タイトル 「食政策センター ビジョン21」主宰の安田節子公式ウェブサイト/
リンクは自由です(連絡不要)/お問い合わせは管理者まで

安田節子ドットコム

遺伝子組み換え作物の野外栽培と組み換えいらない全国のうねり


愛知県:除草剤耐性組み換えイネ開発中止

一番商品化に近かった愛知県農業試験センターとモンサント社が共同開発した除草剤耐性組み換えイネは、全国的な反対運動により2002年、開発中止に追い込まれました。

しかし、〇三年四月三日、農林水産省は、北上市の財団法人「岩手生物工学研究センター」が開発した耐冷性イネの屋外圃場での生育実験を認めました。四月二八日には、北海道農業センターが、トウモロコシの遺伝子を導入したイネ(光合成活性化による高収量品種)の一般圃場試験を始めました。

また、つくば市の農業環境技術研究所では、イネの遺伝子を導入したトリプトファンを高蓄積するイネの隔離圃場での試験栽培を始めています。香川県の善通寺市にある独立行政法人近畿中国四国農業研究センター四国研究センターでは、農水の委託を受け、縞葉枯れ病ウィルス抵抗性の遺伝子組み換えイネの野外栽培試験を行って今年で三年目になります。

推進側の苦しい弁明

高まる消費者の反対から日本企業が軒並み組み換えイネ開発から撤退しているにもかかわらず、国の機関が税金を使って主食のコメの組み換え開発に地道を上げ、地元の反対を押して野外栽培に踏み切っています。いずれも地元説明会では、「これまでとは違う生産者メリット、消費者メリットがあるものを開発、商品化は考えていない、実証試験をしたいだけ」と弁明。

商品化しないなら、野外栽培実験で汚染を引き起こすリスクを犯してまでの開発は必要ないはず。岩手生工研は耐冷性品種を作り出すというが、問題のある組み換え技術によらなくてもこれまで品種交配でやってきたではありませんか。北海道の場合、減反強化がされているいま、これ以上の高収量品種の開発が急がれる理由がありません。それにイネに大きな負荷を与え、どんな結果を招くか予測できません。「生物的に弱まると自家受粉植物の他家受粉率が急速に高まる」(筑波大名誉教授生井兵治氏)との指摘もあります。つくばのイネは健康食品目的だったのがうまくトリプトファンが蓄積せず、家畜飼料用に目的を転向したというその程度のものです。

これまでと違って植物やイネからの遺伝子を導入しているからと、ことさら安心感をアピールしますが、実際は抗生物質耐性遺伝子はじめいろいろの生物や微生物由来の遺伝子を組み合わせたものが導入されています。植物遺伝子を使おうと組み換え技術がもたらすリスクに変わりはありません。

また、主食の米まで遺伝子組み換えを食べるということになれば、それは日本が壮大な人体実験場になるということです。そして唯一自給している米が、遺伝子組み換えによって汚染される事態になります。国民が望まない、国土に取り返しのつかない事態を招くようなことに多額の税金を使って開発を強行する農水省の姿勢に怒りと批判が高まっています。これまで全国的に署名活動が展開され、試験場の地元では交渉がくりかえされてきました。

岩手:集会報告

一一月二八日、盛岡で「遺伝子組み換え作物いらない全国集会」が13団体によって共同開催されました。岩手県と島根県は遺伝子組み換え開発予算が一番多くついているところです。岩手生物工学研究センターは岩手県が一〇〇%出資しています。その県庁所在地、盛岡に全国から四五〇人が集まりました。私も横浜の仲間2人と参加しました。集会後、市内を県庁までにぎやかにデモをして歩き、この日までに全国から集まった「遺伝子組み換え稲の研究・開発中止を求める署名」四〇七、二一二筆を岩手県農林水産部に提出しました。

農林水産部長は、北上市にある遺伝子組み換えイネの野外実験を、当初の二年計画の予定を短縮して、今年一年で中止すること、さらに、今後一切遺伝子組み換え稲等の野外実験を行わないことを明言しました。市民の画期的勝利でした。

集会での、生活クラブ生協・岩手の取り組み報告では、「耐冷性」「イネの遺伝子をイネに」ということで当初意見が分かれましたが、学習を重ね、「疑わしきは使用せず」「環境汚染は論外」の視点で、遺伝子組み換えに頼らない農業と食料の基本政策に立ち返る判断ができたといいます。冷害に見舞われたなかでシュマイザーさんの講演集会が成功し、生産者の立場からも組み換え拒否の共有がはかれたというのです。交渉の過程で、導入されるのがイネの遺伝子だけではなかったことも判明。県下の生協が連携し、運動を高めていきました。

「岩手県に遺伝子組み換えイネの研究・開発の中止を求める意見書の提出」を求める請願が水沢市議会で採択され、これが実行されました。地元のこうした運動の積み重ねが功を奏した結果と思います。

香川でのとりくみ

香川県善通寺では、組み換えイネの作付け実験が明らかになった時点で、地元の生協を中心に素早い取り組みが行われ、交渉・署名集めの結果、三年間の実験は今年で終了し、今後は行わないという回答を引き出しています。

北海道のケース

北海道は地元説明会で住民の納得を得られなかったにもかかわらず、説明会翌日に田植えを強行して強い批判を浴びました。十二月九日、道は遺伝子組み換え作物栽培を条例で規制する方針を発表。二〇〇四年一月にガイドラインを策定し、道への届出や周囲住民、農協などの同意を得ることを生産者に義務付け、花粉の飛散による交雑や他の作物への混入防止をうたいます。自然環境への影響が懸念される場合、知事が栽培中止を生産者に勧告することも盛り込みます。栽培規定条項を盛り込んだ「食に関する条例」(仮称)の二〇〇五年四月施行を目指すことになりました。北海道も市民の思いが実ったのです。

開発・栽培中の茨城県

残るは、茨城県つくば市の独立行政法人です。農業環境技術研究所は隔離圃場で高トリプトファンイネを、中央農業総合センターは縞葉枯ウイルス抵抗性イネをやっています。組み換えダイズの一般圃場試験は農業環境技術研究所と農業生物資源研究所の2ヶ所で行われています。

来春の組み換えイネと大豆の野外栽培をなんとしても止めなければなりません。バイオ作物懇話会の大豆作付け、そしてモンサント社の実験圃場もあります。組み換え大豆にしろ、イネにしろ、野外栽培が一カ所でも行われる限り、日本は、遺伝子汚染の危機の瀬戸際といえます。

なお、茨城県では地元の人たちの働きかけで、十二月一二日水海道市議会が「遺伝子組み換え作物の栽培禁止を求める意見書」を採択、続いて一八日谷和原村議会でも採択されました。

その他の地域

このほか、すでに神奈川県綾瀬市、茅ヶ崎市の意見書採択、また安全食品連絡会が和歌山・橋本市議会に出していた「橋本市内において遺伝子組み換え作物の栽培禁止を求める請願」が十二月一二日に採択されています。グリーンコープを母体とする福岡ネットワークが北九州の2つの市議会で組み換えイネに関する請願を採択させたと聞いています。

なお、意見書や請願、条例など採択されたところがありましたら、当方までお知らせください。

「土と健康」2004年1月号に執筆した原稿の一部に加筆(2003/12/25)

[INDEX][遺伝子組み換え食品目次][遺伝子組み換え食品コラム・目次]

©2000 Setsuko Yasuda All rights reserved.