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遺伝子組み換えイネの田植え強行される!


抗議の中、田植え強行

中央農業総合研究センター(つくば)傘下の北陸研究センター(新潟県上越市)は、日に日に中止を求める声が高まっている中で、5月31日遺伝子組み換え(GM)稲の田植えを強行しました。

朝8時に上越有機農業研究会など地元の9団体で組織する「遺伝子組み換えイネの栽培中止を求める連絡会」が北陸研究センター前で抗議集会を開き100人近い人たちが早朝にもかかわらず集まりました。私もこれに参加しました。

報道各社も多数取材にきていて関心の高まりを感じます。まず、集会後連絡会代表の天明さんが決議文を読み上げ中止を求めたのに対し、片山秀策センター長は地元同意は得ているといって決議文を憮然と受け取り足早に建物の中に消えました。

やがて9時からセンター内の実験田で田植えが始まりました。田んぼの周囲を高さ1.8mの金網フェンスで囲み、周囲の道には職員がぐるりと等間隔で取り囲むように立っています。フェンスの中に向かって参加者が抗議の声を挙げるなか、職員5人が1050本のGM稲を手植えして短時間で植え終えてしまいました。

なおセンターは6月下旬に第2回の田植えを予定しています。なんとしても中止させねば! なぜなら、これが日本の米の未来を左右する分かれ目になるからです。

地元同意はとれていない

現地で交わされた参加者と研究センター職員とのやりとりで実験田んぼに隣接する農家15軒の同意をとっていると言っていたのですが、ちょうど隣接農家の人が来ていて、話も聞いていないし、同意した覚えもないと発言。実際は自治会長に話し、回覧を回してもらうよう依頼したというだけで、同意書を取ったわけではないことが判明しました。

上越市長は北海道条例(GM作物栽培規制)を検討すると述べ、JAえちご中央は反対決議を出しました。同意をとったという言い分は崩れています。

北陸研究センターは交配による品種改良、農業技術指導、一部有機農業の研究も行い、これまで地元農家に頼られる存在だったのにと農家は言います。さらに、センターの職員のなかにも組み換えの実験を行うことに反対の人もいるというのです。これは農水省直轄の中央農業総合研究センターの意向なのです。よりにもよって米どころのど真ん中でGMイネの実験とは!

欧州の保険会社ですら引き受けないGM汚染被害

5月24日に参議院議員会館内でもたれた集会では地元生産者から風評被害が起こったらどう責任をとるのかという質問が出されたのですが、風評は特定の人が流す誤った情報によるからで、その人を特定して説明し、納得させるなど手を打つ、風評被害は起こさない覚悟、田植えは実施するというばかり。会場の人たちは無責任な発言と怒りをあらわにしました。

欧州では保険会社はGM汚染による損害補償の保険は引き受けないと発表しています。とうていカバーができるものではないからです。結局泣かされるのは、開発企業でもなく、許可した行政でもなく、いつだって農民や住民なのです。じょうだんではない! 有機生産者グループから始まった反対のうねりは地元の生協、消費者団体、農協、組合、市議、県議たちを巻き込んで広がっています。

病気に強いイネ?

センターが植えたのは、「コシヒカリ」系統の米「どんとこい」に、病害に強いカラシナの遺伝子を導入したいもち病などに強いイネという。このイネのいくつかのGM技術が特許申請中と胸を張ります。しかし、通常の交配育種で病気に強い品種は作り出されているのに、わざわざ不確実な組み換え技術を使う必要はありません。

センターは2002年から研究を始め、温室実験を経て今年から屋外での実証実験と進めてきました。

GM稲の屋外栽培実験は1993年、農業環境技術研究所(茨城県つくば市)で始まりました。今年度は新潟県上越市の中央農業総合研究センター・北陸研究センターのほか、東北大学(仙台市)、農業生物資源研究所(つくば市)で予定されています。昨年JA全農の営農・技術センター(神奈川県平塚市)で予定した花粉症緩和GMイネの野外栽培実験が住民、消費者の反対で中止となりました。現在農業生物資源研究所がこの開発を続けています。

遺伝子特許競争

片山秀策センター長は「国際競争に打ち勝つには、ここでGM技術の発展を閉ざすわけにはいかない」と報道に述べています。国際競争に勝つというのは、消費者に選択されるということです。しかし、表示したら売れないGMは市場での国際競争力を持ち得ないものです。

また遺伝子汚染によって、普通のコメまで売れなくなるリスクを抱えています。片山センター長がいう「国際競争」とは、実は組み換え技術の特許競争のことなのでしょう。種籾に特許権を付与して、特許料をかけた種を売る、そのことで誰が得をするのか。日本の農民でも途上国の農民でもなく、食べる消費者でもないことだけは確かです。

(2005/6/5)

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