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2021年04月

「みどりの食料システム戦略 〜食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現〜」中間とりまとめについて
みどりの食料システム戦略〜食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現〜:農林水産省
農水省 みどりの食料システム戦略 中間取りまとめ(pdfファイル)

農水省は上記について、パブリックコメントを募集(〆切4月12日)。ビジョン21は以下の意見書を提出した。

<意見>
現在、EU、米国、中国などを始めとして国際社会は有機農業を希求する大きな潮流にある。EUは2030年まで(あと10年以内に)に農薬使用量を半減し、有機農業を25%に拡大するとした「農場から食卓戦略」を決めた。これまでの農薬多使用、特にネオニコチノイド系農薬が普及し、浸透性、残効性、神経毒性から蜂をはじめとする生物多様性の崩壊が起きており、さらに人体影響、特に子どもたちに現れていることから農薬を使わない有機農業への転換が「待ったなし」だとする人々の強い危機感が背景にある(欧州市民発議が何度も提出されてきた)。

「農場から食卓戦略」は欧州農業のアグロエコロジーへの移行の中核に有機農業を据え、気候危機と生物多様性の危機に対処し、農業システムをより回復力のあるものにする環境へのメリットが実証されている有機農業を食料システムの礎におくというものだ。

「みどりの食料システム戦略」はEUの「農場から食卓戦略」とは志向するものが似て非なるものだ。

まず化学農薬の半減は2050年までにとしており、EUの「農場から食卓戦略」に比べてあまりにも悠長だ。今後も長期間農薬汚染を許すのか。

ネオニコ系代替新規殺虫剤の開発や遺伝子組み換え農薬(RNA農薬)の開発・普及の時間を見越しているからではないか。

農薬削減は有機農業を拡大すれば実現する。これこそが肝なのだ。

しかし、農薬削減を農薬企業による新規農薬やバイテク企業によるRNA農薬などに依存する方向を志向している。加えてスマート農業というハイテク機械化農業を志向している。今日ハイテク農業機械産業はバイエル/モンサント、ダウ/デュポンなどの農薬・バイテク企業らが支配力を強めている分野である。

これら先端技術利用の農業を担うのは自ずと企業となる。「みどりの食料システム戦略」は日本の食料システムの中心は農家ではなく企業農業を据えている。
米国では有機農業に企業参入が相次いでいる。企業は利益のために有機基準を緩める働きかけをして、アニマルウエルフェアの基準を緩和させたり水耕栽培を有機と認証させたりしている。このような動きを日本では阻止できるのだろうか。

有機農業の面積拡大は施策があればスピードアップが可能だ。
諸外国が有機面積を拡大させた端緒は有機給食だ。我が国も財政支援のもと有機無償の学校給食を推進することがもっとも効果的だ。有機給食を政府の公共福祉策として位置付けること。学校給食のみならず病院給食、職員食堂、子ども食堂、フードバンクにも有機食材が行きわたるようにすること。地元での安定的購入先があれば、有機農業の経営安定となり新規参入が増える。地元の有機農地が増えれば環境改善、生物多様性の復元、なにより子どもたちの健康、食育、地域への啓蒙が可能となる。

有機農業技術は有機農家のなかで確立した技術がある。それを普及させるために
地域で有機農業技術を学べる公的機関を普及すること。JAに有機農業普及の指導員を置くことも大事だ。

この「戦略」には農産物輸出に触れているが、日本にとって大事なのは輸出ではなくあまりにも低い自給率を上げることだ。食料戦略というなら「有機自給国家」を目標に掲げるべきだ。日本の農薬残留の高い作物では輸出は困難をきたすので、輸出できる有機農産物を増やそうという近視眼的思惑ではないことを願う。

以上
2021年04月17日更新
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