食品添加物の「不使用表示」ができなくなる? 消費者庁ガイドラインの重大な問題点
『いのちの講座』134号記事から
消費者庁は22年3月30日「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を策定した。加工時に添加物を使わなかった場合に「無添加」や「○○不使用」と書く任意表示について、消費者庁は"「無添加は健康で安全」というイメージが独り歩きすると、添加物が入った食品の安全性が逆に疑われかねない"と問題視。
消費者庁によれば、「食品添加物は、食品安全委員会による評価を受け、人の健康を損なうおそれのない場合に限って、使用を認めるものです。法律上は、安全ではなかったり、健康を損なうおそれのあるような食品添加物は存在しないと整理されています。健康と安全に良さそうからという理由で食品添加物の不使用表示がされた商品を選択する消費者は多く存在します。したがって、体に良いことの理由として、あるいは安全であることの理由として、食品添加物の不使用表示を行うことにより、実際のものより優良または有利であると消費者に誤認させるおそれがあり、また、内容物を誤認させるおそれがあるといえます。」という。
誤った認識による情報を発信する消費者庁
まず消費者庁の「食品添加物は安全」との指摘は間違っている。食品添加物は食品ではなく、体にとって異物である。極力摂取を制限すべきものなのだ。
また食品添加物の安全性は現時点の安全性評価でしかなく、後から発がん性など有害性が明らかになって禁止になった添加物はいくつもある。しかも単品の安全性評価しかされておらず、他の添加物との複合毒性はまったく調べられていない。
英国政府機関による研究で、保存料の安息香酸と合成着色料を飲料などで摂取している子どもの発達障害が有意に高いことが示され英国政府は警告表示を義務付けた。これを受けEU指令で、合成着色料を禁止したが日本では依然使用されている。
消費者が懸念のある食品添加物を避けようと不使用表示による選択をするのはまっとうな行為だ。こうした消費者ニーズに応える業者の不使用表示で選択ができた。本来なら食品業界は消費者が避けたい添加物を使わない方向を目指すべきなのだ。
ガイドラインの10類型と、その問題点
ガイドラインによると食品表示法の禁止事項である誤認を生じさせるおそれのある表示として「実際よりも優良と誤認させる表示」「内容物を誤認させる表示」などに該当するケースを10類型化した。
ガイドラインの運用は、@類型の禁止事項該当性の審査、Aケースバイケースでの総合考慮、の2ステップにより行われるという。ケースバイケースでの総合考慮は範囲は明確ではなく、行政側の裁量(しい恣意的な解釈)によって罰則が科される可能性がある。そのため食品業者は防衛的に表示を自粛せざるを得なくなる。それが狙いなのではないか。行政の裁量というグレーゾーンの運用は民主政治に反し排除すべきだ。
10類型
- 類型1:単なる「無添加」の表示
- 類型2:食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示
- 類型3:食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
- 類型4:同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示
- 類型5:同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示
- 類型6:健康、安全と関連付ける表示
- 類型7:健康、安全以外と関連付ける表示
- 類型8:食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
- 類型9:加工助剤、キャリーオーバーとして使用されている食品への表示
- 類型10:過度に強調された表示
10の類型の多くは取り上げる必要のない常識で判断できる事例だがそれらにまぎれて本ガイドラインがめざす本当の狙いが示されているのが以下だ。
- 類型2:食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示
- 人工・合成・化学や天然の用語を用いた食品添加物の表示のこと。
「人工甘味料不使用」、「化学調味料不使用」、「天然色素使用」などの用語は使用できなくなる。表示が事実であれば問題はないはず。つまりこれは人工、合成、化学品を使っている業者にとって不都合だからだ。
- 類型4:「〇〇無添加」「〇〇不使用」と表示しながら、〇〇と同一・類似機能を持つ他の食品添加物を使用しているケース
- a 日持ち向上の目的で「保存料」以外の食品添加物(保存料の代わりに日持ち向上剤やpH調整剤)を使用したにもかかわらず、「保存料不使用」と表示する行為も禁止
