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食料高騰と日本のコメ──輸入穀物に頼る日本 今こそ見直しを!


穀物高騰

穀物は安くていつでも買えるモノだったのが、この2年の間に様変わりしています。国際市場では小麦は2年前の3倍、トウモロコシや大豆は2倍以上の値上がりです。コメの国際価格は1990年代後半からずっと200ドル/トン前後で推移していましたが、07年末から一気に高騰し、今年3月には500ドルを超えています。今後1000ドルの大台に乗ることも時間の問題といわれています。

記録的な食料価格の暴騰は、貧しい人たちを直撃し、その生存を脅かしています。バングラデシュの多くの貧しい家庭は1日1食に追い込まれています。食料を買えない人たちの不満や怒りによって、世界各地で暴動やゼネストをふくむ抗議行動が頻発し、ハイチ、モザンビーク、エジプト、バングラデシュなど世界33カ国が政治・社会的混乱の危険に直面しています。

輸出国が輸出規制に踏み切る

輸出国においても、輸出業者が高利益を見込んで輸出に回すため国内が逼迫、コメ輸出国のベトナムやカンボジア、インドは輸出の禁止や削減を決定しました。世界第2位のコメ輸出国ベトナムが6月まで新たなコメの輸出契約の凍結を指示したことから、世界一のコメ輸入国で、ベトナムのコメに頼っているフィリピンでは流通業者がコメを買い占め、価格が高騰、アロヨ政権に対する不満で政情不安が増しています。このように輸出国が突然輸出禁止の決定をすることを肝に銘じておくべきでしょう。

穀物高騰の主要な要因

穀物高騰の主要な要因として指摘されているのは、1)バイオ燃料の拡大、2)オーストラリアの大干ばつによる小麦の大減産、3)中国やインドなど新興経済国の穀物需要拡大、4)投機マネーです。

米国ブッシュ政権のバイオエタノール増産政策による巨額の補助金をバックに、トウモロコシがバイオエタノール用に振り向けられた結果、食用向けが逼迫し高騰。さらに農家が大豆や小麦の生産を止め、高値のトウモロコシへ作付け転換したことから、小麦、大豆の生産減少でこれらも価格高騰が波及。食料輸出大国オーストラリアは、06年「千年に一度」の大干ばつに襲われ壊滅的な打撃を受けました。07年も干ばつが続き、小麦の収量は半分以下に激減、今年も3割以上落ち込む見込みです。穀物輸出国が輸出国でいられるかは天候次第であることを教えられます。

また新興経済国で爆食といわれるほど食品の大量消費が進んでいます。中国では所得の増加に伴い、1人当たり年間肉消費が80年の20キロから07年には50キロに増加。肉牛1キロを生産するのに7キロの穀物が必要とされ、新興経済国が近い将来、世界の食糧の過半数を消費するようになると予測されています。さらに重要な要因は、投機資金が価格上昇に拍車を掛けていることです。投機筋やファンドの膨大なマネーは、低迷する株・債券市場から、高値になった原油や金、穀物の商品先物に流れ込んで相場のつり上げをしています。

穀物を輸入に依存することがいかに不確実で危ういかということです。特に原油の高騰は、輸入依存はもはやのっぴきならない転換点に来ているといえます。

日本は減反強化の農政

全国の水田面積は約250万ヘクタール。減反は既にその4割に達しています。昨年10月末、米価下落を防ぐためとして「米緊急対策」が発表され、2008年度からさらに作付面積を10万ヘクタールも減らす減反強化が打ち出されました。

しかし、世界のコメ備蓄量は2008年、7000万トン(コメ在庫率18%)となり、2000年(コメ在庫率36%)の半分と危険水域に落ち込んでいます。世界は穀物不足と高騰の時代に転換している以上、生産調整は根本から見直す必要があります。

いまこそ、日本のかけがえのない資源である水田を潰さず、コメを目いっぱい生産すべきです。主食のコメを確保し、備蓄し、飼料にし、加工するのです。飼料用の輸入トウモロコシの高騰で畜産業が存亡の危機にありますが、イナワラの飼料利用はもとより飼料用イネを生産すること。

小麦粉同様にコメを微細粉できる機械が開発され、輸入小麦粉に代わって米粉のパンや菓子などを普及させ、加工利用する。あとは備蓄(現在わずか1,5ヶ月分しかない)に回す。不足の国に支援米を備蓄から送ることもできます。

瑞穂の国(日本)では、コメこそが、私たちの命を支えてくれる安全保障です。コメにこそ、価格支持を行い税金を投入するべきです。農業保護を認めず、輸入義務を強制するWTO協定は食料余剰の時代に作られたルールであり、いまもってこれを守るのはナンセンスです。食料生産は国民のいのちを守るための、まさに主権(食料主権)ではないでしょうか。(「おほもと」2008年6月号掲載)

(2008/06/02)

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