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有事法制──軍事独走への道を開く米軍のための戦争協力法


現実には裏がある

昨年の9・11米国同時多発テロ以降、ブッシュ政権は対テロ軍事行動を世界に展開し、これまでになく好戦的です。

米軍のアフガン攻撃支援のため、日本はこれまで憲法上の規制から困難だった自衛隊の海外派遣を行いました。

続く不審船事件で軍事行動に対する容認が世論に醸成されたとみるや、小泉総理は「備えあれば憂いなし」と有事法制を今国会に上程しました。

憲法と国家の根幹を揺るがすこの法案は多くの問題点が指摘され、今国会では成立できず、継続審議となっています。

9・11の映像でテロの恐怖が脳裏に焼きついた人々に、対テロ軍事行動を容認させるのはたやすい事。「国家防衛」というお定まりのナショナリズムを刺激され、有事法制に賛成するのは、思う壺にはまるとしかいいようがありません。

現実には裏があり、はるかに複雑であることを知る必要があります。

いま、米国では以下の事実が暴露されマスコミを騒がせています。

ブッシュ家をはじめとする米国石油メジャーは、アフガニスタンを通ってアラビア海へ原油のパイプラインを引きたかったが、米国と距離を置くタリバン政権下では難しかったのです。

ブッシュ政権は石油メジャーと軍需産業のために、人々の犠牲をためらわない戦争屋政権のようです。ブッシュ大統領は次なる標的としてイラン、イラク、北朝鮮を悪の枢軸と決めつけ、攻撃には核兵器使用の可能性も言及して挑発しています。

米軍が軍事行動を本格的に展開するには、日本全国の米軍基地(沖縄、横田、厚木、岩国など)と自衛隊の共同行動が必要となり、また、燃料、武器、弾薬、食料、医薬品の調達や施設の構築、運搬、医療など多方面で民間人の協力が不可欠となります。有事法制が俄かに上程されたわけはこうした背景によるのではないでしょうか。

米軍の協力者日本

これまでの米国の政策は、日本を米軍の良き協力者にすることでした。近年の事例を拾ってみましょう。

着々と固まる協力体制

このように、米国と自民党政権のもとで、米軍協力体制の構築が着々と進められてきました。 周辺事態法で外堀が埋められ、今度の有事法制でいよいよ内堀が埋められるのです。

日本の防衛族や自衛隊、防衛産業にとって有事法制は、自衛隊活動の規制を外すことができる、軍備費の増強、自衛隊の権限拡大を狙った法案なのです。

しかし、国民の立場からすれば有事法制により、再び戦争の災禍を手繰り寄せ、人権が踏みにじられることを許すことになるのです。

以下に詳しく述べますが、有事法制は決して有事に日本の人々を守るためのものではありません。米軍の軍事行動のために、日本の軍民上げての戦時協力体制を構築することが、この法案の目的なのです。

だからこの法案は、周辺国に警戒感を高めさせ、戦争を兆発する危険性を持つのです。そして、やがて日本は、米軍が介入する戦争に否応なく引きずりこまれていくことになるのです。

有事法制の中身

有事法制は次ぎの三法案からなります。

  1. 日本が武力攻撃を受けた場合に備える武力攻撃事態法案
  2. 自衛隊の防衛出動時の私権制限などを盛り込んだ自衛隊法改正案
  3. 安全保障会議の機能強化を盛り込んだ安全保障会議設置法改正案

有事法制は二年を目処に全体的に整備するとされ、現在のところ市民の権利の制限や米軍支援については、ほんの一部が打ち出されたにすぎません。しかし、まだなにがでてくるかわからない。

武力攻撃事態法案の武力攻撃事態とは

  1. 外部からの武力攻撃が発生した事態(武力攻撃のおそれのある場合を含む)
  2. 事態が緊迫し武力攻撃が予測される事態

の二つですが、現実的に可能性があるのは攻撃の「おそれ」や「予測」の方です。

法案の想定している武力攻撃は、冷戦時代の上陸侵攻型で、地上戦を想定した対応です。

ロシアや北朝鮮、中国などが日本を標的に上陸侵攻してくる現実性があるかといえば、それは否です。

もし直接攻撃を受けるとしたら、米軍が始めた戦争の相手国から米軍基地があるがゆえにミサイル攻撃などを受ける場合が想定できます。

また現代の戦争は、大量殺戮兵器、弾道ミサイル、生物兵器、サイバーテロによる攻撃が想定されますが、例えばミサイルで原発を攻撃されたら、自衛隊はお手上げです。つまり、万一攻撃を受けた場合、この法案では対応できないのです。

