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食品添加物の大量認可


30品目一挙指定

2002年7月12日、厚生労働省は食品添加物の違法使用による食品回収の多発を背景に、なんと新たに食品添加物30種類(表1)を一挙に追認する方針を発表しました。

きっかけは今年6月中国産食塩から未認可の「フェロシアン化ナトリウム」が検出され自主回収されたことです。

これが塩の固結防止剤として海外で広く食品に使用されていることがわかり、大規模な回収になるまえに認可することにしたのです。そして同じように海外で使用され輸入食品に使用されている可能性のある添加物を一挙にスピード認可することにしたのです。

そもそも食品添加物は体にとって異物であり、健康のためにはできる限り摂取しないようにすべきものです。しかし加工食品が増大する1950年代、60年代に食品添加物はうなぎのぼりに増え続けていきました。

大量に使用されていた合成甘味料チクロ(サイクラミン)が発ガン性で禁止されたのを受け1972年食品衛生法が改正されました。その際、「食品添加物の使用は極力制限する」という国会の付帯決議がなされました。

しかしその後の輸入食品の増大に伴い、83年に11品目の一挙指定が行われました。その後使用実態のない添加物を削除しながら新規指定をするなどして今日に至っています。

現在使用が認められているのは、指定添加物(化学合成)が339品目、安全性確認はしていないがこれまでひろく使用実態があるクチナシ色素などの「既存添加物」が489品目、動植物からの「天然香料」約600品目と食べ物を添加物として扱う「一般飲食添加物」約100品目を合わせた約1500品目となっています。

これまでは業者が使用したい添加物を安全データをつけて申請し、それを審査して指定していたので年に1,2品目くらいでした。ところが業者の申請がなくとも厚労省自ら指定を大量に行うというこれまでの「極力制限」の方針を大転換したのが今回の発表です。

指定予定の30品目の物質を見てみましょう。保存料ソルビン酸カルシウムはマレーシアから輸入の冷凍パン生地から、乳化剤ポリソルベートは米国から輸入のココナッツミルクから違法物質として検出されていました。

カルミンは「コチニール色素」のことです。コチニール色素は中南米に自生するサボテンに寄生する昆虫(エンジムシ)を乾燥させたものから抽出した橙〜赤紫色の色素です。ヨーロッパなどではカンパリなどの酒類やジャムの着色に利用されています。

ナイシンは乳酸菌が生成する抗菌物質でチーズ、缶詰、瓶詰め食品に使用され、ベーコン、生ハム、ローストビーフなど食肉製品への利用も期待されています。

亜酸化窒素は欧米でレトルト食品の製造工程で用いられているもの。

固結防止剤フェロシアン化ナトリウムは岩塩を多く使う欧米で広く使われていて、輸入食塩を使うスナック菓子メーカーは指定を歓迎しています。

今後これらを使用した輸入食品・食材がどっと入ってくることや国内での使用も行われるようになります。

添加物1人当たり24キロがさらに増える!

すでに1500品目ある添加物が今後さらに増えていくことになります。2001年の食品添加物需要量は約311万トンですから、赤ちゃんからお年よりまで人口1億3000万人で割ってみると一人当たり年間約24キロも使用していることになります。

1984年の需要量は約60万8千トンで一人当たり5キロ/年でした。なんとこの間に5倍にも増えています。

それなのにこれを削減するどころか今後は大手を振って増えつづけることになったのです。

一挙指定の背景としてこのところ輸入食品や輸入食材に使用される違法添加物の発覚が跡を絶ちません。自主回収の負担増を懸念する業界から欧米で許可している添加物の認可拡大を求める声が強まりました。

添加物メーカーは中小企業がほとんどで食品添加物指定を受けるための安全性資料を提出するには1億円くらいの負担がかかり、そのうえいったん認可されればすべての企業が使えるようになるので申請する気持ちになりにくいといいます。

だからといって無認可のまま使用して良いという弁明にはなりません。しかし厚生労働省はこの要請に答えたのです。

マスコミでは外国で使用されているのに、膨大な量の食品を違反品として回収廃棄するのは無駄ではないかという論調も見うけました。

こうした考え方は現状追認でしかありません。まず食品添加物は消費者には不用のものであり、健康に影響があるものですから制限していくべきです。

安全性は単品でしか調べられていません。1回の食事でいくつもの添加物が体内に入り、複合作用、相乗作用が起こりますがそのことは一切調べられていません。

アレルギーの重要な原因であることは周知のことです。しかし氾濫する加工食品や輸入食品には腐らせないため、保存料、防腐剤、酸味料などが必要となり素材の悪さを覆い隠す着色料、香料、調味料などが使われるのです。

