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消費者の求めるもの 「農業と経済」11月号 表示特集「消費者の求めるもの」執筆原稿より


表示に関する消費者意識

内閣府が2002年5月実施した「食品表示に関する消費者の意識調査」で、食品購入の際に何を良く見るか聞いたところ、(複数回答)、「賞味期限・品質保持期限・消費期限」が96%で一位。「産地・原産国表示」(71%)、「食品添加物を含む原材料名」(67%) となっています。これから見て取れるのは、消費者が表示によって知りたい情報とは「鮮度」、「国産か輸入か」、「添加物の少ないものか」であることがわかります。

国産志向が強まり、食品の安全性には対価を払うべきだと考える消費者が増えつつあります。これはグローバリズムによる安い食品・食材を求める動きとは対極にあるものです。

増え続ける食料輸入と国産志向

消費者の国産志向が強まっている背景には輸入食品が脅かす安全性の問題があります。

これまで多くの違法事件が報道されてきました。記憶にまだ新しいのは輸入の冷凍ほうれん草に猛毒の農薬残留が検出された件です。冷凍野菜は輸入量がうなぎのぼりに増えているのに、まったく検疫の対象にも残留農薬基準も設定されていなかったわけで、民間の検査機関の発表であわてて規制がなされたばかりです。

食品安全規制は国ごとに基準に違いがあり、違法行為に対する取り締まりが行き届かない国もあります。日本のような輸入大国はそれらのリスクをもろに受けます。遠い外国から運んでくる食品は腐敗、劣化、虫食いなどが避けられず、違法添加物の使用、ポストハーベスト農薬の違法残留や放射線照射が密かに行なわれたり、はたまた未承認の遺伝子組み換え作物の混入流通、アフラトキシン汚染など、枚挙に暇がありません。

こうした輸入食品の問題がクローズアップされるようになったのは、輸入量の増大にともなって違法事件が頻繁に起きるようになったからです。

日本の食料輸入は増え続け、いまでは農産物、水産物ともに世界一の輸入額です。輸入量は5800万トンにもなります。大豆やトウモロコシ、ナタネ、小麦など北米からの大量の輸入穀物は、主に家畜飼料と植物油原料(小麦を除く)ですが、これらに遺伝子組み換え作物が大量に混じっています。米の消費が減り続けていますが、かわりに小麦や油、畜産物の消費が増え続けているのは洋風化した食の変化によるものです。そのことが日本人の健康にも大きく影を落としています。

また、生鮮野菜の輸入も1986年141千トンだったのが2000年には926千トンと6.5倍にも増え国産野菜を脅かしています。

加工食品、外食の原料でみれば、いまや、そのほとんどが輸入原料といえるでしょう。加工食品について、その原材料のすべてについて知ることはもはや不可能です。自分が口にするものがなにかわからずに食べるという獏とした不安は本能の警鐘かもしれません。日本料理で有名な「吉兆」の創業者が、練り物は出さない、どんなものがどれくらい混じっているかお客が判断できないものだからと述べたという話を聞いたことがあります。食は安全でなければならないものですから、素材の情報が余すところ無く「見える」ということが大事なのです。だから「うちで採れたもの」「地のもの」を出されたとき、喜びを感じるのではないでしょうか。

原産地表示と偽装

輸入増大と輸入食品の違反事故などを背景に、鮮度のみならず、素性確かな日本の風土で育まれた、味でも軍配の上がる国産品を選択したいと、原産国表示を求める声が高まりました。そうした国民ニーズにJAS法の改正で原産地表示の拡大がなされています。しかし、消費者の、多少高くても国産をという心理を裏切る表示偽装が続発しました。国産表示のものに安い輸入品を入れ替えたり、混ぜ込んだりが横行しました。消費者が見抜くことが不可能なのをいいことに目先の利益追求に囚われた企業が軒並み偽装に手を染めていたことは表示の信頼を大きく損ないました。グローバル競争を生き抜くために企業は厳しい経営を強いられています。しかし、企業が社会的信頼を失えば存続はできなくなることも目のあたりにしました。アレルギーが国民病となって蔓延するなど化学物質や環境汚染の中で、少なくとも自分で選択できる食品については、安全で品質のよい食べものを選びたいと多くの消費者は思っています。そうしたニーズに応える食品を確かな信頼のもとに提供することができるなら、グローバル競争にも必ずや生き残れるはずです。

