タイトル 「食政策センター・ビジョン21」主宰の安田節子公式ウェブサイト/
リンクは自由です(連絡不要)/お問い合わせは管理者まで

安田節子ドットコム

 

2012年07月

「健康と医療」映画上映会のお知らせ
<7月27日 日本有機農業研究会科学部上映会 「健康と医療」>
米国のDVD『明日あるいのち』と『医原死ー 死の医療ビジネス』日本語字幕版が完成しました。この機会にぜひご覧下さい。

日時:2012年7月27日(金) 朝8:50−12:00
場所:東京ウィメンズ・プラザ 視聴覚室ABC
東京都渋谷区神宮前5丁目53ー67  03-5467-1711
渋谷駅から10分、地下鉄 表参道駅から7分 地図
参加費: 800円 当日受付で
主催:日本有機農業研究会科学部
問合せ:03-3818-3078(日本有機農業研究会)
メール:naturelvky@ab.auone-net.jp

■『明日あるいのち』 2011年 アメリカ 89分 字幕版
ガン、慢性病、難病を治すゲルソン療法 近代医学に見放された末期ガンの人々を救ってきたゲルソン協会とゲルソン・クリニック。世界中から患者が押し寄せ、数週間の入院で腫瘍が消えたり改善を見ている。その後自宅で食事療法を継続し大勢が明日あるいのちを迎えている。 ゲルソン博士は、ガンが体が本来必要とする栄養の欠乏と体内に溜まった毒素による変性疾患であること、それが有機栽培の新鮮な野菜と果物による栄養補給とコーヒー浣腸等による解毒によってガンが治り同時に多くの難病や慢性病も治ることを知った。米国医療界からの迫害を受けながら、今では世界中の心ある医師や医療機関が教えを受けている。ゲルソン療法を実践する日本人医師も登場。大勢の生還者と体内で代謝異常を引起す毒性物質や食品を紹介する。

■『医原死ー 死の医療ビジネス』 2011年 アメリカ 99分 字幕版
アメリカでは毎年78万人もの人が医療が原因で死んでいる。製薬会社が病院、政府、医学研究、医学教育、医学情報を握り、利益を最大にするために医療制度を支配している。金儲けのために積極的に病気を作り死に至らせている実態を追う。
TPPで迫るアメリカに日本の医療はどう立ち向かうのか。
2012年07月21日更新
▲最上部へ戻る
「市民と政府の意見交換会〜TPPを考えよう〜」記録から抜粋
日 時:2012年5月22日(火)18:20-21:00
場 所:文京シビックセンター 2F 小ホール
参加者:約170名
主 催:市民と政府のTPP意見交換会・東京実行委員会・・・・
http://tpp-dialogue.blogspot.jp/2012/07/tpp.html
http://am-net.org/

目次
 第1部 有識者によるTPP解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.02
 第2部 政府によるTPP概略説明、有識者と政府協議担当者との対話・・・・p.10
 第3部 会場参加者・有識者と政務三役・政府協議担当者との対話・・・・・・p.22

