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2009年05月

豚新型インフルエンザは高密度の養豚場から発生
四月初旬にメキシコで、豚由来のインフルエンザウイルスが分離され、ヒトからヒトに感染する新型インフルエンザと認定されました。豚インフルエンザは、本来、人には感染しにくいのですが、今回は、ヒトに感染しやすくなり、ヒト―ヒト感染を起こしたのです。

五月六日現在、二三カ国において豚インフルエンザ感染と確定されたのが一八九三例、そのうち死亡が三一人(メキシコ二九人、米国二人)です。いまのところ、発生元のメキシコと米国以外では重篤には至らないようです。しかし、都市の人口集中や活発な国際的往来から、短期間に地球全体に蔓延するパンデミック(感染爆発)が警戒されています。

メキシコの各新聞は、今回のインフルエンザの発生源を、世界最大の養豚会社である米国スミスフィールドフード社が経営する高密度の養豚場だと伝えています。発生が始まったと見られるラグロリア村に同社子会社の養豚場があります。ここでは五万六千頭の雌豚から、年間九五万頭(〇八年度)の豚が生産されています。この養豚場は、管理が不衛生だとして以前から悪評が高く、住民やジャーナリストたちは、ウイルスがこの養豚場の豚において進化し、その後、ウイルスを含む廃棄物(糞や死体など)によって汚染された水やハエなどを介して人間に感染したと主張しています。三月の初め頃から住民に「風邪から短期間に重度の呼吸器疾患となる伝染性の病気」が蔓延していたことがレポートされていました。密飼いだとストレスで豚は病気になりやすく、そのため抗生物質など薬剤が日常的に投与されることになります。その結果、抗生物質耐性菌の出現やウイルスの変異が引き起こされるのです。

近年、狂牛病、鳥インフルエンザ、そして今回の豚インフルエンザと、次々に、畜産現場からこれまでにない脅威が人間にもたらされています。

今日では、鶏も牛も豚も、みな、徹底した効率主義による大量生産の集団肥育が一般的です。たとえば、米国の肉牛生産は、五万頭から一〇万頭単位の大規模な集団肥育で、牛は狭い囲いの中に押し込められ、より早く、より太らせるために、青草の代わりにトウモロコシや大豆などの濃厚飼料をひたすら食べさせられます。加えて、病気の発生を防ぐために抗生物質を投与され、肥育効率を高めるためにホルモン剤も与えられます。

世界を震撼させた狂牛病は、廃肉処理で生産した肉骨粉を牛に食べさせるという究極の効率的リサイクルが生み出した災禍です。

また、近代養鶏では、飼育羽数は数十万から百万単位です。太陽光も無い環境で、狭いケージで密飼いされ、自然では口にしないような餌(薬剤、飼料添加物、組み換えトウモロコシなど)を与えられています。もともと病原性は低い鳥インフルエンザウイルスが、大規模密飼いの群れの中で短期間循環した後、強い病原性に変異することが知られています。

なおトリからヒトへの感染は(強い接触以外)起こりにくいのですが、豚が強い病原性に変異した鳥インフルエンザに感染し、豚の体内で人に感染するタイプが作られることが懸念されています。ブタ―ヒト感染、ヒト―ヒト感染となって広がれば、パンデミックは起こるかもしれないのです。

工業的大規模畜産はつまるところ、安い畜産物を大量に消費する私たちの食べ方が必要としてきたといえます。人間は家畜を工業製品のように扱い、早く、安く、大量に生産することを求めてきました。その結果が、病体で薬漬けの家畜を生み出してきたのです。

生き物が健康に育つためには良好な環境で、正しい食べ物を食べ、必要な時間をかけて成長することです。「(健康な家畜による)質の良いものを選び、それを少し食べる」――それは、生活習慣病にならない健康を守る食べ方でもあります。消費者の食べ方が生産現場を変えていくのです。
2009年05月11日更新
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<映画案内>「キング・コーンー世界を作る魔法の一粒」(原題:King Corn)
アメリカ人の体はコーンでできている。二人の青年が、アメリカ人が口にするほとんどの食品に含まれているというコーンの実態に迫る。

飲料や加工食品にはコーンシロップから作れた異性化糖が含まれるし、家畜はコーンを飼料に育てられる。食品以外にもバイオエタノールなどもある。その多様な用途は現代の食品の「王様」といえよう。

ふたりはコーンの国内最大の産地アイオワで1エーカーの畑を借りてコーン生産を体験する。機械により35000粒を18分で播き終えてしまう。

GMコーンを大量の化学肥料で育てる。収穫物は買値が安いため生産費を割り込んでマイナスになるが、政府補助金を受けてはじめて儲けがでる。米国で生産されるトウモロコシのうち、人が食べるスイートコーンやポップコーンなどは全体の1割、あとは品種改良ででんぷん質ばかりのデントコーンが占め、飼料やコーンシロップの原料として使う工業用コーンなのだ。

コーンで育てる牛は牧草の倍のスピードで大きくなる。工業化した農業によって食品価格を極端に引き下げた。ハンバーガーが99セントになったが、安い食品は高い代償につながる。コーンで育った牛は胃酸過多で胃に穴が開くほど。病的肥満の牛を食べれば人間も肥満になる。ハンバーグが安いので貧困層はハンバーグばかり食べて病気になる。

ウルフ監督は「食品、飼料、燃料までたったひとつの植物に託すなんて危険すぎる。アメリカはコーン依存から脱するべきだ」「農業の産業化で、独占と集中がひどくなっている。各地でローカルな農業を尊重し、多様な作物を育てるべきだ」と述べている。この映画製作のあと、監督はNYのブルックリンに産地直送・有機食品を扱う店を開いた。

お勧めのドキュメンタリーです。

(監督・製作 アーロン・ウルフ 2007年米国/1時間30分)
09年4月25日(土)よりシアター・イメージフォーラム(渋谷)で公開
【映画】キング・コーン|KING CORN 公式サイト(DVDの販売もあり)
2009年05月01日更新
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