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2004年02月

あきらめないで
2月3日、ついに陸上自衛隊の第1陣となる施設部隊(約80人)がイラクに出発する。後の歴史にこれが日本の曲がり角となった日と記されるだろう。憲法を守る責務のある総理も国会も、自らが憲法をないがしろにし、国民主権、平和国家を危うくする道へ踏み出した。

武装した自衛隊は軍隊であり、標的になることは間違いない。給水事業は民間に比べ法外なコストをかけたうえ、微々たる量でしかないという。しかも作ってもいつ破壊されるかもわからない状況にある。本気で給水事業のために行くのではないことが透けて見える。米国との約束でまず派遣ありきなのだ。給水事業は国内説得の方便でしかない。

いつ、どういう状況になれば撤収するということすら明らかにしないまま、イラクに派兵することの無謀、無責任。隊員が攻撃を受けて死亡するようなことが起きても、それを理由に撤収はできまい。民間組織ではなく、軍隊だからだ。駐留十年という予測もある。国民に重い負担となるだろう。

国民の多くは自衛隊のイラク派兵に反対であるにもかかわらず、既成事実の積み重ねの前に「ここまできたらしかたがない」というあきらめの思いが強まっているようにみえる。でもあきらめてはいけない。あきらめは容認であり、支持することなのだ。「これは間違っている」と反対の意志を強固に持ち続け表明していこう。

二度にわたる世界戦争と殺戮の教訓、原爆という帰結を招いた侵略戦争の教訓、誰も勝利しなかったベトナムの教訓、終わりの見えないパレスチナ紛争の教訓、そして9.11テロ事件……。武力では何も解決できなかった。

私たちの心の奥底に持っている願いこそが真実なもの。真実な思いはいつかきっと世界を変える。だからあきらめないで。

『いのちの講座28号(2月号)』巻頭言より
2004年02月24日
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米国BSE(牛海綿状脳症)と日本の対応
米国がBSE発生国となり、日本政府は米国産牛肉の輸入禁止措置をとった。しかし米側は日本に早期の禁止解除に向けた対応を要請、1月15日には日米農水トップの電話協議が行われ、輸入再開にむけた協議を本格化することが合意されたという。日本政府は解禁の条件として、少なくとも対日輸出分の全頭検査と脳や脊髄などの特定危険部位の除去の徹底を求める方針だという。

一方、米側は全頭検査に消極的であり、また業者からの輸入再開を求める国内の突き上げもあり、条件を緩和して輸入再開してしまうのではないかとの疑念も拭えない。

しかし、安全確保が明確でない状況で禁止・解除を行えば取り返しのつかないリスクをもたらし、消費者の不信と牛肉離れを拡大するだけだ。

そもそも、国際獣疫事務局(OIE)の基準では、BSE発生国に対し、8年間新たな発生がないことが確認され、清浄国と認められるまでは輸入禁止措置となっている。日本はどの発生国に対してもこの措置を取っているのに、米国だけを特別扱いして協議に入っているのは納得できない。米国に対し、国際基準に則り、清浄国になるまで禁止と通告するべきだろう。

もしも米側が日本向けの全頭検査を受け入れれば解禁してもよいのだろうか。いや、米国のBSE管理体制は日本とは比べ物にならないほど杜撰なものである。

そもそも牛の頭数からして桁違いだ。1億頭の牛が飼育され、食肉処理頭数は年間3500万頭という。米国は牛の検査頭数をこれまでの2万頭から4万頭に引き上げることをもって禁輸解除につなげたい意向だが、それは食肉処理頭数のわずか0.1%にすぎない。

97年に肉骨粉を禁止したが、いまも数百もの違法使用の実態が報告され、牛の肉骨粉は豚、鶏に認めているため交差汚染が指摘されている。特定危険部位は廃棄ではなく、食品原料や肉骨粉への加工もされている。BSE牛が混じっている可能性のあるダウナー牛(起立・歩行困難な牛)の検査・調査不備、闇市場への流入、危険部位除去方法の不徹底など米国のBSE規制はなにひとつ満足にされていない。

さらに米国は骨周りの肉を機械で削り取ったり、肉が付着した骨を粉砕して肉を篩いとる機械解体肉に、危険な脊髄神経細胞片が含まれることから今回食用禁止とした。ひき肉やミートボールなどの加工原料になる危ないくず肉は、すでに輸入されたものの回収措置はとられていない。

