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2019年07月

日米FTA(自由貿易協定)合意密約
5月27日に安倍首相と会談したトランプ大統領はツイッターで日米貿易協議について

〈Great progress being made in our Trade Negotiations with Japan. Agriculture and beef heavily in play. Much will wait until after their July elections where I anticipate big numbers!〉

(日本との貿易交渉で非常に大きな進展があった。農業と牛肉でとくに大きなね。日本の7月の選挙が終われば大きな数字が出てくる、待ってるよ!)

と発表。参議院選挙が終われば、日米FTAでTPP以上の市場開放を行うという「密約」が結ばれていることを明らかにした。

4月に開かれた日米首脳会談で、トランプ大統領は日米FTAの合意時期を5月末と述べた。

安倍首相はこれに慌て、トランプの選挙に有利なように日本の関税撤廃を約束するから合意の発表は選挙の後にしてほしいと頼んだのですね。己の権力維持のために米国に国益を売り渡す合意をし、それを隠して選挙を行うことは国民に対する背信行為だ。このことを投票に反映しなければならない。

日本は米国の要求に応え続けて食品の安全基準が底なしに緩和されまくっている。しかし関税についてはFTAなど協定を結ばないとできない。トランプは日米FTAで牛肉や農産物の関税撤廃をさせるつもりだ。日本が結んだ日豪FTA、TPP11、日欧EPAはすでに発効。加えて日本にとって最も厳しい日米FTAを結ぶなら、日本は食糧安全保障や自給を完全に失い、米国隷属化の奈落に沈むことになる。トランプのツイッターで密約が明らかにされ、日本が瀬戸際に立たされているのに、マスメディアはその危機を伝えない。

TPP11は、野菜や果物、農林・水産物のほとんどで関税を撤廃し、国会決議で除外するとした重要5品目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味作物)では30%もの関税を下げてしまった。これまで重要品目は国家安全保障、また地域存続などの観点から高関税で守ってきた。世界各国が少なからぬ重要品目に対して高関税を堅持している。

日本はこれまで米国やオーストラリア(豪)などの農産物輸出大国との二国間自由貿易協定は一貫して避けてきた。国内農業へのダメージが大きいからだ。しかし、TPP協議中、米国から牛肉輸入関税引き下げの圧力を受け、これを緩和させる目的で日豪FTAをにわかに結び、豪並の牛肉関税を米国に期待した。しかしトランプ大統領になって公約どおり米国はTPPを離脱。トランプ政権はより有利な日米FTAで成果を勝ち取るつもりだ。日本外交は国際協議はどれもボロクソの負けっぱなしだ(税金ドロボーと呼びたい)。

米国はとくに牛肉を名指ししている。TPP11加盟国は牛肉の関税率が38.5%から2019年4月からは26.5%に下がり、米国は38.5%のままだからだ。米国に対しTPP以上の関税引き下げか撤廃の優遇をするなら急増する豪州産に加え米国産牛肉もどっと増えることになる。

これまで関税収入で輸入牛肉自由化による価格低下でダメージをうける畜産農家に肉用子牛への交付金、畜産振興関係に充てていた。関税撤廃すれば政府は関税収入を失い、その分国民への増税負担がのしかかるか、日本の畜産は衰退するにまかされる。10年もしないうちに国産牛肉はごく一部の高級高価格のもの以外はほとんど姿を消すだろう。金持ち以外は輸入肉を食べざるを得なくなる。

その輸入肉は安全規制の後退とセットだ。まず狂牛病規制は今年5月から全面撤廃した。米国牛肉輸入のために先に規制撤廃してスタンバイなのだ。加えて米国・オーストラリア牛肉は世界的に禁止されている肥育ホルモン剤が使用されている。

食肉中の肥育ホルモン調査(2009年日本癌治療学会学術集会の研究発表 藤田博正医師ら)によると米国産牛肉の脂身は日本の140倍、赤身では600倍のホルモン残留と報告されている。日本は1991年牛肉自由化後、輸入牛肉の消費量と並行して乳癌、前立腺癌を含むホルモン依存性癌は急速に増加している。牛肉関税引き下げによりホルモン汚染牛肉の一層の消費を押し付けられる。

また米国・カナダ・メキシコ・オーストラリアは赤身増量の飼料添加物「塩酸ラクトパミン」の使用を認めている。世界160カ国で使用禁止・輸入規制されているが、日本は国内使用禁止なのに輸入肉には残留基準値を設定。検疫ではサンプルを少量とって通関させてしまうモニタリング検査のみなのだ。また米国は赤身肉へ放射線照射を許可している。
アグリビジネスは低品質な畜産物の販路を日本市場に見出そうとしている。

コメも危ない。米国の米輸出業者は関税撤廃、削減を要求している。TPPでは米国産のコメ7万トンをミニマム・アクセス米77万トン(うち米国産36万トン)に上乗せし無税で輸入されるはずだった。これ以上の上乗せの輸入増もあり得、国内米価が一層下がって農家減少に拍車がかかる。

しかもコメの場合アフラトキシン汚染が強く懸念される。アフラトキシンは世界保健機関(WHO)による発がん性評価で、人および動物に対して最高ランクに位置づけられているカビ毒だ。日本では発生の報告はない。輸入穀物のうち、米国産のトウモロコシから一番多くアフラトキシンが検出されている。

食料安全保障と人々の健康と農業を売り渡す米国従属化の総仕上げが安倍自公政権で行われようとしている。
2019年07月15日更新
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