのように生物進化に影響した可能性もあります。
細胞内にあるミトコンドリアは、もともと真核生物(細胞の中に核を持つ)に、呼吸によってエネルギーを得ることができる細菌が取り込まれ、細胞との「共生」のプロセスで細菌の遺伝子の一部が細胞側に移ったとされています。
この報告は遺伝子組換え技術そのものへの懸念をいっそう強めさせるものです。
組換えの道具として、たとえば植物に外来遺伝子を導入するベクター(運び屋)に、病原性ウイルスを無毒化したものが用いられ、また遺伝子の水平移動を強めるウイルス遺伝子、抗生物質耐性遺伝子など、いくつもの遺伝子が導入遺伝子の他にセットになって送り込まれます。
今回の報告のように、多細胞宿主の遺伝子内に細菌の遺伝子が入り込むという遺伝子の水平移動が、これまで知られていた以上に広範に、高等生物にまで起こっているという事実。
だとすれば、植物、昆虫、動物などに遺伝子組換え技術によって刺激を与え、抗生物質耐性遺伝子などを送り込む結果、遺伝子内に細菌遺伝子が存在していた場合、それはどういう振舞いをするようになるのでしょうか。
細胞内の細菌遺伝子が抗生物質耐性遺伝子を取り込んで、それを外来の病原性細菌が取り込むことなどがありえるのではないでしょうか。
組換え技術の不確実性がいっそう高まったといえます。
(2002/11/16)