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2016年12月

輸入米はいらない
WTOでミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)を受け入れて以来、米余りで価格が下がり続け農家が廃業の瀬戸際で苦しんでいるのに国内消費の10%を超える77万トンものコメをごく低関税で毎年輸入し続けている。

77万トンのうち10万トンがSBS枠といわれる主食用米だ(残りは加工用、飼料用など)。TPP協議で日本はこのSBS枠にさらに国別枠を追加し米国産のコメを7万トン、豪州産を8千トン輸入する取り決めをした。これをみればWTOからTPPにつながる自由貿易の実相は歪んだものであり、誰のための自由貿易協定なのかがわかるというもの。

SBS米は売買同時入札制度で、輸入商社と卸売業者がセットで売買を行う。形として間に政府が入り、例えば、輸入商社は1キロ100円で調達して国に150円で輸入米を売り、国は国産業務米と差がないよう米卸に200円で販売する。

しかし、実際には、輸入商社は調達価格と国に売る額との差額から、自社の利益を引いた残りを「調整金(リベート)」として米卸に渡していた。調整金が40円だとすれば、米卸は実質160円で仕入れたことになり、公表されている落札価格(200円)より安く仕入れることになる。それで実際は大幅に安い価格で市場に販売が可能になっていた。国産価格が下がり、輸入米との価格差が縮まるほど、調整金の金額は高くなる傾向にあったという。

なんとしても外米をさばかねばならないという背景(政府の意志)があるのだ。リベートをひねり出すために実際の輸入価格より高く買い入れ予定価格を設定し、それを政府が買い取り、政府は卸業者に国産業務米価格と同じ水準になるよう設定した価格で卸す。余分に高く政府に買い上げさせて作り出されたリベート分は法に反する不正行為に他ならない。

実は米国からの米輸入の圧力に屈し続けてきた政府もグルで、リベートのことを知っていながら知らなかったと国会でうそぶく。

SBS輸入米の価格偽装を生んだ原因は「外米は売れない」からなのだ。SBS輸入が始まった当初、売買は何度も不成立だった。価格がうんと安ければ外食、中食は使うが、国産米と価格が大差なければ外米は扱いたくないのが業者の本音だ。

輸入米は国産米と異なり「産年」情報がないので、古米、古古米も混じり(過去には黄変米事件があった)味の問題のみならず、輸入米の汚染米事件(08年)があったようにカビ毒アフラトキシン汚染やポストハーベスト農薬残留などのリスクがある。なにより消費者から敬遠されるからだ。

安倍政権は今国会でTPPの強行批准を目論んでいる。これを書いている現在、国会では輸入米の価格偽装が国会論戦の的になっている。商社が自分の利益が減るようなリベートを卸業者に渡すとは理解困難と政府はしらばっくれる。野党要求の関係者調査もやる気なしの気の抜けたサイダーみたいな答弁しかしない。

政府はTPPで、米国とオーストラリアから7.8万トンをSBSで輸入することに合意。これまでの入札結果を基に「SBS米は、国産業務用米と大きな差がない」と説明してきた。輸入が増えても同量の国産米を政府が買い上げ市場隔離するので、需給への影響はなく国内米価格に影響を与えないとも説明してきた。これ全部嘘になりますね。この1件をとってみても国民に一方的不利益を与え、かつ食料安全保障を破壊するのがTPPなのだ。

11月末までの今国会が勝負。TPP批准絶対阻止! そして不当なMAは止め、食糧管理法を復活させるべきだ。農家には再生産可能な価格で米を政府が買い取り、国民には安く供給する。余った米は備蓄し、不足する国へ援助米とする。

逆ザヤの税金負担は食管赤字と財界・マスコミから散々叩かれたが、これこそが日本の安全保障、真の国防費であると思う。武器で武装する国防費(現在5兆円超!)と比べ、国土保全や国民を飢えさせないため、そして友好外交と平和をもたらす使い方ではないだろうか。

※「いのちの講座101号巻頭言」より

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2016年12月07日更新
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