また特定危険部位が昨年1月から784トン輸入されていた。背骨付きTボーンステーキ、液状スープ・牛脂、健康食品などだ。これとは別に子牛の脳も輸入され、すでにほとんどが消費されていた。

日本の規制の施行が2月中旬のため、現時点では回収命令はだせず、販売自粛にとどまっている。こういう時こそ超法規的措置を取るべきで、国民を本気で守ろうとしているのかと問わざるをえない。

それにしても食品のグローバリゼーションの落とし穴を見せ付けられる事態ではある。需給逼迫と騒ぐ前に、食べ方を考え直す機会としたいものだ。(「週刊農林」 2月5日号記事より)
2004年02月10日
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国家の基本は農にある
小泉政権は大義なき米国の軍事占領に加担し、自衛隊のイラク派兵を強行しました。次は憲法9条を取り払おうと動きだしています。

いつか来た道へ踏み出させてはなりません。国際社会に名誉ある地位を築けるのは「力」の国家ではなく、奪わない、殺さない、むさぼらない「倫理」ある国家です。それが9条の示す精神ではないかと思います。

いま、私が日本の危機と感じるのは、イラク派兵ともうひとつは農業です。日本の穀物自給率は世界にまれな28%という低さに落ちています。米の関税を下げる交渉がWTOで進められて、数年しないで輸入米がどっと入ってくる事態にあります。あと10年もしないで20%を切ると予測されています。

それはもはや独立国家の体をなさない数字です。フランスのドゴール元大統領は「独立国家とは食料自給のできる国」と言いました。国家の基は農です。農業を大事にし、盛んにして将来にわたって国土の環境を守り、少なくとも基本的穀物は自給し、国民を飢えさせないようにするのが国家の第一の仕事と思います。輸入食料依存は国家の自立を奪うのみならず、米国のBSE発生にみるように、さまざまなリスクを食卓にもたらしています。

また、国内農業の在り方も問わねばなりません。国民が医療費に使ったお金が30兆円を超えています。農薬・化学肥料依存から、有機農業へ転換を促さねばなりません。きれいな空気と水とたくさんの微生物がいる健康な土、それが健康な作物を作り、国民の健康を取り戻す鍵となるでしょう。

いま、産業革命以来、追い求めてきた価値観の転換を図らなければ人類の未来はないところまで来ています。人類が欲望を肥大化させた結果が、今日の環境破壊であり、戦争を引き起こす原因となっています。命が軽んじられ、拝金主義が蔓延しています。他者や他の生きものとの関係性の薄さが「心の荒廃」を広げています。

新しい年、「拡大」ではなく「循環」へ。「利己的欲望」ではなく「共生」を。ビジョンをかかげ、変革を期していきます。

(27号(2004年1月)巻頭言より)
2004年02月09日
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鳥インフルエンザ発生に思う
■飼養羽数に注目

2004年1月、山口県の採卵鶏農場で、強い病原性の鳥インフルエンザが発生しました。わが国で同病が発生したのは1925年(大正14年)以来、79年ぶりといいます。

同農場では発生前に飼育していた約3万5千羽のうち、1万5千羽(全体の43%)が病死、残り2万羽が殺処分されました。いまや一農場での飼養羽数が何万羽というのが当たり前となっていますが、この飼い方を心に留めて、問題を見る必要があります。


■家畜大量処分の世紀末的様相

韓国、ベトナム、タイ、カンボジャ、台湾でも発生が確認され東アジア全体に感染が広がってきているます。人にも死者が出始めています。過去にこのように広範な地域に同時多発した例はないそうです。

鳥インフルエンザは直接人間に感染しにくいのですが、人間や豚のように、鳥と人のインフルエンザの両方に感染する動物の体内で鳥インフルエンザウイルスが人から人への感染力をもつ「新型ウイルス」に変異する可能性があります。

WHO(世界保健機関)が「新型ウイルス」出現を警告し、いま、その危険性が高まっています。もし大流行した場合、最悪のシナリオでは死者は5億人に達し、社会崩壊の危機となると指摘されてます。

鶏肉輸出国タイは鳥インフルエンザ発生によって輸入禁止に見舞われ、タイ経済にとって大打撃となるのは必至です。中国も戦々恐々です。

BSEといい、鳥インフルエンザといい、人への感染が恐れられ、家畜が大量に処分されるという世紀末的様相を呈しています。


■野生種では弱い病原性が強くなってしまう仕組み

渡りをする水鳥──特に野ガモ──は鳥インフルエンザウイルスを自然保有していますが、抵抗性を持っており、ウイルスの病原性は低い。しかし、この低病原性ウイルスは人間が飼っている鶏など家禽の群れの中で短期間循環した後に強い病原性ウイルスに突然変異し得ることが知られています。

