「いらない!遺伝子組み換え食品全国集会」ヴァンダナ・シヴァさんの講演要旨
序文──安田節子
「ビジョン21」は「3.25いらない!遺伝子組換え食品全国集会ヴァンダナ・シヴァ講演会」実行委員会の呼びかけ団体として、また事務局メンバーとして集会準備を担いました。
集会は大盛況で、多くの参加を得てシヴァさんの講演から新しい運動の広がりへ繋がる熱気を共有できました。
グローバル企業がもたらす力が支配する世界は、イラク戦争ともつながり、遺伝子組換え食品の問題性もインドの農民が受けている現実からより明らかにされました。
以下はATTAC ジャパンからのまとめからです。
3月25日「いらない!遺伝子組み換え食品全国集会」
ヴァンダナ・シヴァさんの講演要旨
ヴァンダナ・シヴァさんは講演の前に、イラクの戦場にいる人々のために黙祷しました。
遺伝子組換えについて
遺伝子組み換えは食料システムに対する戦争である。戦争に使われた化学物質(爆弾から生まれた窒素に基づく化学肥料・化学兵器を作る過程で作られた農薬)がそのまま食料に使われようとしている。
食料生産の犠牲者
1984年、インドのボパールでは農薬工場の爆発で三万人が死亡した。こうした食料生産の現場のみでなく、消費者はそれを摂取した結果、アレルギーや癌という形で犠牲になっている。
緑の革命の失敗
緑の革命に携わったノーマン・ボーローグ(元デュポン社)は1970年にノーベル平和賞を受けたが、受賞理由には「共産主義を広めないため」も含まれている。
ところが緑の革命は平和どころか、従来の農業の5倍の水を必要としたため「水をめぐる戦争」を引き起こした。緑の革命が我々に押し付けたものは企業の知的所有権、貿易ルール、種子の独占、土壌劣化である。
種子会社が「今までの2倍の収量」と謳ったBTコットンもコーンも、それまでの収穫量を大きく下回った。
緑の革命以来、農業におけるインプット:アウトプット比は3:1である。インドでは農民たちは多額の負債を抱え、25%の農民が土地を失った。80年代パンジャブ地方では3万人の農民が自殺した。
残酷な畜産
現代農業における畜産は動物にとって最も重要で美しい部分を切り落とす。牛が角を、鶏が嘴を、豚が歯と尻尾を切られて狭い畜舎に詰め込まれて育つ。
インドでは牛は聖なる動物である、なぜならその排泄物は土を豊かにするからだ。
ヨハネスブルグサミットにおいて私は、その聖なる牛の糞を両手いっぱいに頂戴した、それをくれた相手というのはモンサントの社員だった。モンサントとしたらこれは私を侮辱する行為のつもりだったらしい。そのくらい多国籍企業と農の現場にいる者との認識はずれている。
ゴールデンライスの欺瞞
食糧不足の地域のためにシンジェンタ社やモンサント社がビタミンを含んだGMイネ「ゴールデンライス」を開発中である。
が、ビタミンAを多く含んだ米なら古来から赤米や黒米などたくさんあるのだ。また我々は、ビタミンを摂取するためには米でなく緑黄色野菜を食べればよいことを知っている。企業だけがこうしたことに無知なのである。
特許という名の暴力
多国籍企業は、その地域特有の生物種から、原住民の知恵によって産み出された薬などを、自分が発見したと主張して特許申請しようとする。
アメリカ・テキサス州の企業はインドの全粒粉アタを独占しようとしたが我々はそれを阻止した。テキサス人というのはイラクの原油は自分のもの、インドの小麦は自分のものと思っているらしい(笑)。
この度の戦争のシンクタンクである、アメリカンエンタープライズインスティテュートは、ヨハネスブルグサミットにおいて「地上のものすべてが企業の所有物にならねばならない」と主張している。
インドでは現代農業に移行して以来、特に90年代以降は生産コストが上がったのに対して、売り値はダンピングによって買い叩かれ、2万人の農民が自殺に追い込まれた。
一方、アメリカでは2002年の農業法改正でダンピングへの補助金が増額された。それによれば生産コストの半額で輸出できる。
コットンの輸出においては2億5千万ドルの損失があったが、補助金でサポートされている。これは日本などがWTOで全廃を迫られている国内農業補助金とは大きく異なる。日本の農業補助金は海外に悪影響を与えない。
現代の農業は、資本の中で農民から企業に富が移行するシステムになっている。企業は農民から富を吸い上げる。
持続可能な農業とは
私が提唱する「持続可能な農業」とは、再生産のプロセスを持続できる農業である。それには2つある。
1つは、土壌と種子の生産性。もう1つは、水の循環である。
土壌にたくさんの微生物が住むことができ、水が生態系を豊かに保ち循環する農業が持続可能な農業と言える。土壌微生物を殺す技術、水を大量に使用する農法などとんでもないことである。
また食料輸送においては、1km移動させるためには10kgのCO2を排出する。なるべく近くで採れたものを食べ、フードマイレージを減らし環境を汚染しない農業こそ持続可能と言えよう。
(2003/4/21)