消費者が避けたい保存料は用途名併記添加物(用途と添加物名を併記=要注意添加物)なのだ。例えば「保存料ソルビン酸」と併記されるソルビン酸などを指す。日持ち向上剤やpH調整剤は使用していれば表示欄に記載がされるから虚偽にはならない。難癖をつける無理筋の規制だ。
b 窒素やアルゴンを使用した食品で「酸化防止剤不使用」と記載すること
消費者が避けたい酸化防止剤は化学合成の「用途名併記食品添加物」だ。ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などだ。食品を包装する際に空気を抜きアルゴンや窒素、炭酸ガスなどを充填することによって酸素とふれあうことが無くなるので酸化防止になる。これによって懸念のある化学合成添加物を不使用にできる。消費者にとって安心できる食品であり、「酸化防止剤不使用」表示は正しいのであって、これを認めなくするのは不当だ。
- 類型9:加工助剤、キャリーオーバーとして使用されている(または使用されていないことが確認できない)食品への表示
- 加工助剤やキャリーオーバー等で表示が不要であっても添加物を使用している場合には、添加物を使用していない旨の表示をすることはできません。加工助剤やキャリーオーバーに該当する添加物は表示が不要であるため、使用していたとしても表示はされないことから、消費者には表示では見えないものとなり、「添加物不使用」の表示は、本当に「添加物不使用」であると消費者が誤認してしまう可能性は否定できないものと考えます。
加工助剤やキャリーオーバーは最終食品に効果を発揮せず期待もされていない添加物等として表示免除としたのは厚労省や消費者庁だ。その張本人が口を拭って何を言うかである。加工助剤やキャリーオーバーの食品添加物の表示義務化をしてから言うことだ。食品業者にとって不当な規制だ。
消費者にとっての改悪を強行する消費者庁
これまで義務表示が不十分で消費者の選択権がなおざりにされているため、任意表示がそれを補ってきた。
遺伝子組み換え(GM)表示の場合、使用されていても表示されないものが多く、任意表示の遺伝子組み換え(GM)不使用表示がそれを補っていた。
しかし消費者庁は義務表示を改善するのではなく、任意表示を取り締まることにしたのだ。
なぜ日本では消費者に不利益な変更ばかりが行われるのか
2023年4月からGM「不検出」の場合以外はGM不使用表示が禁止となる。米国から輸出される分別された非GMの大豆やトウモロコシは「GM不使用」の表示ができるが米国側の「非意図的混入が避けられない」との主張で5%未満のGM混入を認めてきた。
ところが消費者庁は突然、混入ゼロ、不検出でなければ「GM不使用」表示はできなくした。結果、輸入原料使用の食品からGM不使用表示は消え、GM不分別のものだけになる。これで利益を得るのは米国のGM関連アグリビジネスだ。
米国ではモンサントによる任意表示つぶしが行われてきた。モンサントが開発した遺伝子組換え牛成長ホルモンrBGH(商品名ポジラック)は牛に投与すると乳量が増えるということで1993年に承認され、米国の乳牛に投与された。その乳製品が食卓に上ったが、発がん性が指摘されてEU、カナダが禁止。消費者の懸念に応えて、メイン州のオークハースト乳業は、自社の牛乳パックに「rBGHフリー」の任意表示を行った。
これに対しrBGHが悪いものであるかのように消費者に混乱を与えるとしてモンサントが2003年に訴えた。 この訴訟は、オークハースト乳業が「FDAによると、rBGH処理牛と未処理牛に由来する牛乳の間に有意差は示されなかった」という文言を表記に追加することで和解。モンサントに対し市民、消費者団体などから強い批判が浴びせられた。
この成長ホルモンの需要は減少を続け、大手のレストラン、大型食料品店チェーンなど、rBGHホルモン牛乳を扱わない企業が増え、モンサントはイーライ・リリー社にrBGHホルモン事業を売却している。
今回の食品添加物不使用表示の不当な規制も米国の圧力があったのではないか。
TPPの2015年日米合意文書により米国で使用される食品添加物は日本でも認めていくことになった。それで日本の食品添加物指定はうなぎのぼりに増えている。米国が輸出する加工食品は日本の店頭に並ぶまで時間がかかるので当然保存料、酸化防止剤など多用したものになる。これらの食品を扱う業者が狙うのは消費者が添加物使用食品を避けることをできなくし、邪魔な「不使用表示」をなくすことなのだ。
ガイドラインは、2024年3月末を施行のめどとしそれまでの移行措置期間に適宜表示の見直しを行うという。日本の消費者の選択権を踏みにじる対米隷属の不当なガイドラインを撤回させよう!
(2022/04/27)