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2015年12月

多国籍企業のためのTPP

大筋合意の裏側

10月、政府は「TPP大筋合意」を発表した。ハワイでの閣僚会議が決裂した後、たった2ケ月でアトランタの閣僚会議を開いたのは日本が強く開催を求めたからだ。甘利大臣は「大筋合意」の記者会見にこぎつけるために“行司役”を任じた。

4月、安倍首相が米国議会で行ったスピーチで夏までに戦争法制を制定することとTPP合意形成に全力を注ぐことを米国に約束したからだ。

そして、安倍政権は決着済みとばかりに事後対策の検討に着手している。それは、来年の参院選のためにTPP対策予算を農業関係者に早くばら撒いておきたいからだ。

国民をだます安倍首相の傀儡ぶり

国民の関心を戦争法案から経済に向けたい安倍首相は「かつてない規模の人口8億人、世界経済の4割近くを占める広大な経済圏。その中心に日本が参加する。TPPはまさに『国家百年の計』だ」と胸を張り、「守るべきものは守られた」と発言。

もちろん、これは100%嘘。結果は自動車では米国が課す関税2.5%の撤廃は25年後で得るものなし、農産物では関税大幅削減で地滑り的明け渡し。国益のために戦ったとは到底言えない米国の傀儡政権ぶり。

日本は逃れるすべがない

今後、留保や未決着を解決し、完全合意したら協定文書を作成して各国の署名を取る。その後各国は国会承認にこぎつけなければならない。しかも米国の場合、来年は大統領選がある。大統領候補2名(ヒラリー・クリントンとバーニー・サンダース)は、TPPに反対を表明。米国議会もTPP合意案をすんなり認めるはずはないという状況だ。

また批准しない国が出る可能性もあり、「域内GDPの85%、6ヵ国以上の国が賛同すれば2年以内に発効する」というルールを付け加えた。日米どちらかが批准しなければ発効できない。日本は逃れることができない。

米国があせっていない理由とは

しかし米国自身はTPP批准に焦っていないようだ。日本をターゲットにする米国にとってTPP協議と同時に義務付けた日米二国間協議で取りたいものを取ったからで、米国の要求の法的実現を約束した合意文書を取り交わしたからだ。

この中に「SPS(検疫衛生措置)の加速」がある。これは食の安全規制を米国基準に合わせる、それは日本の規制の後退・緩和を意味する。

まともにメリットを説明できない日本政府

当初、内閣府の試算で日本がTPPに参加した場合の経済効果は「GDPを2.7兆円押し上げる」と発表されたがこれは正しくは「10年間で」であった。

そう、1年間でたったの2700億円。最初からTPPでどのような国益があるか? という問いにごまかし、ぼやかしで国民を騙してきた。米韓FTAで韓国自動車が米国の関税撤廃の恩恵を受けるから日本もTPPに早く参加して自動車関税の撤廃をとマスコミは書き立てた。

ところが結果は米国の自動車関税の撤廃は25年も後。現地生産する日本車への部品の関税はなくなったが、生産拠点が海外に移り、輸出で稼ぐ時代ではない。

デメリットは際限がない

一方、農産物は米国のコメが無関税で7万トン輸入上積みが決まり、牛・豚・鶏など食肉の関税は大幅に下がる。ミカンからコンニャクまで関税で守られていた農産品が丸裸同然になり深刻な打撃が農家に及ぶ。関税で国内を守るという国家主権の放棄であり、国民の食料安全保障を失う。そして胃袋を米国に握られる。

「規制」とは企業の自由な営利活動から国民の暮らしを守るためにある。医療、食の安全、環境、労働、金融、教育、中小企業保護など広い分野の法規制がTPPの規制撤廃ルールにより撤廃され、多国籍企業の思うがままの市場を提供することになる。

TPPで恩恵を一身に受ける多国籍企業。TPP推進役の米国の背後にいるのは彼らなのだ。ホワイトハウスにも連邦議会にも多国籍企業の資金が潤沢に流れている。大統領も無縁ではない。大統領選挙に莫大な資金がかかり、企業の莫大な献金がものを言う。

医療、製薬、保険、食肉、アグリビジネス、IT、通信、金融など多国籍企業の要望を取りまとめたのが米国のTPP戦略だ。業界団体のロビイストが米国の交渉団と一体で動いている。

