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2006年09月

日本の新農政と映画「食の未来」
8月28日、有機農業研究会主催のシンポ「崩食の時代を、農政のあり方から問う」が開催されました。8名のベテランの有機生産者、学者の方々が、各地での有機農業の奮闘と農政問題とのかかわりを語り、考えさせられました。

新しい農政ではまとまった規模の営農をする担い手農家に限って支援をするという方向転換が決まりました。内地で4ヘクタール以上の農家、(北海道では10ヘクタール)、あるいは集落営農の場合は20ヘクタール以上という規模以外は助成の対象から外れます。
シンポジストのおひとり、星寛治さんは、これは高齢者が身の置き所の無い不毛の政策であり、数年足らずで、ますます崩壊が進むだろうと述べました。

さらに、この政策はなにを意味するのか。これは土地の囲い込みが狙いだというのです。豪雪で名を馳せた新潟津南の鶴巻さんは7戸の農家のうち、3戸はすでにリタイアーしている。村落機能は維持できなくなりつつあるとのこと。高齢化と離農、これはいま全国過疎の村々で起こって現実です。まもなく、民間資本が崩壊した地域を村ごと買取る、そのあと、多国籍企業が大資本をバックに参入してくるという星さんの予測に肌寒い思いがしました。家族農家を追い出した土地で彼らはなにをするでしょうか。

米国政府が日本政府に毎年突きつける「年次改革要望書」の存在が明らかになっていますが、このあらゆる分野にわたる要求は実は日本まるごと売り渡し要求なのです。農政も例外ではないと感じました。日本政府はこの要求に忠実に動いているのです。

星さんによれば、来年度から環境農政ということで、環境保全型農家への支援策が具現化されるが、これは共同して取り組むことが要件で、個人、小グループの有機農家では支援は受けられない仕組みになっているそうです。地域一体となって環境保全型農業をしている地域がどれほどあるでしょう?農薬の空中散布と戦い、有機JAS認証の費用と手続きに泣かされ、輸入有機に脅かされながらもなんとかぎりぎりがんばっているのが全国の有機農家の実態です。この新農政によって家族農家が消えようとしています。これは私たちが望む方向でしょうか?

米国ドキュメンタリー映画日本語版「食の未来」のなかで、米国サウスダコタやネブラスカは他の8つの州とならんで州法改正により家族農業以外の農業を禁止したと伝えています。家族農家はそこに住み続け、次世代に引き継ぐためにその地域の環境を守り、得た通貨は地域で使用してお金が地域に回ります。しかし、企業の場合、利益が上がらなくなれば打ち捨てて他へ移るだけですし、そこで得たお金は遠い都会の本社へ行って、新たな投資に使われ、地元には還元しません。地域は環境資源を収奪されるだけです。

農薬、化学肥料、大規模モノカルチャー(単一作物)の近代農業は遺伝子組み換え作物を生み出し、不公正な補助金制度やWTOの自由化協定をバックに各国の農民を土地から追い出しを図っていることが見えてきます。権利の保護もいらない食うや食わずの安い労働力が世界中に大量に生み出されています。

でもこの方向に「ノー!」という変化は確実に起こっています。この映画の上映運動が、2004年3月加州メンドシノ郡の遺伝子組み換えの食品と家畜を禁止する法律制定に影響。4月、バーモント州は、遺伝子組み換え製品に対する登録と表示が必要な最初の州となりました。メンドシノ法が署名されて以来、1ダースものカリフォルニアの自治体が、同様の法律を作成したそうです。「食の未来」はいまの食・農問題の隠された本質が見えてくる必見の映画です。ぜひ上映会を全国で開催してください。(「いのちの講座」41号2006.8.30発行 巻頭言より)
2006年09月01日更新
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