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2012年04月

放射性セシウムの食品新基準は内部被爆犠牲者を出すことを容認するもの
4月1日より食品中の放射性物質の新基準がこれまでの暫定基準に代わり施行された。

1.原発事故後のもっとも重大な被ばく源は食品からの体内取り込みだ。
放射線防護の観点から、いかに国民の内部被ばくを防ぐかという思想に立って基準策定されるべきところ、新基準は内部被ばくの犠牲者を出すことを認めるものとなった。

放射線の影響には閾値がないのだから、限りなくゼロを目指して国民の内部被ばくを防ぐ基準を定めるべきだ。その数値にもとづき市場流通前にふるいわけ(スクリーニング)の全ロット測定が実施され、超えたものは東電賠償対象とし、基準以下のものだけ市場に流通する体制を構築するのが政府の責務ではないか。

日本の公衆の被ばく限度は年間1ミリシーベルト以下という法律の定めがある。しかし、1年間運用された暫定基準は、食べる食品の半分が基準ぎりぎりだとして年間17ミリシーベルトの被爆を認めるものだった。これは非常事態の介入値で、安全濃度を示すものではないと政府がいうように、途方もない緩い値であった。新基準は、セシウムについて5分の1に引き下げたというが、暫定基準が途方もない数値であるから、引き下げたといってもなお高過ぎる。

また主食の米について、一般食品と別に厳しい数値が設定されるべきだった。100ベクレルぎりぎりの米を誰が食べたいと思うだろうか。ウクライナ、ベラルーシでは主食のパンには一般食品より低い基準を定めている。流通する米は一桁レベルの規制値にしない限り、生産者も米流通業者も消費者の懸念のはざまで対応に苦慮するだけだ。


2.セシウムの基準値のみで、ストロンチウムなど他の核種の基準値が定められていない。
政府はセシウム値に他の核種を比率に応じて考慮していると言い訳をしている。同じ理屈で暫定基準のときもストロンチウムの基準は示されなかった。基準値がなければ考慮されず、検査体制の構築や実質的規制はなされない。

わけてもストロンチウムの基準は不可欠だ。なぜならストロンチウムは作物のみならず、魚介類にも取り込まれやすい。事故後1年から2年に魚の汚染のピークが来ると言われている。

計測器配備や検査体制に費用と労を惜しむようでは、本気で被爆防護を考えているとは思えない。ストロンチウムはベータ線核種であるため体内への摂取後に毒性を示す。化学的性質がカルシウムに似ているため、骨に蓄積される。そのため生物的半減期が長く、セシウムと異なり次第に蓄積されていく。食品にわずかしか含まれていないとしても危険性が高くなるのだ。


3.乳児食品と牛乳に50ベクレルはとうてい許容できない。
ゼロであるべきだ。細胞分裂が活発で成人の何倍も影響を受ける乳児や子どもたちを内部被ばくから守るためにはゼロ基準でなければならない。しかもゼロ基準の達成は不可能ではない。乳業メーカーは輸出向け粉ミルクは汚染ゼロを保障して輸出しているのだ。

現在、乳業メーカーは多くの酪農家から集めた原乳をクーラーステーションでミックスした後、計測している。高い汚染の原乳があっても薄まり規制値をクリアーすればよしとしている。酪農家の牛を個別に検査し、汚染牛を特定するというきめ細かい作業を続ければ、汚染のある原乳の混入はなくなる。

牛乳だけでなく米も茶も同様で、きめ細かな測定による汚染源の特定と排除が最も被ばく防止に有効だが、それはコストがかかるからしないで、ミックスして基準値以下に薄まればよしとする、業界にやさしい食品流通規制を続けていては国民全体が内部被ばくさせられるのは必至だ。


4.飲料水の10ベクレルはあまりにも高い。
ちなみに飲料水の基準は米国0.111ベクレル、ドイツ0.5ベクレルだ。現在いずれの浄水場も計測値は検出限界以下となっている。検出限界値は小数点以下だ。実現できている小数点以下の規制値にすべきだが、なぜしないのか。あえてWHO基準の高い数値を持ってくる意図はどこにあるのか。再び飲料水の汚染が起こりうると想定しているのかもしれない。


5.幼児、子ども、妊婦への配慮がない。
乳児食品と牛乳以外の一般食品はおしなべて100ベクレルだ。半分は汚染のない食品で、残り半分がこのレベルぎりぎりの食品を摂取したとする前提で、一般食品に割り当てる線量は、1mSv/年から「飲料水」の線量(約0.1mSv/年)を差し引いた約0.9mSv/年としている。これは内部被ばくだけで、だ。

ドイツ放射線防護令では、公衆の年間放射線被ばくの制限値を0.3ミリシーベルトとしている。この基準を守るためには、セシウム137の制限値は子どもと青少年に対しては食品1キロ当たり4ベクレルを、大人は8ベクレルを超えるべきではないと勧告している。それでも年間0.3ミリシーベルト被ばくすると、国際放射線防護委員会(ICRP)のリスク数を使用した場合、10万人当たり1〜2人が新たに癌で死亡する結果となる。

日本は半分は汚染していない食品という前提だから、ドイツ放射線防護令からすると、6倍くらいになるのではないか。日本の年間1ミリシーベルトの被ばく限度はICRPの基準を参考にしている。放射線防護の考えは出来る限り被ばくは最小化するという原則があったが、ICRPは「ALARA(As Low As Reasonably Achievable)」Reasonablyを挿入したアララの原則にすり替えた。合理的、現実的に達成できる限り、低くというもの。「合理的」とは経済性の観点から決められる。

新基準は明らかに経済性優先で放射線防護がその下に置かれている。日本政府はアララの原則に則って基準を決めている。多くの内部被ばくの犠牲者を生むことを承知しての基準であり、とうてい納得できるものではない。


6.米、牛肉、大豆については、米、牛肉は2012年9月まで、大豆は12月まで暫定規制値500ベクレルの適用が続く。
また加工食品については、

3月31日までに製造、加工された食品は暫定規制値を賞味期限まで認める
9月30日までに製造、加工された米、肉を原料とする加工食品は賞味期限まで認める
12月31日までに製造、加工、された大豆食品は賞味期限まで認める

となっているため、2本立ての基準となり、500ベクレルの食品も流通することになる。注意が必要だ。

それにしても現状は加工食品原料やコンビニ弁当など放射能検査はほとんどされていない。食品企業やコンビニ各社に新基準より厳しい自主基準を定め、放射能検査体制を敷き、数値を公表するよう電話を集中させよう!
2012年04月06日更新
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