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米国のBtトウモロコシ緩衝帯守られず 〜CSPIがEPAに警告


コーン価格高騰によりモラル崩壊

09年9月22日の米国農務省(USDA)に対するGMサトウダイコン商業栽培承認違法裁定(「いのちの講座」60号に既報)により、USDAはかなりの打撃を受けた。これに続いて、Btトウモロコシ栽培における耐性害虫発生抑制のための緩衝帯設置が守られなくなった実態が公益科学センター(CSPI  Center for Science in the Public Interest 本部ワシントンDC)が09年11月5日に公表した報告書で明らかになった。

遺伝子組み換えBtコーンの畑では、Bt 抵抗性害虫が発生するようになる。コーンのすべての細胞からBt毒素が常時産生されているため、接触するうち害虫にBt抵抗性種が出てくるからだ。抵抗性種が生き残り、それ同士がつがうことで、Btコーンを食い荒らすスーパー害虫が発生する。

米国環境保護庁(EPA)はそれを防止するため非Btの普通コーンをBtコーンの畑の周囲や内側に一定の面積(コーンは20%、綿は50%)モザイク状に植える緩衝帯を設けるよう指導してきた。緩衝帯の抵抗性をもたない害虫とつがうことで、抵抗性害虫の子孫の拡大を防止するというのが狙いである。

しかし、バイオエタノールブームに見舞われ、エタノール原料のコーンが高値で取引されるようになり、生産者は食用ではないことからも農薬散布の手間がかからないBtコーンの生産面積を急拡大し、緩衝帯を守らない農家が増えてしまったことが報告されている。

CSPIが報告書で求めているような適切な対応をEPAが早急に取らないなら、Bt 抵抗性害虫の繁殖で、米国のBtコーン生産の崩壊のみならず、有機生産者にとってもBt剤(生物農薬として有機生産に使用が認められている)が無効になることも懸念されている。

機械主義的な考えで開発されたGM技術は、自然のメカニズムのまえには未熟なものであると悟らされる例であろう。

CSPIの報告書全文 原文:pdfファイル

報告書概要 「EPAの緩衝帯設置条件対する相当の不服従が、GM害虫抵抗性コーンの将来の効果を脅す」

昨年、何百万エーカーものGMコーンが、生産された。それらのGMコーンを植えた農民は、この技術の有効性を長く保護し、環境への悪影響を防ぐため、生産地に緩衝帯を設置するよう政府に要求された。

CSPIは、さまざまなBtコーン製品の登録企業によって環境保護局(EPA)に提出される年次毎の遵守保証プログラム報告(CAPレポート)を情報自由法によって得た。それらのレポートはBtコーン生産農民による緩衝帯条件の遵守(IRM義務)に関するデータを提供し、経年の遵守状況の傾向を分析することができる。

レポートによれば、2003年〜2005年までは90%以上の農民が遵守していた。しかし、2006年に始まって、2008(報告されたデータの最後の年)年までに遵守率は明らかに低下し、およそ25%のBtコーン生産農民は彼らのIRM義務に対応しなかった。年を追う毎にデータは遵守率の受け入れがたいレベルへの低下を示している。

加えて遵守データとUSDAから得たBtコーンに関する情報を使用しても、遵守していないコーンの作付け面積が229万エーカー(GMと従来のコーン面積の3%)から1323万エーカー(すべてのコーン面積のほぼ15%)まで増加した。

この6倍の増加は、不服従の農民の増加と農民によるBt作物の採用の増加(2005年35%だったのが2008年57%へ)による。不服従のBt生産農民がBtコーンを生き残った抵抗性害虫とつがう抵抗性をもたない普通の害虫を提供してくれていた非GMの隣人の畑に頼ることができていたが、そのような状況は米国のいくつかの地域に現在、そして、将来に存在しなくなるかもしれない。

EPAがBtに対する昆虫の抵抗性の広がりを防止することが「公益」であり、すべての農民がBtに対する抵抗性を遅らせるために緩衝帯の要求に応じなければならないと考えているならば、CAPデータレポートは監査システムが機能していないEPAへの目覚ましコールとされなければならない。

EPAは、それがより力のある遵守を確実にするために登録企業に負わせる義務を変えなければならない。

特に、EPAは登録企業がより高い遵守レベルを示すまで既存のBtコーンを再登録してはならない。加えてもしEPAが、Btコーン製品の再登録をするならば、登録企業に対し、農民の義務に見合う動機付けを提供し、一方不従順であるとわかった農民に対する処罰を要求しなければならない。

EPAは、登録企業に対し、農民からの年次証明を得ること、そして遵守について独立した第三者機関の評価を受けるために料金を払うことを要求しなければならない。そのうえ、EPAは農民の不遵守についての責任は登録企業にあるようにしなければならない。

不服従が高いならば、EPAは登録企業に罰金刑を課し、および/または登録企業とその子会社によって販売される種を規制しなければならない。最後に、EPAはIRM条件を指定している旨をBtの種バッグにラベル表示を義務づける規則を公布すべきである。

「いのちの講座」61号(09年12月23日)より (2010/01/15)

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