表示制度はまだ不十分

JAS法改正で原産国表示の義務化が進められていますが、行政の対応は不徹底で抜け道が必ずあり、まだまだ企業寄りで消費者の求める情報開示はいまだ不十分です。

例えば、生鮮食品に原産地表示という規定を作っても、さしみの盛り合わせ、ミックス野菜などのように例外規定が必ずあります。生鮮品なのに混ぜあわせれば加工品とみなし、表示がいらないなんて消費者には納得できない理屈です。また、豚肉の場合、自給率はいまや55%(2001年度)で供給量の半分近くが輸入となっています。しかしお店では輸入表示の豚肉はそんなに多くはみかけません。原産地表示のいらない半加工品やソーセージ・ハムなどの原料として消費されていると思われます。食品すべてに原産地表示がなされるべきです。また、生体輸入の家畜が輸入した日から牛は三ヶ月、豚は二ヶ月、牛または豚以外の家畜の場合は一ヶ月過ぎれば国産となるというのも解せません。日本で生まれ育った国産とは明らかに違うのですから。

国際基準整合化がもたらす表示の後退

政府は1995年のWTO(世界貿易機関)加盟以来、いっそうの貿易自由化促進を目的に、国際基準との整合性が迫られています。WTO・SPS協定による安全基準の国際整合化は日本の安全基準の緩和となり、遺伝子組み換え作物の大量輸入、収穫後農薬(ポストハーベスト)の容認、食品添加物の使用拡大、抗生物質、ホルモン剤の畜産物残留の基準緩和などが推し進められるようになりました。また2001年暮の米国BSE問題の発生後、政治的な力で全頭検査が解除されたことに対しても不信が募るばかりです。

製造年月日が期限表示に

国際基準への整合化が安全行政の後退をもたらした例として食品の日付表示があります。従来は「製造(加工)年月日」表示でした。「製造年月日」は、消費者の食品選択時の重要な指標として定着していました。また事故時の原因究明や回収の行政措置の手掛かりになる点でも優れた表示制度でした。ところが、輸入食品が国産品と競争をする時代に入り、在日米国大使館から日本の製造年月日制度は貿易障壁に当たるとのクレームが寄せられたのです。輸送や通関に日数を要する外国食品は、国産品に比べ不利な競争条件におかれているというのです。これを受けて厚生省、農水省は1994年9月より期限表示へ移行し、「いつ製造されたか」表示から「いつまで持つか」表示へと180度の転換がなされました。

期限表示になって、特に生活経験の浅い、若い人たちの中には期限が過ぎれば不安を感じ、そのまま廃棄してしまう人たちが増え食品廃棄量の多さが問題になっています。また期限表示の期限の設定は、製造者が独自に行うことになっています。その食品がいつまで持つかを判断できるのは製造者だからという理由です。表示の客観性は損なわれているといえます。製造者は物理的期限の7割くらいに期限日付を打っているといいます。さらに小売段階では期限に近くなった商品はまだまだ十分食べられるのに返品廃棄などがされています。

作り手が見えなくなったため、食べものに感謝の念が消え、飽食が「もったいない」の感性を失なわせ、加えて食品流通の期限表示による廃棄が、膨大な食品廃棄量1940万トンを生んでいるのではないでしょうか。

遺伝子組み換え食品表示

消費者の8割が不安を感じ食べたくないという統計が出ている遺伝子組み換え食品は、ようやく2001年4月から一部の遺伝子組換え食品に表示が義務化されました。現在ダイズ・トウモロコシ・ジャガイモの30品目が表示対象です。本来、遺伝子組換え作物を原料にしたすべての食品に表示が必要ですが、まだ一部に留まり、食用油や醤油、飼料や添加物への表示はありません。それに表示対象食品であっても原材料のうち、上位3品目で、かつ重量比5%以上のものに限定されています。これでは4位の分量にすれば表示義務はないという抜け道になります。 なお、表示対象食品はほとんどが「遺伝子組換え不使用」表示になっています。組み換え表示では売れないので業界はこぞって分別品を調達しているからです。消費者は当然「入っていないもの」として少々高めでも買い求めています。しかし日本政府は、5%前後の非意図的混入を避けられないという米国からの要請をまるごと受け入れ5%混入を容認したのです。ですから検査にかければ検出されています。これは業界の問題ではなく、政府自らこのような虚偽表示を容認したというあるまじき対応が原因なのです。

