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「ネイチャー」論文への企業の黒いサイバー応酬


インターネット上で敵を葬るテクニック

ATTACニュースレター『サンド・イン・ザ・ホイール』2002年5月15日号(通巻第128号)「企業は、インターネット上で敵を葬るテクニックを発明した」By George Monbiot

記事から要旨紹介

国際的に権威のある科学誌『Nature』が2001年11月29日号にカルフォル二ア大学の二人の研究者によるメキシコの原種コーンが遺伝子組み換えコーンの花粉により汚染されているという論文を掲載し、バイオテク企業に打撃を与えた。

そして2002年の4月、『Nature』誌はなんとこの掲載を撤回するという前代未聞の羽目になった。

過去に企業は、批判者への対策として、森林破壊や河川汚染を支持する「市民団体」を偽造したが、いまはニセモノの「市民」を捏造し、メーリングリストなどで情報操作の工作を行っている。

モンサント社は、遺伝子組み換え食品の宣伝に失敗した教訓から、対策としてインターネット・ロビイングを専門にするBivings Groupと97年に契約を交わした。

Bivings Groupのウェブサイトには「ウィルス性マーケティング」戦略についての解説がある。

「どのように世界を感染させるか」の項目では、「視聴者にあなたの組織が関わっていることが知られると逆効果になるキャンペーン」においては、、「最初はインターネット上で話されていることをよく聞き、事情に精通した後、第三者の立場を装ってそこに投稿することができます」、「ウィルス性マーケッティングの利点は、あなたのメッセージが真剣に検討されることです」と述べている。

モンサントの高級幹部は同サイト上でBivingsの業務を「傑出した実績」と賞賛している。

昨年、『Nature』のこの号が発売される前に、著者の一人であるIgnacio Chapela氏に、あるメキシコ企業幹部が接近し、はじめは、この記事を撤回すれば好条件で研究員として迎えると提案し、その後は同氏の子供の居場所をつきとめることも可能であると脅迫した。

同誌が発行された後、記事内容は科学者3千人が加入するAgBioWorld というML上で取り上げられた。

すると、すぐさま"Mary Murphy"なる者が、Chapela氏が「農薬アクションネットワーク」のディレクターをつとめるため「偏見なき著者とは言いがたい」と投稿。

続いて"Andura Smetacek"なる者が、著者が「何よりもまず活動家」であるため、環境保護家との結託のもとに研究結果が公表されたと指摘。

翌日には"Smetacek"なる者が、「Chapela氏は、偏見に満ちたキャンペーンによる情報操作によって、講演料から旅行費用までいくらを稼いだのか」と投稿して来た。

その後、彼らの投稿によって唆された多くの人々が著者批判のメールを投稿し、バイオテクの有力研究者の一人は、Chapela の大学からの解雇を要求、さらにAgBioWorldは、同誌の「決定的欠陥」を指摘するキャンペーンを開始した。

圧力に屈した『Nature』誌の編集者は創業133年の歴史をくつがえして、著者二人の意志を無視して、問題となった記事の撤回を同誌上で公表した。

それにしても"Mary Murphy" や"Andura Smetacek"なる人物は誰か。

Bivings Groupはこれら人物との関係を否定。

しかし、"Mary Murphy"と同じホットメールのアカウントから2年前に投稿されたメールアドレスは、bw6.bivwood.com.を含み、これはBivings Groupの子会社が所有するアカウントと同一であることが判明している。

"Andura Smetacek"に関しては、投稿先とされるロンドンあるいはニューヨークでも身元は明らかにされず、また幾たびも同人物が投稿で宣伝している"the Centre For Food and Agricultural Research"は、環境保護家の暴力をウェブサイト上で不当に非難するのみで、実在しない。

しかし同組織のアカウントであるCffar.org のもとに Manuel Theodorov なる人物の登録があるのは事実である。同氏はBivings Woodell の幹部である。

Bivingsは「我々は賞を受けることもある。クライアントしか我々が果たした役割を知らないこともある」と高言している。すなわち「時々」実際の人々は「偽者」に操られていることに気がつかないということになる。

安田節子によるコメント

バイオテク産業や原子力産業に特にいえることだが、人びとが懸念を持つからこそ宣伝工作(プロパガンダ)には多額の金を使い、洗脳のための高度なマーケッティング技術を駆使している。

そして、それはかなり汚いものでもある。

組み換え作物による遺伝子汚染の懸念は当初から研究者たちが指摘し、これまでいくつも事例が上がっていることであって、この論文が撤回されたところで環境汚染がないことの証明にはならない。

ましてやBivings Groupの関与があるとしたらなにをかいわんやである。

(2002/5/30)

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