業者のために必要であって消費者が使って欲しいと願うような添加物はありません。

生協の担当者が食品添加物は必要という事例として「濃縮果汁還元ジュース」を挙げ、これには香料を加えないと味がせず、とても飲めたものではないと新聞記事にありました。

私たちはそんなものを飲みたいでしょうか。果汁を脱水して輸入し、今度は水道水を加え、合成の色や香り、糖分、調味料を添加してジュースに仕立て直すのです。

果汁ジュースというのは果汁を絞ったままのものでなくてはおかしいのです。「果汁100%ストレートジュース」という表示のものがそういうものなのですが、置いてあるスーパーは多くはありません。

本物の食品が少なく、まがいものだらけです。食品添加物の指定基準は

(1)安全性が実証または確認されるもの

(2)使用により消費者に利点を与えるもの

となっています。「消費者」であって「業者」ではないのです。しかし(2)の項目で「食品を美化し、魅力を増すもの」として着色料や香料が認められています。

これは素材の質をごまかすものであり、業者のために使用されるものと言えるでしょう。いずれにしても業界の食品添加物指定増加の要請を受けて使用実態を追認する厚生労働省の対応は、国民の健康を守るという本来の任務を放棄し、業界利益を守ることを優先したと言えます。

食料貿易のための国際基準統一化

もうひとつの問題は、安全基準の国際基準統一の圧力です。

世界貿易機関(WTO)のSPS(植物検疫衛生措置)協定で各国の食品安全基準を国際的に統一化することが求められています。

国連関連機関のコーデックス委員会の下に食品添加物専門家会議(JECFA)というのがあり、そこで食品添加物の安全性評価論文をもとに安全と認められる添加物リストを作成しています。

このリストにあるものや輸出国の使用する添加物を輸入国に認めていくよう求めています。海外では国内で認めていない約600品目もの添加物が安全なものとして使用が認められています。

日本のように世界中から食料を輸入する国はSPS協定のもと、これらの添加物を今後認めていくことになるのです。コーデックス委員会の国際基準設定の目的は食料貿易の促進であり、消費者の健康を害うおそれのない範囲という枠をかかげてはいますが、どちらにウエートがあるかはこれまでの規格を見ればわかります。

例えば保存料の亜硝酸ナトリウムや硝酸カリウム、硝酸ナトリウムはハムなどの発色剤として使用されています。これらの日本の基準は最大残留量70mg/kgです。

しかしコーデックス基準では亜硝酸ナトリウム125mg/kg(日本の1.78倍)、硝酸カリウム500mg/kg(日本の7倍)、硝酸ナトリウム500mg/kg(日本の7倍)とたいへんに高い基準です。

亜硝酸ナトリウムなどは魚肉のアミノ酸と結びついて強力な発ガン物質ニトロソアミンを作り出すおそれがあります。それで生協や有機食品メーカーなどはこれら発色剤を抜いた無添加ハムを作っているのです。

日本は魚介類に着色料は認められていませんがコーデックス規格では冷凍エビに着色料として赤色3号、赤色102号、カンタキサンチンの使用を認めています。カンタキサンチンは今回の30品目にある着色料です。

ヨーグルトにアゾルビンなど着色料を認め、また発ガン物質である臭素酸カリウムをコーデックス基準では小麦粉処理薬品として認めています。日本ではパンに最終製品完成前に分解・除去が規定されていますが、コーデックス規格ではそのような規定はなく、パンやスパゲッティ、マカロニなど小麦粉最終製品へ残留することになります。

業者など推進派は食品添加物は「食品を腐らなくして食中毒を防ぐし、食品ロスをなくすので飢えている人達に貢献する」といいます。

本当は遠いところからのものを腐らないように流通させ、見栄え良くして消費者に高く売ろうとするのに役立つからです。

コーデックスの危険性評価(リスクアセスメント)はどのようなものか?

消費者はリスクはゼロを要求するでしょう。しかし、コーデックスでは健康上のリスクと得られるベネフィット(利便性)のバランスを考慮した基準を目指します。

ですから発ガン性については発ガン性があるから使用禁止にするのではなく、ガンの誘発は用量によるとして、影響のない低用量の使用はよいという考えです。

そのため百万人に1人新たにガンが発生するリスクは無視しうるリスクとしています。コーデックス基準は消費者のリスクをいかに減らすかではなく、食料貿易企業の利益に重点が置かれているようです。

無添加がいい

なんども言いますが食品添加物は消費者には不用のものです。私たちの健康を守るために添加物が多用される加工食品を避け、あるいは表示を見て極力添加物の少ない食品を選びましょう。

できるだけ素材で買い求めることです。品質の良い食品は添加物不使用のものが多くおいしさが格段と違います。

腐らないほうがいいと思っていませんか。食べ物は腐るのが自然と心得、腐らせないうちに、上手に食べきる工夫をしましょう。

輸入食品の使用を減らし、国内で採れた旬の食材と品質の確かな添加物不使用の食品を選ぶ食卓で健康を守りたいものです。

(婦人の友9月号に執筆)

(2002/8/17)

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