現在、欧州連合(EU)は0.9%以上遺伝子組み換え原料を含む食品には「遺伝子組み換え」表示を義務化しています。日本で流通する「非組み換え食品」は、欧州では「組み換え食品」とされるものです。欧州には売れないものを分別品としてプレミアム価格で買わされているのは国辱的で、政府の米国追従の結果です。欧州連合では「遺伝子組み換えでない」という不使用表示は認めていません。0.9%以上含まれるものはすべての食品、飼料、添加物に「遺伝子組み換え」表示が課せられます。合わせてトレサビリティも義務化です。あいまいな日本の表示を欧州連合なみに筋の通った表示制度に改めてほしいものです。そして現在表示対象外の食用油や醤油、家畜飼料(卵、ミルク、肉の表示に関係)に表示を実現し、組み換えを食べたくない消費者が正しく選択できるようにすべきです。いまのところは国産100%表示を選択することで非組み換えを選ぶことができます。

こうした不合理を押し付けられているのは食料自給率が低いことにあります。和食を増やし国産を選択することが健康を守り、食料安全保障の道であることを消費者が意識することが大切です。

世界の有機認証は遺伝子組み換え禁止が常識

なお、農水省傘下の独立行政法人の研究機関が組み換えイネの開発を行っていますが、国産は遺伝子組み換えがないことがグローバル競争での強みなのに、それを失わせてしまうような国内栽培へと向かっていることは、なにを考えているのだと農政の失策を強く危惧せざるをえません。

日本の有機JAS、国際有機農業連盟(IFOAM)基準、米国連邦有機食品基準、EU農産物の有機的生産ならびに農産物及び食品の有機表示に関する理事会規則、コーデックス国際有機基準のいずれの有機認証基準でも遺伝子組み換えの使用を禁止しています。有機農産物は拡大し世界の潮流となっています。しかし輸入有機ではなく、国産有機のものが多く出回るようになるのが本当の姿です。有機の理念は物質の地域循環、自給、平和共存なのですから。

農水省が消費者ニーズを言うようになりましたが、それなら有機農業振興にこそ、力をいれるべきでしょう。国内での組み換え生産は狭い農地の日本では汚染がさけられませんから、野外栽培はけして認めてはならないと思います。

「安全性」と「信頼性」が食品流通の根幹

安全性、鮮度、おいしさ、栄養価こそ食べ物の価値です。たべものは命という視点を食品産業は回復すべきです。たべものを商品としてぎりぎりまでコストを追求することは質を落とし、安全性を損ないます。粗悪な食材ほどごまかすために着色料、香料その他たくさんの添加物が使われます。長距離輸送の保存に一番安くすむのが殺虫剤や芽止めの農薬を散布するポストハーベスト処理です。消費者が嫌う遺伝子組み換えを排除するのはコストがかかると混入輸出し、狂牛病の全頭検査解除も米国側の検査費用負担を嫌った圧力によるものでした。安い原料を世界中に求めるのではなく、国産にこだわりを強める消費者のニーズに応えてほしいものです。そして繰り返しになりますが、国産品がその質と安全性によって消費者に選択されるに足るものにすることが日本の農業、食の安全、健康、環境を守る道だと確信します。

スローフード

スローフード運動が広がっています。ファーストフードの場合、食材は大量にもっとも安く調達できるところから海を越えて運ばれてきます。食べる人には、どこでどのように作られたかまったく見えません。今食べているハンバーガーのパテ肉が地球の肺といわれるアマゾンの森林を伐採して作られた牧場の牛なんて思いもよらないでしょう。スローフードとは食材の情報が「見える」ということではないでしょうか。誰がどのようにして生産したか情報がすべてわかっている地元の食材を使うということなのです。生産から消費までの距離が短いほど安全・安心というフードマイレッジの考えにもつながっています。それは石油の使用を減らし環境負荷の軽減にも繋がります。