●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
 私からはTPPの問題の中で食料問題、食の安全に関してお話したいと思います。TPPはこれまでの自由貿易協定の中でも、特異なものだと思います。物品の輸出入貿易とは異なる政府の政策や国内法に外資が押し入る権利を手にする、そういう協定であると見られます。それを象徴しているのが、交渉過程は秘密にするという秘密合意文書があることです。具体的交渉の細かい文書や資料などを一切秘密にして、しかも締約後4年間までこれを明らかにしないということが合意されています。その文書がニュージーランドで市民団体の要求で明らかになりました。
 私たちの生活、環境、食の安全、労働など、様々なものを守るために規制があるわけですが、TPP参加は外国資本の投資利益を妨げる規制を取り払って、国内を明け渡すことになります。それは、私たち一般国民にとって非常に大きな問題をもたらすものですので、その中身がわかる細かいやりとりは国民には知らせないでおこうということになっているのではないかと思います。とくに懸念されるのはISD条項で、この規定によってどのようなことが起こるかということです。これは、企業が相手国の規制によって期待する利益が得られないことがあれば、相手国を訴えて、損害賠償や規制の撤廃をさせることができる、というものです。ISD条項は企業に国家と対等の権利を認めます。多国籍企業群をバックにする米国が主導するTPPに、ISD条項があること。その危険性を認識する必要があります。
 日本では、遺伝子組み換え食品に表示の義務がありますが、TPP加盟国のニュージーランドに撤廃の要求がなされ、また先日発効した米韓FTAでも表示を撤廃せよということになってしまっています。アメリカでは、遺伝子組み換えの表示はいまだ実現していません。表示のないアメリカのアグロ企業にとって輸出先での表示は貿易障壁であり、なくせという理屈です。日本で表示がなくなれば、遺伝子組み換えのトウモロコシや大豆などに加え、今後は米や小麦など新たな遺伝子組み換え食品が今まで以上にどんどん入ってくる可能性があります。これまで日本に表示があるため、遺伝子組み換えは消費者に避けられ、商業栽培しても売れないからとストップしていた遺伝子組み換えの米・小麦が、表示がなくなれば一挙に商業栽培が始まり輸出されてくるでしょう。表示の撤廃は日本にとって非常に大きな影響が出るのではないかと思います。
 政府の説明では、遺伝子組み換えの表示撤廃は議題に上がっていないと言っています。しかし、ISD条項や貿易の技術的障壁に関する(TBT)条項に基づく提訴、さらに今回のニュージーランドや米韓FTAにおいて韓国が被っている状況から見れば、十分にあり得ると思います。
 もう一つ問題なのは、知的所有権の強化です。WTO協定にある知的所有権をさらに強化したものをアメリカは要求しています。例えば、特許期間の延長が行われると、特許切れで安く出回るジェネリック薬が出回らなくなるという問題があります。加えて、私が心配しているのは、アメリカでは普通の種にも特許が取れるということです。そのアメリカ特許スタンダードを日本も受け入れよということになった場合に、日本の種はほとんど輸入ですから、その特許のかかった種を使うということによって、日本の農業、そして私たちの食料安全保障にも多大な影響を与える可能性があると懸念します。
 TPPに参加することで、日本は、アメリカが他国と締結しているFTAにおいて実現している事項や、アメリカが日本政府へ毎年要求してきている項目の実現を求められます。いわゆる「年次改革要望書」から今は「日米経済調和対話」という名前で米国の要求が毎年日本政府に突きつけられています。要求項目としてTPPの交渉分野と重なる幅広い分野の規制緩和や規制撤廃を要求してきています。これまでの要求が国際協定であるTPPで強制力を持つものになります。
 「日米経済調和対話」の要求項目の中で、食品安全分野について申し上げますと、牛肉のBSE問題があります。かつて、アメリカでBSEが発生して、日本は牛肉を禁輸しました。これに対し、アメリカは、報復関税をするという法案を上院に提出して、日本を恫喝しました。その結果、日本は20ヵ月齢以下の牛の肉は全量検査せずに輸入するという後退をしてしまいました。
