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TPPと遺伝子組み換え


TPPの異常性

TPPは異常な貿易協定だ。TPPの29の章の内、伝統的貿易(モノやサービスの貿易)に関する分野はたったの5章しかない。残りの章は、「規制の撤廃」に関するもの。TPPの真の狙いは「規制撤廃」なのだ。国民生活を守っている諸規制がグローバル企業の利益を保証するために撤廃される。TPPが目指す自由貿易の「自由」とは多国籍企業の自由なのだ。TPPルールは国内法のうえに来るため食品安全、医療・医薬品、金融、農地、環境、労働などの国内法、規則、及び手続きを変える強制力を持つ。そしてTPP協議を主導する米国が市場としてターゲットにしているのが日本だ。協議参加国のGDP比で米国に次ぐのが日本で、その他の国を大きく引き離す。実質日米FTAといえる。

安倍政権は2013年4月、日米のTPP事前協議で自動車、保険、牛肉に関する米国要求をすべて飲んだ。日本が要求する米国の自動車関税撤廃は見送られたうえ、日本の軽自動車の優遇税制は撤廃され軽の自動車税は倍に引き上げられた。米国車が日本で売れないのは軽自動車が国民に利用されているからと軽が目の敵にされたからだ。かんぽ生命の新規のがん保険は凍結され、おまけにアフラックのために全国の郵便局窓口を明け渡した。2012年4月に米国で新たなBSE牛が見つかっている。科学的に安全性が証明されたわけではないのに、政治的にBSE規制をほぼ撤廃した。

TPP交渉争点のひとつ、関税撤廃において、安倍政権は重要5項目(米・麦・豚肉と牛肉・甘味作物・乳製品)を守りきらないだろう。例えば牛肉が関税撤廃となれば、米国産が大量に入ってくる。米国畜産は問題が指摘されて久しい。ずさんなBSE対策のみならず人工ホルモン剤、抗生物質、飼料添加物、肥育増進剤など薬漬けと遺伝子組み換えトウモロコシ肥育を背景に、立って歩くことができない「へたり牛」がたくさん生み出され、また食肉解体の不衛生な環境によるO157の付着で毎年多数の死者を出している。こんな輸入肉があふれる一方、国産は消えてしまう。関税収入は国内畜産振興の補助金財源となっているため、これがなくなれば輸入品に太刀打ちできず畜産業界は倒産に追い込まれる。麦も同様のしくみのため、麦生産も完全に消えるだろう。

TPP協議の2月のシンガポール閣僚会合では利害対立を解消できないまま閉幕した。 交渉の進展を阻害する懸案に貿易権限を有する米国議会が大統領に交渉の権限(貿易促進権限TPA)を与えるかどうか不透明になっていることがある。秘密協議を情報公開せよとの圧力も米議会で強まっている。その結果、TPP協議が頓挫してしまうなら市民側にとっては歓迎すべきことだ。

しかし、米国との二国間協議は滞りなく進められている。昨年7月安倍総理がTPP協議参加を表明すると同時にTPP交渉と並行して「日米二国間協議」が始まった。実は「日米二国間協議」が米国にとっては本命と思われる。二国間協議で米国からの過去の積み残しの規制緩和要求に応じることを確約する合意がなされた。しかも新たな要求も積み上げることが可能という。米国産業界は日本市場をこれで(TPPがどうなろうと)手に入れられると大喜びした。これまでも米国の要求に従い基準・規制緩和をしてきたうえに、TPPと二国間協議で、日本を奪い尽くす「構造改革」が達成されようとしている。

遺伝子組み換え関連

ちなみにTPP農業分野の米国主席交渉官はモンサント社の前ロビイストだ。モンサント社はTPP交渉を主導する米国通商代表部のアドヴァイザーである多国籍企業連合の主要メンバーである。

TPP協議において、米国はNZにGM表示の撤廃を要求した。その後、NZの強い反発や日本での表示撤廃の懸念の高まりに対し、米国政府高官は表示撤廃は求めないと発言した。しかし、企業がISD条項(注)を使い、GM表示制度を訴えることはあり得る。加えて憂慮すべきはすでに日本政府が米国の意向を忖度して、規制強化を見送ったり、自ら規制緩和に向かっていることだ。

米国でGM米やGM小麦は開発済みだが、消費者が拒否することやGM混入が避けられない普通の米、小麦も売れなくなるとの理由で商業栽培はストップしている。しかしGM表示が撤廃されれば、一挙に栽培が始まり、関税撤廃と相まってGM混入の米や小麦が大量輸入されるだろう。主食までもGMを食べることになれば日本人はGMの格好のモルモットになる。またGMの国内生産が始まれば国産優位は崩れ、輸出側の狙いどおりとなる。そしてTPPには「特許権の強化」条項があり、日本の農家はモンサントの特許侵害ビジネスの格好のターゲットにされるだろう。

TPPは多国籍企業の利益のための枠組みなのだ。経団連の大手企業も同じ穴のむじなでこれを強力に支持している。TPPを先取りして「日本を企業が一番活動しやすい国にする」と国家戦略特区を打ち出し、一挙に規制緩和し、国民生活の破壊を進める安倍政権は亡国政権以外のなにものでもない。

(注)ISD条項― 企業が国家を提訴できる権利を認めるもので、企業が国家と対等になる。協定で認められた企業の権利が国家の規制で侵害されたかどうかだけを裁定し、侵害したと判決されると、国家は規制を撤回し、損害賠償金を企業に支払うことになる。(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンニュース 150号記念号への寄稿原稿を転載)

(2014/05/22)

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