消費者が身近に情報を得て選ぶなら農薬の使用の少ないもの、添加物の少ないものを選ぶことになるでしょう。生産と消費の距離が短ければ必然的に少なくて済むようになります。一方生産者にとっては食べる人が見えることから、おいしくて健康を守る安全な食べものを提供したいという思いを持つのは当然のことでしょう。

本物の食品を守る表示を

また伝統的な味噌、醤油、酢、酒などの発酵醸造食品も、いまでは時間を短縮して工業的に作られるようになりました。一昔前までは、採れる原料と気候風土によって土地の酵母菌などが時間をかけて微妙な味わいを作り出し各地独特の醸造食品が生み出されてきました。それらはまさにスローフードです。かまぼこも各地の前浜で獲れた魚を利用して各地の特産が作られていました。しかし、安いタラのすり身を商社が輸入し、全国のかまぼこ屋が使うようになって価格は安くなったけれど、味は一律、やわらかいタラをしこしこにするため添加物の多い食材となり、ハレの日のごちそうの座から下ろされてしまいました。

まがいもの、もどきの食品が出回る現状は食文化の危機です。欧州にみるように、伝統食品の製造法を守ったものだけにその名を名乗ることが出来るようにする本物を守り引き継いでいく作業がいま、必要と思います。ドイツのビール純粋法や、フランスでは、粉からちゃんと発酵させて作っている店だけに「パン屋」の看板が許されるように。

本物の食品を残していくにはその価値を認めた表示制度を作ることでしょう。EUの地理的表示規則では農産品・飲食料品の名称で特定の地理的領域と密接な関係を有するものを「原産地呼称」又は「地理的表示」として保護しています。たとえば「パルマハム」がそうです。その品質は世界中から高い評価を得ています。パルマハムは、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州に属するパルマ地方の丘陵地帯で何世紀も変わらぬ製法で作り続けられ、このパルマ地方でのみ生産が認められます。エミリア・ロマーニャ州はイタリア食肉加工の発祥地ともいわれ、農業・酪農に向いた環境からバルサミコ・ヴィネガーやパルミジャーノレッジャーノ・チーズなどで知られています。

パルマハムの原料となる豚は認定牧場で生産飼育され、飼育中の餌にはパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズの製造過程でできる乳清が含まれている為、まろやかなチーズの風味を感じるともいわれます。またパルマハムには塩以外一切加えず自然な熟成方法をとります。標高900m のアペニン山脈から谷に沿って降りてくる風がハムの自然な乾燥に絶好の気候をもたらしているのです。

フランスでも原産地統制呼称(AOC)として、農産物・食品の特殊性が地理的範囲・地域独特のノウハウに由来し確立された社会的評価を有していると認定された場合に、認定原産地名称を取得できる制度があります。食べものは気候風土と密接なものです。「地産地消」のことばのように、そうした自然風土とのかかわりのなかで育まれてきた食文化による食べものこそ、旅の楽しみでもあり、豊かな食文化として伝承していくべきものでしょう。日本はあまりにも食品の工業化、加工食品化、画一化をしすぎた感を否めません。

第4の基準、有機農業/農産物

食べものは農業によって生み出されますが、日本の場合、野菜果物は輸入農産物との競合で衰退、米は消費減で価格下落という状況です。衰退する日本農業に私たちの食の未来がかかっています。どうすればよいのでしょう。グローバリズムから日本を守る砦となり得るのが有機農業です。国内農業の生き残りは有機農業への転換に尽きます。有機農産物の広がりをどう作っていけるかが日本の食と農と環境のキーワードとなるでしょう。なぜならそれは人の根本的ニーズである安全で質の保証された栄養価のある健康を守る食べものを提供し、環境保全的であるからです。現在価格が高く、流通量も限られているのは、有機農業を特殊で亜流と位置づけ、転換を本気で取り組むことをしてこなかったからです。 欧州ではオーストリア、スイス、イタリアなどオーガニック農地率が10%近くの国々が出てきています。リヒテンシュタインは25%を越えています。

欧州では第4の基準ということが言われています。それは「健全な未来のための基準」というものです。これまでの「表示」、「価格」や「品質」だけでなく、未来世代のために健全な食・環境・食料基盤を残していける生産を行おうということなのです。

(2005/10/27)

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