合意書の一部しか公開しなかった日本政府

日本政府は「TPP協定の概要(要旨)」だけを発表した。A4で36ページ(合意書の97ページ分)しかない。英文(フランス語、スペイン語)で公表された合意書テキストは2000ページを超える。日本語訳を外務省は出さない。政府のぼろを隠し、都合よくまとめた概要のみ国民に示す。

またTPP協議において具体的にどうなるかを知ることができるのは各国提案や交渉過程で取り交わした「覚書」などだ。しかしこれらの文書は秘密協定により秘密にされ、発効後も4年間秘密なのだ。

国民や議会の目が届かない闇があるTPP。その真の目的は「多国籍企業による国内法規制の無力化」なのだ。国会批准を許してはならない。(「いのちの講座96号」より)
2015年12月30日更新
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TPPに仕込まれたインターネット監視
「TPP大筋合意」の概要を見れば、聖域5品目に踏み込んだ農産物の関税撤廃、ISD条項など、安倍政権は公約を反故にして、丸裸にした日本をハイエナに差し出すことがわかった。関税自主権を投げ打ち、食料安全保障を失い、国民の胃袋はグローバル大企業群の手に握られる。

日本政府が「大筋合意」を演出し、決着済みとばかりに事後対策の検討に着手しているのは、来年の参院選のためにTPP対策費(税金)を農業関係者に一刻も早くばら撒いておこうという腹なのだろう。票を買って参院選を乗り越えれば、後のことは知らないという無責任、自己チュー政権なのだ。

TPPが成立すれば、食料のみならず、健康、環境や金融制度を巡る支配は、グローバル大企業の手中に落ちる。TPPは、グローバル大企業が自分達の利益の障害だと見なす納税者の権利を保障する政策に、懲罰的な規制を課す権利を与える。TPPはグローバル大企業のクーデターなのだ。

そしてTPPに、インターネット規制・言論弾圧の危険な地雷が埋め込まれた。「TPP協定の概要」の「知的財産」―著作権の項に「WTO・TRIPS協定やACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)と同等又はそれを上回る規範の導入」とある。

・故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を「非親告罪」とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない。
・著作権等の侵害について、「法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度」を設ける。

「非親告罪」とは作者の告訴がなくても当局が自由勝手に監視して、起訴・処罰できる犯罪とし、「法定または追加的損害賠償制度」で懲罰的賠償金を科すというもの。

これはACTAの復活なのだ。ACTAは偽ブランド、模倣品を国際的に取り締まることを名目にした協定だが、著作権の侵害行為を取り締まるためとして作者の告訴がなくても規制当局のネット監視・検閲が許され、摘発して逮捕したり、高額な罰金を科すことができる。違法ダウンロードや2次創作品、引用などを厳格な処罰対象の「違法行為」とする。

米国政権は先に同じ内容のSOPA、PIPAという国内法の導入に失敗した。その後、米国の意を受けた小泉純一郎元首相がACTAを提唱。交渉過程はTPP同様秘密にされ2010年に大筋合意に至った。しかしウイキリークスによりディスカッションペーパーの一部や条約案が流出した。インターネットの自由を侵害するとして激しい反対のうねりが起き、欧州議会はじめACTAの批准否決で、批准国は日本のみに留まっている。死に体だったのが、「ACTAを上回る規範の導入」がTPPに盛り込まれたのだ!

なお、原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合は除くとされているが、影響を与えないかどうかの判断は当局がする。

当局がインターネットを監視する世界を、君よ、想像してご覧。インターネットにアクセスした瞬間、政府の検閲を受けるのだ。もしブログやネットの掲示板などで政府批判や政府に不都合な情報の書き込みをする人はマークされ、誰もが犯してしまう「うっかりミス」を使って著作権侵害として逮捕ができてしまう。言論の自由を奪う危険な装置になり得るのだ。

ACTAを内包したTPPを通して、また直接的に来ている米国の要望の特徴は、「米国化」の拡大だ。米国では、今までの自由なインターネット利用を規制する猛烈な動きが出ている。支配層が市民に隠しておきたいことが、インターネットによってリークされたり、あっという間に広がる、いまの自由で活発な情報のやりとりを不都合と感じており、TPPを使ってインターネット監視=言論弾圧を目論んでいることを見逃してはならない。TPPの国会批准をなんとしても阻止しよう!
2015年12月26日更新
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