今、アメリカは、20ヵ月齢から30ヵ月齢以下に緩和すべき、あるいは、月齢制限も撤廃すべきということを要求しています。日本政府はこれを受け入れ、食品安全委員会に月齢制限の緩和を諮問するありさまです。ところが、今年4月に新たにアメリカでBSEが発見されました。これに対して、日本は全く何もしていません。藤村官房長官は「日本は20ヵ月齢以下で規制している。今回発生したのは老齢の牛であって、当然日本には入ってこない。だから全く問題ない」と言っています。では、食品安全委員会に諮問した30ヵ月齢以下に緩和するという内容は見直すのかどうかについては、「今回のBSE感染牛発生は関係ない。これはごく稀な自然発生のBSEである」と米国の言い分をそのまま言っています。この根拠となるデータや調査結果は一切明らかにしないままです。
 米韓FTAに「ラチェット条項」というものがあります。一度規制緩和したら、二度と元に戻してはいけない、というものです。アメリカの牛肉を規制緩和して輸入した場合、たとえBSEが発生しても、この規制緩和を撤回したり強化してはならないという不平等条項です。アメリカは、TPPは米韓FTAを上回る強化したものになると明言しています。そして、今、日本に突きつけている「日米経済調和対話」の要求項目について十分に反映するように、と言っています。
 この要求項目にある食品添加物の認可促進についてお話しします。アメリカは大量の食品添加物を指定しています。その数は3,000にも達します。日本も800以上ありますが、アメリカは「アメリカのような輸出国の食品を受け入れるときには、その国の基準を採用しなければならない」と言っています。米韓FTAでは、「韓国はもはや自分の国で安全審査をする必要はない。輸出国アメリカの基準がクリアされていれば、それはそのまま受け入れろ」と言われています。「遺伝子組み換えの評価や安全性確認もしなくていい。アメリカが安全だと言ったら、韓国は自分のところで審査会を開く必要はない。全部そのまま受け入れろ」という事態にまでなっています。この米韓FTA以上のものがTPPで要求されるということについては、非常に由々しい問題があります。
 そもそも「自由貿易協定」で言う「自由」というのは、多国籍企業の自由であり、その自由を保障するための協定といえます。TPPは露骨にそれが出ています。ポストハーベストという、輸出する農産物の保存のために、収穫後に大量に農薬処理をする方法があります。日本では作物の農薬残留量が非常に多くなるので、ポストハーベストを法律で禁止しています。ところが、輸入農産物がどんどん入ってくるようになって、日本政府は、収穫後に使われた農薬であるということがわかっていても、これを日本の法律で禁止することは日米貿易摩擦になるため、残留規制値を緩めて、アメリカでポストハーベストとして使われた残留農薬を許容するという方便をとりました。しかし、柑橘類について言えば、収穫前には使わない防カビ剤が大量に使われて日本に輸出されてきます。オレンジ、グレープフルーツ、レモン、そしてアメリカンチェリーなどは防カビ剤を塗り込めなければ持ってこられません。その防カビ剤は明らかにポストハーベストです。これを農薬の基準を緩めて認めるということは無理なので、方便として、食品添加物として指定しました。しかし、日本の法律では、食品添加物は表示義務があります。アメリカはこれを嫌い、「日米経済調和対話」でポストハーベストの使用そのものを認めよ、と言ってきています。そうなると、大手を振って非常に高い残留値のポストハーベスト農薬を使用された輸入農産物が大量に入ってくるようになります。また、内外無差別の原則で、国内でもポストハーベストを使用することができるようになります。放射能汚染がないからと輸入農産物に飛びつく消費者が多くいらっしゃるようですけれども、放射能がないだけで、ポストハーベスト農薬、大量の食品添加物、放射線照射、畜産の抗生物質、ホルモン剤、遺伝子組み換えなど、国産に比べて高いリスクがあります。日本の消費者運動がこれまで積み上げてきた食品の安全、人々の健康を守るための規制が崩され、後退していくことになります。これがTPPの正体であり、実は首謀者はアメリカ政府の後ろにいる多国籍企業群なのです。自動車、保険、製薬、アグリビジネス、バイオ、医療、エンターテイメントなど、あらゆる分野の多国籍企業たちのロビーイングがTPPを操っているという構図です。
 日本の経団連がなぜ賛成するかというと、それも多国籍企業の思惑で一致しています。TPPに加盟するベトナムなどにISD条項が使えるといっています。大企業の手前勝手な欲によってTPPが推進されていると思わざるを得ません。

