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遺伝子組換え食品の現在


世界の栽培状況

現在遺伝子組換え(GM)作物を商業栽培しているのは、米国(72%)、アルゼンチン(17%)、カナダ(10%)で、この3国で、商業栽培面積の99%を占めています。米国はGMの主な生産国であり、大豆、トウモロコシ、綿では生産面積の半分以上がGM品種が占めています。

表示問題

しかし、米国の、GMが大量に混ざった作物は、いまや輸入国の強い拒否に直面しています。現在35カ国以上がなんらかの輸入制限や表示の義務を課したり、その予定にあります。欧州連合は1998年以来新たなGM輸入認可を凍結しています。そして今年7月欧州議会はGMを0.5%以上含むすべての食品・添加物・飼料に表示と追跡可能性を義務付けることを多数決で採択。欧州の規制は一層厳しいものとなります。

米国政府はアグロ(農業)バイオ産業の死を意味するとして食品にGM表示をしない方針ですが、ABC Newsなどの主要な世論調査によればいまや消費者の90%が表示を求めているといいます。

新たな危険性について

世界保健機関(WHO)や米国医師協会はGM食品の段階的廃止を求めています。8月に発表された米科学アカデミーの専門委員会報告では、遺伝子組換え生物が生態系に悪影響を与える危険性や、組換え生物が作る新たな蛋白質がアレルギー反応を引き起こす可能性から「現在のFDA(食品医薬品局)の規制は不十分」と指摘しています。組換えの殺虫トウモロコシ、「スターリンク」にみるように殺虫蛋白のBTエンドトキシンはヒトや動物の免疫システムや消化システムに害を与えます。米国でGM殺虫トウモロコシを自家飼料とした何件もの養豚家の豚が受胎率が8割も下がってしまったということも報道されています。

日本の状況

日本は、現在6作物(大豆、トウモロコシ、菜種、綿実、ジャガイモ、甜菜)43品目の輸入流通が認められ、量的にもGM作物の最大の輸入国となっています。しかし、2001年4月から、大豆とトウモロコシについては24食品に表示が義務化され、表示対象となった業界は一斉に非組換え作物へシフトしました。こうしたGM作物への国際的な拒否状況は米国産のトウモロコシ・大豆の在庫を増やしています。

途上国への食糧援助に関する問題

現在南アフリア6カ国の1300万人もの人々が旱魃(かんばつ)による激しい飢餓に見舞われています。これに対し、合衆国国際開発局(USAid)は食料援助として組換えトウモロコシ3万6千トンを送りました。

しかし、ジンバブエのムガベ大統領は「先進国の消費者が望まない、そして安全性も確認されていないものを国民に食べさせるくらいなら餓死の道を選ぶ」と言って敢然と拒否しました。モザンビーク、ザンビア、ケニアも同様に拒否しました。

遺伝子組換えトウモロコシはインドのサイクロン被害者に食料援助として同様に送られ、現地からあがったクレームに対し、USAid高官は「こじきに選択権はない」と傲慢で恥ずべき発言をしています。

8月アフリカで開催されたヨハネスブルグ地球サミットの宣言文に「途上国のためにバイオ工学の提供が必要」とする一文が盛り込まれましたが、米国高官の働きかけが功を奏したといえます。

米国農務長官アン・ベニーマンは「飢餓のあるところにバイオ工学はとてつもなく大きな意義がある」と断言してますが、彼女は世界最初のGMトマトを作ったカルジーン社の元部長です。カルジーン社は現在モンサント社に保有されています。米国の「回転ドア」といわれる官業癒着は一層強まっている感があります。モンサント社とその関連企業が2002年共和党選挙運動資金として献金した額は200万ドル(約2億4千万円)に上っています。

小国へ圧力かける米国

また、米国は圧倒的力を背景に、輸入禁止を決めたスリランカ、ボリビア、クロアチアなど小国に対し、貿易障壁としてWTO提訴と高額罰金で脅して禁止措置を無期延期にさせました。このように、世界中食べたいと望む人たちがいないのに無理やり食べさせようとしているのは彼ら多国籍企業が特許をかけた種子による食料支配を狙っているからです。

安全性について

食品としての安全性については新たな知見によって一層安全性への疑いが強まっています。そもそも安全性評価といっても、安全性試験は開発企業、たとえばモンサント社のみが行い、そのデータは企業秘密として秘密にされる部分が多く、他の科学者による再検証(ピアレビュー)を許さない、いんちき科学なのです。

今年7月英国ニューキャッスル大学で行われたボランティア(人工肛門の人たち)による初めての人での実験で、GM大豆を食事で食べた後のテストで組み換え由来のDNAが腸内バクテリアに取り込まれていました。これまで消化器官内に入った組換えDNAは消化液で分解されるので問題ないとされてきましたが、これが覆ったことになります。

こうした状況からみても、日本が組換えイネの開発に税金を投入するなど、とりかえしのつかない、とんでもない愚行ではないでしょうか。

日本有機農業研究会発行「土と健康」2002.12月号に執筆
(2002/12/26)

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