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しばし商品化が留められた遺伝子組み換えサケ


2倍の成長速度

9月初旬、米国食品医薬品局(FDA)は、遺伝子組み換え技術を用いて通常の2倍のスピードで成長するよう改良したGMサケについて、「人体にも環境にも安全」と結論、認可する方針を示した。

このサケは、米国のアクアバウンティ・テクノロジーズ(AquaBounty Technologies)が開発したもので、大西洋サケ(アトランティック・サーモン)に、成長を早めるよう改造したキングサーモンの成長ホルモン遺伝子を組み込んでいる。

普通の養殖大西洋サケでは出荷サイズにするには30ヶ月が必要だが、このGMサケでは半分の16〜18ヵ月でそのサイズになる。同社は、サケ需要の高まりに対応することと天然サケの乱獲防止の両方への貢献が期待できると説明。海水魚を内陸の淡水施設で養殖する際に起こりがちな病気などの問題も防げるとして、「安全で持続可能な食料供給を確実にする上で強力な柱となる技術だ」と認可への自信を見せていた。

これが認可されるとアメリカの食物供給に入る最初のGM動物になるはずだった。しかし、FDAが外部の専門家14人で構成される諮問委員会に諮ったところ、9月20日、諮問委員会は、このGMサケが人体または環境にリスクを与える可能性について、これまで行われてきた研究では確定的に判断できないとし、さらなる研究結果が出るまでは認可しないよう勧告(勧告には法的拘束力はないが、FDAはこれに従うのが慣例となっている)。商品化はいまのところ留められた。

FDAの安全評価に対し、31の消費者、動物福祉、環境および漁場者の連合グループは反対を発表。GMサケが水槽から逃げ出し天然サケと交雑した場合、在来種の保全をおびやかすなど生態系に悪影響を及ぼすと批判。

これに対しAquaBounty社は、GMサケは陸上の水槽で生産、しかも不妊化したメスだけが販売されるので、子孫を残すことはないとしており、FDAは、同社の分析をもとに脱出や生態学的混乱の可能性は低いと同意した。

データは自社のもの、かつ不完全

しかし、FDAがその結論の基礎としたデータの多くがAquaBounty社が提出したものであること。また、「食品安全センター」によれば、提出データでは、アレルギー反応の安全性試験に使用されたGMサケの魚肉は本来数ダースやるべきところ、わずか、ひと握りの数しかされていないこと、また工程が完璧ではないため、最高5パーセントが不妊でない可能性があるという。

通常、サケは暖かい季節にだけ成長ホルモンを生産する。大西洋サケからの成長ホルモン遺伝子は異なる魚(ゲンゲ)からのプロモーター(遺伝子をオンにする)遺伝子によって一年中活発に成長ホルモンを生産するようになっている。GMサケには、インシュリン様成長因子1(成長ホルモンに関連したホルモン)がより高いレベルにある。

どれくらいの食物が血中のホルモンレベルに影響するかは明らかでないけれども、いくつかの研究によれば血中のインシュリン様ホルモンの高い水準はガンのリスクと関係することを示唆している。

しかしFDAは、たとえ人々が多くのサーモンを食べたとしても、ホルモンの量に関する有意差にならないと結論づけた。

安全性検証法の確立すらされていない現状

今日、魚の遺伝子組み換え技術は実用レベルに達している。GMサケはカナダにも申請されている(カナダ政府の判断は如何に)。同社は冷たい海に住むオヒョウの遺伝子を組み込んだ耐冷サケの開発も進めている。このほか世界ではGMニジマスやコイ、ティラピア、アワビなどが開発されており、ティラピアはキューバで商業化されているという。

GM魚やGM動物の安全性をどう評価すればよいか、いまだその検証方法が確立していない。GM植物の安全性評価に準じる程度では植物より何倍も複雑な構造と生理作用のあるものに対してあまりにも乱暴かつ非科学的である。そもそもGM植物の食品安全性評価ですら、従来の生物と形態、主要成分などが「実質的同等性」があるかという、科学的にひどく粗雑な評価のままなのだ。

成長速度アップは経済性優先の技術主義で、新自由主義に彩られたグローバリズムの自由貿易下では有利で利潤をもたらす。鶏も牛も豚も魚もみな成長速度アップが生産技術の要となっている。しかし、生き物はすべてそれぞれの成長の時間が定まっているという自然の法則を無視するため、必ず破たんが来る。そのつけを人間は負う。

さらにこの成長速度アップの技術が人間にだって使われる可能性もあるわけで、その結果はSFホラーどころではないだろう。

安全性の慎重な確認をおろそかにしたままGM生物の開発競争が続く。応用化したあとの環境・健康への悪影響について責任を問うことができるとする国際的(MOP5で)合意がようやく先日なされたが、認可以前の問題として安全性評価システムのあり方がまずもって再検証されるべきだ。

リスクを示す知見が積みあがっているのだから、ここは、流通しているGM生物に、いったんモラトリアム(凍結)をかけて、十分な時間をかけて再検証をするのが筋というもの。事故が起きてからでは致命的な結果を招きかねないのだから。

(2010/11/05)

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