攻められた時の備えにはならないこの有事法案は、実は攻める時のために必要なのではないでしょうか。

なぜならこの法案によって、日本の背後にいる米軍が戦争を仕掛けやすくなるからです。

武力攻撃の「おそれ」があるという判断で有事体制が発動できることが武力攻撃事態法案の真の狙いでしょう。

日本は国防情報収集をアメリカに依存している(不審船の情報も米国からだった)ので、周辺国で緊張が高まったと米国が判断した時点で、日本の有事体制が発動できます。

つまり、米国の意志で日本の臨戦体制にスイッチを入れる事ができるのです。

つまりこれは判断基準のあいまいな「おそれ」「予測」で運用できる恐ろしい法案という事です。

憲法違反の人権制約規定だらけ

1 私有地の強制収用や家屋の撤去

自衛隊法改正案では「予測事態」の段階から自衛隊が準備のために陣地を構築できます。そしてその段階から土地の収用や立木等の移転・処分ができます。

陣地を展開する地域に田畑があった場合、事態収束後に収穫を見こむのはほぼ不可能となります。

自衛隊の防衛出動が発令された場合、私有地の強制収用や自衛隊の行動地域に建っている家屋などの形状を変更したり家屋の撤去ができます。

土地収用には原則として事前に公用令書の交付が必要。しかし、今回の自衛隊法改正案は土地や家屋の所有者の所在が不明な場合は事後交付でいいとしました。

つまりもどってみたら知らないうちに家が壊されていたり、畑がぼこぼこになっていたりするのです。

防衛出動終了後には政府が補償金を支払いますが、その額が不満であっても自衛隊法は行政不服審査法による不服申立てを認めていません。

ちなみに、第二次世界大戦中に旧日本軍が正式な買収手続きなしで収用し、現在米軍の基地となっている土地について地権者らが訴えているケースもあります。

2 物資保管命令

自衛隊が防衛出動した場合、ガソリンや軽油などの燃料、コメや野菜などの食料、医薬品等々を確保するため民間業者に「物資保管命令」や収用ができます。

物資保管命令に従わず、事前調査の立ち入り検査を拒んだり、虚偽報告をするなど物資保管命令に違反すると刑務所行き(六ヶ月以下の懲役または三〇万円以下の罰金)となります。

例えば自衛隊がコメ屋に物資保管命令を出すと住民がコメを売ってもらえなくなったり、病院なら一般患者の医薬品が不足することにもなり得ます。市民生活への影響は無視できません。

3 国民の協力を義務づけ

武力攻撃事態法案第八条に「国民は(中略)必要な協力をするよう努めるものとする」と国民の権利を制限しています。

これにより、反対したり不服従の人に対して非国民との社会的な非難が浴びせられることになります。

批判することに対する自己規制が働き、自民党国防部会が求めた「国民の責務とする」の強制文言までは入りませんでしたが、ほとんど同じ効果を持つでしょう。

4 業務従事命令

自衛隊は医療機関や土木建設業者、輸送業者に業務の協力を命じる(業務従事命令)ことができます。

建設、土木、運輸、航空、船舶、医療などに従事する人達が対象となるでしょう。当初自民党国防族は、業務従事命令にも罰則規定を盛り込むべきだと強く主張したのですが、これでは「徴用」と同義となるので、国民の反発をおそれ、罰則は盛りこまれませんでした。

しかし、罰則がないとはいえ、国民の義務として法律に書きこまれたことは重大です。社員が従事命令に従わなかった場合、会社が解雇の理由にするなど、社会的強制力として働くからです。

しかも「自衛隊の任務遂行上特に必要があると認められるとき」というあいまいな定義では、期限も地域も無制限に従事させられ、不当性を争う機会も与えられないことになり得ます。

5 首相が自治体に指示権限

有事の際、首相が自治体に協力を指示できる権限が盛りこまれました。知事が従わなかったりすれば、緊急の場合は首相が代執行できる指示権を持つのです。

沖縄など基地のある自治体首長が、住民の安全を守る立場で反対しても、政府はこれを無視できるようになるわけです。

武力対策事態対策本部を設置し、首相に過度に権限集中することは、国民が国家の統制のもとに置かれることになるわけで、危険きわまりない事です。

6 首相は指定公共機関にも指示や代執行の強い権限

武力攻撃事態法案では指定公共機関に対し、首相は指示や代執行の強い権限を持ちます。

武力攻撃が予測される段階から指定公共団体にさまざまな指示をだすことができます。「指定公共機関は武力攻撃事態への対処に関し、その業務について必要な措置を実施する責務を有する」と明記されました。

