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2013年01月

市民社会に希望を灯すアイスランドの民衆の戦い
総選挙の結果、来るべき民主主義の危機の予感に身を引き締めた。民意の反映を阻む選挙制度の欠陥を正さない限り、市民の思いは容易に政治に届かない。自民党が比例区で得たのは1662万票余。大敗した前回09年総選挙の比例区得票(約1881万票)を219万票も減らしている。負けた時の得票よりも少ない票しか得ていない。この票数が民意を表している。

しかし、有権者総数約1億396万人、そのわずか16%、6人に1人の支持で政権に返り咲いた。小選挙区制が自民を圧勝に導いた。しかし、小選挙区でも自民党は09年総選挙より165万票減らしている。小選挙区での「死票」は、全300小選挙区の合計で約3730万票に上った。小選挙区の全得票に占める「死票率」は56.0%で、投票の半分以上が「死票」という選挙はおかしい。小選挙区制度の見直しや違憲である1票の格差解消が必要だ。

しかし、待ったなしに来夏は参議院選挙。米国と軍需関連産業のための威勢のよいエセ愛国とめくらましのグローバル経済救国論に惑わされまい。倫理に根ざした国民主権政治の実現まで、あきらめないで声を上げ続け、何度でも押し寄せ続けようではないか。

お伝えしたいのが、人口わずか32万の島国アイスランド国民の「国家と国際金融資本」に対する勝利のこと。アイスランド国民は、あきらめない戦いで不当な国際債務を、なんと、踏み倒し(!)、国民生活を守り抜いたのです。

アイスランドは1990年代以降、米国のグリーンスパン政策がとられ、金融システムを援助し「金融立国」の道をひた走った。アイスランドに預金すれば高利率で運用する事ができるため海外の投機筋の資金が集まった。

ところが、08年のリーマン・ショックで市場からの資金調達が難しくなると、大手銀行は軒並み行き詰まった。負債総額はGDPの約10倍(!)の約14兆4370億アイスランドクローナ(約9兆2470億円)にのぼったという。2008年以前の金融業以外のアイスランド産業経済は、比較的順調でこれらの経済危機は銀行によって起こされ、ほとんどの大衆は無関係だった。

ハルデ首相【米国ジョンズ・ホプキンス大学出身】は、アイスランドがEUの加盟国でないにもかかわらず、国外からのコントロールに甘んじなければならないとし、唯一の解決策は、欧州同盟とIMFが、アイスランド金融界の債券を政府経由で買い上げ、その巨額の債務をアイスランド政府が引き受けるなら、倒産したアイスランド銀行の投資を英国とオランダが保証するというものだった。

アイスランド国民は激しい民衆運動を展開して、2009年ハルデ首相を辞任に追い込んだ。その結果、新政府は大手3行を救済せずに破綻させ、国内資産を新しい銀行に移し替え、海外投資家が保有する銀行債券の大半を返済せず、踏み倒した。

しかし、新政権は英国やオランダなどの求めにより、これらの国からの預金350万ユーロを民間銀行の負債として利息と共に支払うことを押し進めようとした。350万ユーロはアイスランドの国民ひとりあたり15年間に亘り1ヶ月に100ユーロ程支払わなければならない額に相当する。

反対運動が更に強まって、レファランダム(国民投票)を採用することになった。その結果、2010年に93%の支持率を持って民間銀行の作った債務を国民が引き受けることが正式に反対された。政府は国民の意思に従わざるを得なくなり、英国などから集まっていた預金の保護を拒んだ。そして金融危機の背景にあった前首相を含む審判が行われる事となった。また、国際的圧力からアイスランドを守る為の憲法が制定されることとなった。

海外の投資家は、いまだに11兆アイスランド・クローナ(約7兆円)の債権を回収できていない。「海外に負担を押しつけ自国を救った」(国際金融筋)との批判も浴びたが、アイスランドの人々は、旧、新政権に断固反対し、民衆と関係のないアイスランド銀行への投資家の保証など引き受けない、外国投資家利率の高い銀行預金に投資していたのは外国人投資家であり、彼らの為に、国内の一般人が責任をもたなければならないのか。これが民衆の言い分で一歩も引かなかった。

他の国々では、民間の作り出した債務が公的に責任を取らされる形で国民負担にすり替えられ、困窮が深く進行していった。アイスランドの国民は国際金融機関の餌食にはならなかった。

この結果、アイスランド経済は身軽になった。通貨「クローナ」相場が急落して輸出競争力が高まるなど、輸出が息を吹き返した。ユーロ圏のギリシャやアイルランドと違って独自通貨を持つことも有利に働いた。アイスランド史最大の金融崩壊から経済は3年で回復した。アイスランドの金融崩壊とその経過は、国民が賢明で、正義がなされるまではあきらめないという態度を貫くと国民がどのような事が出来るのかを教えてくれた。

シグフスソン財務相は述べている。「危機前、アイスランドはアメリカ的モデル、新自由主義の価値観に傾いていた。多くの市民が財産や仕事を失い、傷ついたことは決して忘れてはならない。伝統的な北欧の福祉社会を再構築したい」。

私たちも倫理にかなう政治を粘り強く勝ち取っていきたい。来年を良い年にしましょう。(「いのちの講座」78号 2012年12月26日巻頭言から)
2013年01月22日更新
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