●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
  今、「外交交渉なので秘密ということになれば秘密にせざるを得ない」というお話がありましたが、当事者は国民なんですね。それが、政府代表という形で官僚と、それから利害関係者という形で多国籍企業のロビイストたちが政府を通して色々と意見を言っています。それらの人たちが作った交渉過程の詳細については秘密にする、ということですね。かたや協定は合意成立できてもできなくても、その後四年間はすべてのやりとりを秘密にする、という合意文書があると聞いております。その合意文書は存在するのですか。それをお答えください。
  もう一つ、もしTPP協定を日本が批准すると、国内法の改正が必要になるのでしょうか。例えば、食品衛生法や農薬基準、環境法など、国内で守るべきものを守るための法律がありますが、それよりもTPP協定のほうが上になるのかどうか。この二点をお答えください。

■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
  まず一点目、政府間の外交交渉のやりとりというのは、互いに合意があれば外には出さないというものです。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
 それではなくて、秘密合意文書そのものについてです。TPP協定についての秘密にするという合意文書があるかどうかです。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
 それは、私ども日本政府は伺っておりません。何ら文書は見たことがありません。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
 ニュージーランドでは発表されましたよ。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
  日本政府は、TPPのテキストについては一切見せてもらっていません。こういう交渉をしている、と口頭で言われているだけです。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
では単に、外交交渉だから秘密にしてほしい、と言われたら秘密にします、ということだけのことですか。そういう文書そのものの存在は知らないということでしょうか。
■別所健一(外務省経済局南東アジア経済連携協定交渉室):
  まず日本が、TPP交渉のテキストを入手しているかどうかについてのお答えですが、別途説明資料2というものをお配りしています。こちらの資料は、これまで日本がTPP交渉参加に向けた協議の中で得られた情報収集からまとめたものです。それから9-10ページのところをご覧いただくと、最近の動向ということで、第10回と第11回の交渉会合の中身が書いてあります。9ページに「3.交渉参加に向けて協議を開始する国の扱い」という部分がございます。これは、日本のほかにカナダとメキシコがTPP交渉参加について関心を示しているところです。この中で交渉参加の9か国は、オブザーバー参加や交渉参加前の条文案の共有は認めない、ということの従来方針の再確認をしています。従いまして、我々は今、情報収集活動をしておりますが、テキストそのものについては入手していませんで、関係国から聞いた情報取集の中からお出しできるところはしっかりお出ししようということで、今日お配りしたような資料をいただいています。また、外務省のホームページをご覧いただきますと、出せるものは出していこうということで出しています。
  説明資料3に「TPP協定交渉の現状(分野別)」という2012年3月に発表した資料がございます。昨年には2011年10月の段階として全体で約80ページの資料を出しております。これは、分野ごとにそれぞれ各TPP交渉参加国が今まで結んできたEPA・FTAではどのような規定がなされているか、日本が結んできたEPAでは、どのような規定がそれぞれの分野に含まれているのか、また、慎重に検討を要する可能性がある主な点、我が国が確保したい主なルールについてまとめてお出ししています。
  それから先ほどの秘密交渉という点ですが、ご指摘のように、ニュージーランドの外務貿易省のホームページの中で、TPP交渉中のテキストや交渉の過程で交換される他の文書を秘密扱いにするという記載があるのは承知しております。先ほどから外交交渉ということで申し上げておりますが、一般的に、TPPなどの経済連携に関する外交交渉だけでなく、色々なところで外交交渉を行っておりますが、そのような外交交渉における文書を秘密の扱いにするということにつきましては、ニュージーランドのホームページの中でも、通常の交渉の慣行に沿った扱いである、とされています。一方で、国民的な議論について、情報がないとできない、というご指摘があることは、TPP交渉参加国の中でもそのような議論があるのは承知しております。そのニュージーランドの文書の中でも、TPP交渉参加国は一貫してTPP交渉に関する透明性の向上に尽力する、という記載があります。我々としましても、先ほど外務省や内閣官房のホームページを紹介しました通り、引き続き出せるもの、このような状況でも出せるものは出していきたいと考えています。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
  結局、日本の交渉を代表する人たちは、実態の詳細は知らないで、こういうメリットがあるだろう、というような感覚だけでやっているとしか思えません。テキストを見ることができないのですから。そういう状況で入っていって、実はものすごくデメリットが国民生活にある場合、誰がその責任を取れるのでしょうか。テキストも見ていないのに。そんなものに私たちを引きずり込むのはおかしいではないですか。
先ほどお伺いしたもう一点は、TPP協定に参加した場合、国会で批准する手続きをして、そして、協定に合わない国内法は変えていくのかどうか、ということについてです。それについてお答えください。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
 その前の前段のことですが、私どもは交渉に参加していません。従って、交渉の内容を見せてもらうことはできません。交渉に参加すれば交渉の内容を見せてもらえます。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
交渉に参加してみたら、ひどい内容だったらどうするのですか。交渉に参加する段階でほとんど合意されています。日本が抜けよう、入ったけれどこんな内容だったら出たいとい
う場合は出られるのですか。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
 出られます。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
 出られませんよ。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
 どうしてですか。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
 BSEの例に見るまでもなく、日本はすぐにびびってどうにもなりません。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
  その前に、今おっしゃったことを明らかにしますが、交渉に入るかどうか決めるために事前の協議をしている段階です。もし交渉に参加すれば、テキストを見せてもらえます。それは作成中のテキストです。そのテキストを見て、我々はその交渉をさらに進め、そして日本の国益を実現するための内容を交渉にインプットしていきます。それで、もし最終的に、交渉をした結果が日本の国益に適わないと思えば、参加をしている交渉から最終的に離脱をすることもできます。それから、一番大きいのは国会です。国会で批准をしないということが一番の大きなトリガーになります。
このように、いくつかのポイントがありますが、最終的に日本が条約を批准する段階がございます。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
  待ってください。では、国益に反するという判断はどうすればできるのでしょうか。21分野もありますから、この分野ではいいという人もいれば、この分野では危ないという人もいるでしょう。そのようなときに、全体から見てこれが日本にとって国益に反するというのは誰がどうやって判断するのですか。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
 判断されるのは政府においては内閣総理大臣です。そして国会でございます。