なにが指定公共機関とされるかは今後政令で定めますが、既に指定公共機関の規定を持つ災害対策基本法では、日銀、赤十字、NHK、JR各社、日本通運、新東京国際空港公団、東京電力、東京ガス、NTT、NTTドコモ、KDDIなどその数は60にのぼります。

具体的にはJR各社、日本通運には物資の輸送、日本赤十字には傷病者の手当てなど、NTT各社には自衛隊や米軍に対する通信の優先割り当てが予想されます。

さらにNHKのみならず、他の民放テレビやラジオを含める意見も出ています。ただし協力の内容は今後二年間で整備する個別法案に盛りこみます。

幅広い指定公共機関に首相が強い権限を持つことは、有事における総動員体制作りが強まることです。

7 国会の軽視

国会承認は対処措置の実施後でよいことになっています。

国会の事前承認なしで「予測」の段階から「有事」に入ることが可能になるのです。国会による歯止めが効かない。こんな法律を通してよいのでしょうか。

正当防衛権を認むることが戦争を誘発する

以上のように有事法制は、国民の人権を侵害する危険なものです。

確かにテロや大地震など、緊急事態はあり得ます。だがそれらの事態には、現行の警察法や災害対策基本法などで十分に対応できるではありませんか。有事法制を成立させては取り返しがつきません。

五月一三日、毎日新聞社説に、一九四六年六月二八日の憲法改正を審議した衆院本会議での、共産党の野坂参三氏と首相の吉田茂氏の質疑が紹介されています。

野坂

「戦争には二つある。一つは不正、侵略戦争。侵略された国が自国を守る戦争は正しい戦争と言って差し支えない。戦争一般放棄でなしに、侵略戦争放棄がもっと的確ではないか」

吉田

「近年の戦争は多くは国家防衛権の名において行われた。故に正当防衛権を認むることが戦争を誘発するゆえんである。正当防衛権を認むるごときは有害無益の議論と考える」

吉田茂首相には政治家としての慧眼見識がありました。

「ファムポリティックNO.36」に執筆(2002/07/02)

おまけ(戯れ歌紹介):RT作 テロニモマケズ

テロニモマケズ タリバンニモマケズ

アルカイダニモ ビンランディンニモマケヌ

丈夫ナ基地ト軍事力ヲ持チ

欲ハ多ク 決シテ自省セズ イツモ乱暴ニ怒鳴ッテイル

一日ニ、 ハンバーガー十個ト コーラト少シノ プレッツェルヲ食ベ

アラユルコトヲ他国ヲカンジョウニ入レズニ

ヨク威嚇シ、タカリ、恨ミヲワスレズ

両洋ノ間ニ大陸ノ端ノ 大キナ白イ家ニイテ

アフガンニ テロノ首謀者ガイレバ 行ッテ空爆・誤爆ヲ行ヒ

極東ニ京都議定書ガアレバ 無視シテCO2ヲ排出シ続ケ

北ニ金氏ノ王朝ガアレバ 違約ノ核開発ハ ヤメロト言ヒ

中東ニ独裁国家ガアレバ 空母片手ニ査察ヲ迫ル

九月十一日ノトキハ涙ヲ流シ

八月六日ノ夏ハ両耳ヲフサギ

ミンナニ一国主義トヨバレ

ホメラレモセズ 感謝モサレズ

サウイウ国ガ 世界ノ王様

改正自衛隊法施行令を閣議決定

2003年10月3日、政府は改正自衛隊法施行令を閣議決定しました。

防衛出動が自衛隊に発せられた場合、防衛庁長官の要請に基づき都道府県知事が、仕事を続けるよう命令する「業務従事命令」対象業者などを定めました。

業者の範囲は以下のとおり(一例)

  1. 医師、薬剤師、看護師、歯科医師、准看護師、臨床検査技師と診療放射線技師
  2. 私鉄、トラック、バス事業者、自動車運送事業者のほか、フェリーや高速船などの船舶会社、航空各社など
  3. 建設業者

(2003/10/3更新)

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