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輸入GMの生態系被害に賠償制度新設の協定原案


輸出国が損害を賠償する新制度

2009年1月、バイオテクノロジーでつくった生物が他国の生態系や人の健康に悪影響を与えた場合に、輸出国が損害を賠償する新制度の導入を定めた国際協定の原案が明らかになった。名古屋市で2010年に開かれる、生物多様性条約に基づくカルタヘナ議定書締約国会議で採択を目指す。

原案によると新協定は、遺伝子組み換え農作物の種子などが輸出先の国で繁殖した結果、既存の植物の生息地が狭まったり、遺伝子組み換え動物が逃げ出して固有種を絶滅させたりした結果引き起こされる損害が対象。農林水産業の収益減、人の健康に影響が出た場合の医療費や逸失利益、環境の修復に要した費用など、さまざまなケースを想定している。

損害発生時は、被害を受けた国の政府が被害額を算定し、輸出業者や組み換え生物を開発した企業の所在国に賠償を請求できるようにする。各国はこの協定を基に、損害の原因をつくった企業に賠償を義務づける国内法を整備するとした。

だが輸出国側の利害が絡み法的な拘束力のある制度として整備されるかは不透明な状勢。

日本政府関係者によると、損害賠償を法的拘束力のあるものにせず、国内法の整備も各国の努力義務とする、緩やかな制度にとどめるべきだとの声もあるという。今年2月23日にメキシコで最初の作業部会を開き、具体的交渉に入るが、各国の意見の隔たりは大きく難航は確実と見られている。

日本政府の出方

GM作物の最大輸入国の日本なればこそ、また、カルタヘナ議定書の精神を最大尊重すべき議長国として尽力すべきところ、日本政府はGM開発側に立って動く可能性が高い。

日本では輸入されたGMナタネなどが既に鹿島港、千葉港、横浜港、清水港、名古屋港、衣浦港、四日市港、神戸港、博多港など荷上げ港や輸送の国道沿いなどでこぼれ種から広く自生していることが確認されている。

また、GMダイズとツルマメとの自然交雑による交雑種子が確認(独立行政法人農業環境技術研究所)されている。米国等海外でもGMとの交雑の事例は多く報告されているのだ。

それにしても自生や交雑が広がり、生態系が破壊されたことが立証された後に損害賠償、修復を求めるという仕組みでは、時すでに遅しで手遅れであり、生態系を元に戻すことはできない。

環境破壊や健康被害の実態が確認されたら損害賠償をするかしないかと言う議論の立て方自体、あからさまなバイオ産業の利益優先の世界だ。

各国指導者が議論すべきは、自生や交雑のおそれや事例が少しでも出たら、輸入をストップさせる仕組みをどう作るかではないか。予防原則をもってしなければ有効といえない。

来年名古屋で開催されるカルタヘナ議定書締約国会議に対し、また日本政府に対し、圧力となる世論を作っていく活動が必要と痛感する。

(2009/03/01)

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