例えば米国で1983〜1984年の流行時、当初低い死亡率であったのが、6ヶ月の間に強い病原性となり、90%近い死亡率を持つようになり、1,700万羽以上の鶏が殺処分されました。イタリアでの1999〜2001年の流行では9ヶ月以内に強い病原性に変異し、1,300万羽以上のトリが死亡ないしは処分されたといいます。

野生種にとっては自然保有する低病原性のウイルスが、家禽の群れのなかで循環するうち、強い病原性に変異し、さらにそれが人や豚などの体内で人のインフルエンザウイルスと遭遇した場合、人から人への感染性を獲得することが懸念されているのです。


■解決策について

野生種に比べ家禽は栄養過多も含め不自然な飼育環境に置かれていることから、免疫力が低下しています。また、抗生物質など、薬剤漬けが体内で病原菌の変異を促し、ひとたび病気が発生すると密飼いのためまたたくまに伝播してしまうのです。言ってみれば人間が引き起こした人災とも言えます。

わが国では防衛方法として、渡り鳥が鶏舎に入って鶏に感染させないよう鶏を野鳥から隔離するよう指導が始まっています。その考えでいけばウインドレス鶏舎にしなければなりません。さらにアイガモ農法禁止、平飼い養鶏禁止となっていきはしないでしょうか。野鳥との隔離など、ナンセンスです。

自然に近い飼い方で、免疫力を備えた健康な鶏をめざすことが唯一の解決方法ではないでしょうか。感受性のある生き物を工業製品のように扱い、出来うる限り効率的に、安く、大量に、生産することをめざしてきた近代畜産のあり方と私たちの食べ方を方向転換しないと人類の未来も危ないところへ来たような気がします。
2004年02月05日
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食品中のカドミウム汚染濃度基準について

現在、日本のコメのカドミウム基準は1ppmだ。
玄米の場合1ppm以上のカドミウム米は販売禁止で焼却処分されている。
0.4ppm以上1ppm未満のカドミウム米は政府が買い入れ、非食用(合板用のり等)に処理されている。だから流通しているのは0.4未満の米ということになる。

1998年以降、国際規格(コーデックス)委員会が食品中のカドミウム許容値の新たな基準設定を検討している。穀類、野菜、肉類などに基準値原案が提案された(コメに0.2ppm)。

なお、日本の食糧庁が全国の米のカドミ含有量調査(1997、1998)を行ったが、総分析地点の3.2%が0.2を超えており、国際規格(コーデックス)の新基準が0.2ppmになった場合、全国であらたに約30万トンの米が基準を超え、焼却にまわされることになる。土壌入れ替えの対象地も現在の10倍以上の8万ヘクタール程度に拡大することになる。

コーデックス委員会が関係各国に対してカドミウム基準値原案に対するコメントを要請(締め切りは2003年12月15日)
日本政府の修正案はコメに0.4ppmというもの。

コーデックス委員会に提出するまえに行われたパブリックコメント募集に以下の意見を提出した。

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「食品中のカドミウムなど環境汚染物質のリスク管理について」意見
日本有機農業研究会理事 安田節子

1)食品の安全基準値として、0.1〜0.2ppmに設定すべき

カドミウムは微量に取り続けても排出されにくく、身体に蓄積し続ける。ある一定量をこえたところで腎臓機能を徐々に破壊し、腎尿細管障害、骨軟化症、骨粗しょう症、死亡リスクの増加が起こる。日本の疫学調査によれば、食べている米のカドミ濃度が0.1ppm付近を越えると腎臓に障害が出る率が高くなっている。

日本人は1日平均約50μgを食事や飲み物を通じて摂取するといわれ、国際的にみて、摂取量が高い。日本ではこれ以上カドミニウムの摂取量を増やさないよう、対処することが必要である。

コーデックス委員会は食品中のカドミウムの新基準は0.2から0.4ppmの間で検討されるとみられる。

韓国は00年から米のカドミ濃度の安全基準として0.2ppmを採用
欧州連合は02年4月5日、0.2ppmとする規則を発効させた。

ほかの多くの国も0.1から0.5ppmを採用しており、米を主食にする日本が1ppmという規制の甘さが際立つ。世界に慢性カドミウム中毒のおそろしさを知らせたイタイイタイ病の発生国として、国際的に恥ずかしくない基準を示すべき。

