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2004年03月

「食品の安全と貿易自由化」 2004.1.30 ATTAC ジャパン学習会で行った報告

WTOとFTA交渉などグローバリゼーションが進む中で食の安全はどうなるのでしょうか。

まず第一は基礎的食料を自給する主権の侵害が挙げられます。WTOの「農業協定」により、日本は米を含めほぼすべての農産物を自由化し、輸入数量制限を撤廃して関税におきかえています。

昨年8月メキシコのカンクン閣僚会議ではこの関税率の削減のため、関税率に上限をもうけることが大枠合意案となっています。現在490%の高関税によって国産米は守られていますが、これからの交渉再開で、例えば上限200%に設定されたなら国内価格より安く輸入米がどっと入ってくることになります。関税は順次下げていき将来はゼロにすることになっているので、このままいけば国内の水田は遠からず消える日が来ます。私たちの心の原風景であり、環境と食料基盤である水田が消えたら、もはや国家として存立し得ない、日本の危機と思います。

第二は、「衛生及び植物検疫に係わる措置の適用に関する協定」(SPS協定)による食品の安全基準の緩和です。

日本は自給率のきわめて低い、世界一の食料輸入大国です。輸入食品の受け入れのために安全基準の緩和が行われ食品安全行政は後退するばかりです。輸出国が輸入国の安全基準のためにコストを負うことは貿易障壁とされるからです。輸出国側の都合に合わせた結果、収穫後農薬(ポストハーベスト)の容認・食品添加物の使用拡大、抗生物質、ホルモン剤の畜産物残留の容認・遺伝子組み換え食品の輸入がなされ、今後は放射線照射食品認可の圧力が強まることが心配です。

また、国内の環境、農業を守るための水際の検疫措置も自由化の名の下に迅速化・簡略化が求められて緩和され、日本にない病気や害虫、外来生物などの進入によって環境・生態系や農業へのダメージが懸念されています。

今回米国で発生したBSE(牛海綿状脳症)による牛肉輸入禁止の検疫措置に対しても輸入再開を求める米国の不当な圧力があります。日本政府も協議に応じていることに不信を抱かざるを得ません。国際機関の国際獣疫事務局が牛肉の輸出ができるBSE清浄国の条件として、BSE発生国はBSEの最後の発生例から7年以上経過していることを挙げています。どの発生国もこれに従っているのです。米国は清浄国をめざして努力をすべきなのです。

第三は、グローバル競争の加速、進展により食べものが効率と採算性だけで生産されるようになったことです。いまやどの国でも近代養鶏による農場は何万羽、何十万羽という単位の大規模生産を行っています。狭いケージでの密飼いと自然では口にしないような餌(薬漬け、共食い、廃棄物、組み換えトウモロコシなど)を与えられ、動物の生理を無視した虐待といえるような劣悪な環境で飼われています。鳥インフルエンザの世界同時多発と蔓延はその結果の象徴的現象ではないでしょうか。

もともとそこらにいる低病原性のウイルスが、反自然の飼い方によりすっかり生命力が弱まり、免疫力の低下した鶏の群れの中で短期間循環した後に強い病原性ウイルスに突然変異したのではないかとの指摘もあります。

タイや中国などアジアの発生農場の映像を見るとやはり大規模でケージ飼いをしています。輸出産業として鶏肉の大量生産が行われているからです。WHO(世界保健機関)によれば鳥インフルエンザウイルスが人から人への感染力をもつ「新型ウイルス」に変異し大流行した場合、最悪のシナリオでは死者は5億人に達し、社会崩壊の危機となると警告しています。ウイルスに強い健康な鶏を作る有機生産に変えるべきです。

第四は、公正な自由貿易ではないということです。輸出国米国は手厚い価格支持政策と輸出補助政策を維持し、価格を「歪める」助成金を撤廃しないままです。カーネギー国際平和研究所の報告書 (2003年11月)によれば、1994年にNAFTAが発効して以来、メキシコで130万人の農民が仕事を失いました。

また1998年の米国農務省の報告書によれば、米国で1979年〜1998年の20年間に30万を越える家族農場が廃業しています。補助金は支援を必要とする小さな農民にはたどり着きません。連邦政府が1995年〜2002年に農場助成金として1140億ドルを費やしていますが、最も大きな農場のトップの10パーセントを占める企業アグリビジネスが、補助金のおよそ3分の2を手にしています。
結局WTOやFTAのグローバリゼーションとは多国籍企業に利するだけのもので環境や地域農業を破壊し、食の安全を脅かす以外のなにものでもないと思います。
2004年03月28日更新
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