●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
 ISD条項を使って米国政府を日本の企業が訴えるということは可能ですか。
■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
 可能です。もし交渉に入ってTPPにISD条項が採用されれば可能です。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
  もう一つ伺います。アメリカ政府が参加するいくつもの自由貿易協定の中にISD条項が入っています。加盟国の企業からISD条項を使ってアメリカ政府が訴えられて、損害賠償を取られたという事例はありますか。
■別所健一(外務省経済局南東アジア経済連携協定交渉室):
  まず、ISD条項は米韓FTAに関してよくご指摘を受けたりするのは事実でございます。ISD条項は米韓FTAで新しいかというと、必ずしも新しくはないということです。いままで日本が締結してきた経済連携協定と投資協定の多くにございます。このほとんどの中にISD条項が入っています。また米韓や日本のみならず、世界でだいたいどれぐらいの投資協定があるかといえば、3000くらいの投資協定があると言われています。その中で大多数におきましてISD条項の設置が採用されています。
 では、ISD条項でどういう場合に訴えられるか、と言いますと、仮に日本がTPP交渉に入った場合、アメリカ企業から訴えられるかという可能性はあると思います。
 ISD条項の対象となるのは、まず協定に違反をしているということ、それから投資家が実際に損害を被った場合、となります。また、協定の違反について言えば、原則として内国民待遇、つまり、外国人を差別してはいけない、という点についてです。そういうことを行なった場合に訴えられるということです。国家が、例えば食の安全や環境などにおいて、合理的な規制を行うことについては、当然できるということです。
  実際に訴えられたケースがあるかということですが、北米自由貿易協定(NAFTA)の例があります。NAFTAでもう20年近くになりますが、報告資料に基づきますと、訴えられたケースがアメリカ、カナダ、メキシコについてそれぞれ年間1件程度です。ISD条項については、やはり企業が海外に投資をするときに、投資家の投資財産がしっかり守られるということが必要だろうということです。守られるということで予見可能性が高まるということで、そのようなことが必要だということで、投資協定の中核的な規定として含まれているというものであります。
●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
  その説明はレジュメにも書いてあるので結構なんですが、私が質問したのは、アメリカ政府を他の国が訴えて損害賠償を払ったという事例があるかどうか。あるなら具体的な事例をいくつか教えてください。
■別所健一(外務省経済局南東アジア経済連携協定交渉室):
  数字がありましたのでお答えします。いま手元にはNAFTAのケースしかないのですが、アメリカが訴えられたケースは15件ございます。米国が負けたケースは0件です。

■黒田篤郎(内閣官房内閣審議官):
  条約との関係について、条約は国内法に優先します。ですから、ある条約を結ぶ場合にはそれに合わせて国内法を整備する必要があります。条約の内容が国内法と違う場合には、国内法を整備したうえで条約を結ぶというのが通常のことです。

●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
  今のことについて、アメリカはTPP協定より国内法が上、つまり議会承認が必要です。議会が承認しない事項はアメリカは配慮しなくていいということです。アメリカは特殊なんですね。日本の場合は協定が優先ですから、それを採択した場合にはすべて国内法を変えなければなりません。韓国も、米韓FTAはそうなっていますし、アメリカ政府は米韓FTA以上のものをTPPに求めています。アメリカだけは自国の議会の承認があったことだけしか採用しないという、非常に不平等な内容だと思います。

●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
  嘘を言ってはいけないと思います。行政刷新会議などでは、アメリカの要求で日本政府はどんどん規制緩和しているわけです。例えば、遺伝子組み換え食品の表示について、外務省は交渉項目に入っていないとおっしゃっていましたが、そうであれば絶対に撤廃されることはないと断言できるのでしょうか。政府は要求された場合、これを蹴って、TPPから離脱する決意があるかどうか、そういうことはまったくおっしゃらない。情報収集中と言いますが、テキストも見られない中でどうやってやるのですか。すでに他国で進められているのが分かっています。それに対して、日本政府は食の安全を守るのは国益だとおっしゃいましたが、それなら先行的に来ている要求は全て跳ね返すべきでしょう。BSEにしても、遺伝子組み換えにしても、食品添加物、ポストハーベストにしても、要求されたら跳ね返すべきでしょう。それが、どんどん日本では緩和が進んでいます。その上で、TPPに入ってそういう要求が来るかどうかなんて、馬鹿なことを言ってはいけません。もう要求されることは分かっています。それを譲らないという方策と決意が示されるのでしょうか。調査中なんてごまかさないで下さい。

●安田節子(食政策センター・ビジョン21):
内容を調査して公開している、といっても、現時点でどういう影響があるか、結局私たちにとってどういう影響があるのかが全く不明です。ダメな場合は踏みとどまる、参加しないという線引きが見えません。協議の当事者ならもっと知っているはずです。本当に国民を守る気があるのでしょうか。雲をつかむような願いを聞きに来たのではなく具体的にどう守るか、守れないなら入らないという決意が聞きたいです。
2012年07月11日更新
▲最上部へ戻る
[HOME]>[節子の鶏鳴日記]>「2012年07月ログ」

YasudaSetsuko.comAll rights reserved.