以上の理由から日本は食品の安全基準値としては、0.1〜0.2に設定すべきである。


2) モニタリング実施と情報公開

摂取量が多くカドミウムが比較的多くなりやすい米、貝類、魚類、豆類などのモニタリング実施、濃度に応じた対策、公表の仕組み作り。


3)カドミウム生産、輸入、製品消費を減らす施策

休廃止になった鉱山からの流出水の汚染や、日本のカドミ生産量は世界一、消費量は世界の消費量の約40%であり圧倒的に世界一である。

ニッカド電池をはじめ、カドミウム製品を分別し、環境中に放出しない施策


4)食品中の鉛 コーデックス基準値案との比較では、その食品の半分近くが基準値を超えているものが数種類もあり、鉛汚染の実態調査、健康影響調査、および情報公開と原因究明・対策が必要

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続いて12月12日に開催された意見交換会にて意見を述べた。

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農林水産省消費・安全局 食品に関するリスクコミュニケーション カドミウムに関する意見交換会(2003年12月12日に開催)で安田節子が述べた意見 議事録から抜粋
http://www.maff.go.jp/syoku_anzen/20031212/cadmium/gijigaiyo.htm

今、生産者側の方から、現実的に0.4くらいでないと不可能だというお話がありました。確かに生産現場の方から、日本がカドミウムの汚染大国として日本全国が汚染されている状況の中では、そういうご発言が当然あるだろうと理解できるんですが、しかし、コーデックス規格が最終的に0.4にならずに0.2になるということだってあり得るわけです。EUも0.2に決めているわけですから。そういう情勢の中で、0.4という緩い基準の対応しかしていなかったら0.2になった場合にどうするのかということがあります。

それから日本が唯一自給している主食作物という米の位置付けがあるわけです。WTOカンクン閣僚会議にみるように、今関税を下げろという大変な圧力がある中で、国産米を食べ支えていかなければならない、輸入米は食べたくないという消費者の意識があるわけです。汚染対策はほんとに大変なことだけれども、これを真摯に取り組まないとですね、日本のお米はカドミウムで汚染されている、輸入米のほうが安全だと、もし、輸出国から宣伝がされた場合、国産米を守りきれなくなる部分がでてくると思うんですね。確かに鉱山があったり、酸性土壌であったりということでカドミウムの汚染は避けられなかったということはありますけれども、ここは腹をくくって、きっちりとどこが何ppmの土壌汚染があるのか、隠さないですべて情報公開し、その上でこれこれの汚染除去の具体的な対応をとりますと、きちっと示すべきだと思います。

 それから、汚染された作物の半分は米だとおっしゃいますが、米以外の豆とか、魚介類の汚染が高いわけです。魚介類の数字がここでは1.0として、軟体動物としてしかでていない。国民は水産食品もたくさん食べるわけですから、魚介類各々の汚染数値についてもモニタリングと情報公開が必要です。飲料水も0.1mg/Lの基準があると思いますけど、飲料水からも我々はどのくらいとっているのか。食品と飲料水と口に入るものを総合的にそれぞれの食品ごとにきっちりとモニタリングをして情報公開と対応をしていくべきだと思います。

 それから、日本の場合、過去の鉱山のツケということもあるのかもしれませんが、現在日本がカドミウムの消費大国であるという問題が大きい。世界で生産されるカドミウムの40%を消費しカドミ生産量は世界一なんですね。ニッカド乾電池はじめ、カドミウム製品の分別をして環境に放出しないことが大事です。食品分野だけではなくて、各省庁が総合的にカドミウム汚染をなくしていくという施策をあわせてやらないかぎり、この問題は日本中に大変な負債を背負わせることになると思います。その辺のところもお願いしたいということです。

 国際基準がどうなるかというのは、0.4になるとは限らないですし、日本が世界最大の汚染国として、世界のお手本となる厳しい基準を策定し、税金を使うべきところはちゃんと使って対策をやるべきだと思います。消費者が国産の米を支持しなくなったら、もう、アウトでしょう。ですからカドミウム規制値を現実的な対応ということで留まっていれば、あとでひどい目に会うと思います。

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12月15日、日本政府は米に0.4とする修正案をコーデックス委員会に提出した。
2004年02月03日
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