「脱石油の未来に向けて」
アフガン攻撃の真実
昨年の9・11以降、テロ防衛を口実に、ブッシュ政権はこれまでの「抑止」から「先制攻撃と支配」へ国家安全保障政策の大転換を行いました。米国がテロの疑いがあると判断すれば、先制攻撃を行うというのです。
アフガニスタンの場合、タリバン政権がテロを行ったわけではありません。寄留者であるビン・ラディンを差し出せと言われ、9・11テロの首謀者であるという証拠を示せば国際裁判に引き渡すと言ったのですが、米国は耳を貸さず、空襲を強行しました。
いつの間にかタリバン政権そのものが悪と宣伝され、ビン・ラディン探しではなく、タリバン政権打倒が目的にすりかわりました。しかし、9・11前にアフガン攻撃準備が整っていたという話を聞けば、最初からアフガン攻撃が目的だったともいえます。
激しい爆撃を受け、多くの一般市民を含む人々の命が奪われました。カルザイ新政権となり、まっさきに取り組んだ(取り組まされた)のが石油パイプラインの敷設でした。地雷の撤去や生活インフラの復興が真っ先のはずではないですか。
次は北朝鮮・イラク
続いて、9・11事件との関わりが説明されないまま、イラン・イラク・北朝鮮を突如、悪の枢軸と名指し、攻撃対象にすると発表。米軍が力を握るNATO速戦部隊は、受入国の許可がなくてもテロリスト基地と疑われるものは攻撃すると発表。
国際法違反のこの無法が、「テロ防衛」を振りかざせば、まかり通ってしまうとは!
しかも、攻撃対象に想定されているのは欧米の旧植民地のアジア、中東、アフリカ諸国であって、けっして欧米諸国内ではないのです。貧しい、肌の色の違う人々に対する、白い肌の人たちの優越と差別が根底にあるように思えてなりません。
エネルギー不足という背景
さて、なぜ米国政府がこのようななりふりかまわない力による支配をむき出しにするようになったかです。それは多分、米国がエネルギー不足という脅威に直面しつつあるからではないでしょうか。
米国は世界一のエネルギー浪費大国です。世界人口の4.6%を占めるにすぎない、恵まれた人々が、世界の温暖化ガスの25%を排出しています。
しかし、これまでエネルギー浪費を許してきた安い石油が不足する事態が間近に迫っています。
現在、米国の総消費量の48%が国内調達の石油ですが、20年後には34%に落ち込むジリ貧状況にあります。
そのため、ブッシュ政権は環境保護派から強い批判を浴びようとも、アラスカの北極野生生物保護区での石油採掘を認めました。そして石油埋蔵量が豊富なペルシャ湾岸諸国(イラクを含む)、アフリカ(アンゴラ、ナイジェリア)、およびラテンアメリカ(コロンビア、メキシコ、ベネズェラ)の石油を安定的に手に入れられるようにしたいと願っています。
しかし、これらの地域は政情不安定、あるいは反米的であるため、安定調達のためには強大な軍事力が必要と考えています。これに石油利権が深く絡んでいます。
グリーンピースの指摘
以下はグリーンピース/USA事務局長の指摘です。
「イラクの政権交代が実現すれば、イラクの1日当たりの石油生産量は今の2倍から3倍になり、500万バレルまで増える。1バレルあたりの利益がおよそ5ドルだとすると、現在イラクから締め出されている米国の石油企業が見込める利益は90億ドルにも上る。この数字には巨大石油企業のハリバートンが、油田の建設、石油パイプラインの設置、貯蔵施設の建設、運搬システムの構築などのインフラ整備から得るであろう莫大な利益は含まれていない。」
ブッシュ政権の背後にある石油企業
ブッシュ政権には石油企業の力が強く働いています。
ちなみにブッシュ大統領自身がテキサスの石油会社ハーケン・エナジー社の社外取締役を務めて多額の低利融資を受け、株の売買で巨額の利益を得てインサイダー取引の疑いをもたれたという経歴であり、副大統領ディック・チェイニーはブッシュ政権に入るまではハリバートン社の最高経営責任者(CEO)でした。
商務長官ドン・エバンズは石油・ガス会社のトム・ブラウン社の会長兼CEOでした。大統領補佐官コンドリーザ・ライスはオイルメジャーのシェヴロンの取締役だったという具合です。
石油産業と軍事企業の利害の一致
まさに「石油」資源と利権の確保が武力を必要としているのです。また、軍事予算の増大、新兵器デモンストレーションや在庫一掃の機会を狙う軍需産業とも利害を一にしています。
石油産業、軍需産業が手を結び戦争を作り出す勢力となっています。しかし、石油は、どのみち40年位で枯渇するといわれている有限の化石燃料です。
被害を受けるのは弱者
それなのにこれを先進国が浪費し尽くして二酸化炭素を大量に排出し、温暖化を進めて気候変動、旱魃、海水面上昇を引き起こしています。
二酸化炭素排出には関係ない暮らしをしている経済的に弱い国々の人々がまっさきに生存を脅かされています。そして全人類、生きものを乗せた地球号を破滅に向かわせています。
また、輸送タンカーの事故は繰り返され、流れ出た重油が、海も海洋生物も海岸線も、漁業者も痛めつけています。
しかも産油国の油王と、石油七姉妹と呼ばれる巨大石油企業(シェル、モービル、BPなど)が独占的に石油採掘権を握り、価格支配をしていることが世界経済の不安定要素となっています。
脱石油への道
人類がこの危機を脱出するには、まず「脱石油」の道を選択することです。
自然エネルギーへの大転換そして省エネ、エネルギー利用の飛躍的効率化が、新たな地平を切り開くでしょう。
石油を不要とする、これらの技術が新たな産業を生み出し、雇用を生み、環境回復、平和を蘇らせるでしょう。
日本はその技術力で脱石油社会の実現に貢献し得ると思います。いま必要なのは未来への明確なビジョンとそれに基づく政策転換を政治的にどう実現するかです。
米国が陥っている専制の過ちに加担することなく、脱石油の、平和の道を切り開くことが、日本の国が世界に貢献し得る道ではないでしょうか。
「月刊むすぶ」 No.385 (2003年1月1日発行)に執筆
(2003/1/30)