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2015年05月

TPPと食品表示
現在、大詰めを迎えているTPP協議ですが、そのゆくえはアメリカ議会で現在審議されている大統領に貿易促進権限(TPA トレード・プロモーション・オーソリティ 旧称ファストトラック)を与えるか否かにかかっています。

アメリカでは、憲法上、通商交渉の権限が議会に与えられているため 議会は政府が交渉した結果でも、自由に修正できます。そのため協議結果がアメリカ議会で覆されるとなれば、参加国は慎重にならざるをえません。議会が大統領に対して通商交渉の権限TAPを付与した場合、大統領が通商協定案を議会に提出すると、議会は案を修正することができず、YesかNoの採決しか行えないというものです。このTPAが認められれば、TPP協議は妥結に向けて大きく動く可能性があります。否決されると協議の進展は難航が予測されます。

さて、TPP協定の合意に向けて積極的に前のめり姿勢なのが、安倍政権です。米国大統領の意向に付き従い、旗振り役を任じています。日米関税交渉では牛肉・豚肉、米など農産物関税で大幅譲歩をしたようです。秘密協議のため国民には明らかにしていません。

TPPで関税のほか(というより関税以上に)、大きな影響があるのは規制撤廃、規制緩和の強制ルールです。その象徴がTPPのISD(企業対国家紛争処理)条項です。国内法より上の強制力を持って、外資、多国籍企業の自由な活動を保証する条項で、国内法の規制によって期待した利益が得られない場合、相手国を訴えることができる権利を認め、賠償や規制撤廃をさせることができるという究極の、新自由主義を具現化した条項です。米国議会内でTPAに反対する議員たちはISDを強く懸念しています。民主主義の破壊だからです。

TPPは国民の権利をないがしろにするものです。国民主権をうたう日本国憲法違反といえます。

このようなTPP協定が待ち構えるなかで、日本の食品表示は企業優先、消費者軽視が露骨になっています。消費者庁はじめ関係省庁の役人は輸出企業から提訴される可能性があると懸念し、遺伝子組み換え表示や原料原産地表示の規制強化に取り組むのを避けてきました。本来、輸入食料が増大するなら、一層これらの表示の拡充が必要のはずです。

しかるに、表示を管轄する消費者庁は、TPPを背景に、米国から障壁と言われないように、ISDで提訴されないようにと輸出食品に不利な表示強化は取り組みたくないというのが本音のようです。

表示が縦割り行政により重なっていた法的矛盾を整理する表示一元化の作業が終わり、4月から施行され、表示制度は消費者庁に一本化されました。一元化のあとに取り組むとしていた、遺伝子組み換え表示や原料原産地表示について、私どもは消費者庁との交渉を行いました。

昨年6月の突然の閣議決定で2014年度内に施行という強硬な指示で4月から導入された機能性表示食品表示ですが、案の定、問題がいっぱいで、消費者庁によれば、その対応に追われ、また、中食、外食でのアレルギー表示をどこまでできるかを検討するなどGM表示や原料原産地表示の他にも課題があるとして、どうなるか不明と消費者庁は逃げる始末。

TPPが合意妥結したあとは、新たな規制強化は提訴されるおそれがあるので、絶対取り組まないだろうし、自主規制してしまうと思われます。いまでさえ、TPP先取りで表示強化は自主規制し、企業・産業には大幅な規制緩和で肩入れするのが目に余るほどです。

こうした情勢下、TPPが合意妥結するまえに、戦略的に、いまこそ、遺伝子組み換え表示や原料原産地表示等の規制強化を実現しておくべきです。

以上の理由から以下の表示を求める要請書を提出致しました。 
   ビジョン21 安田節子

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要請書
2015年5月13日
消費者庁長官 板東久美子様
消費者委員会委員長 河上正二様

食品表示についての要請

消費者の立場に立って、日々消費者行政に尽力されていることに敬意を表します。
さて、消費者団体は長らく食品表示において以下の2点の実現を一貫して要請してまいりました。
1、 食用油への遺伝子組み換え表示
2、 食用油はじめ原料原産地表示の拡充
 
しかし、上記2点は食品表示一元化においても検討から外され今日に至っています。
輸入農産物のうち最も多い作物は油糧・飼料用作物です。大豆、トウモロコシ、ナタネ、綿実などですが、それらはどれも90%前後が遺伝子組み換えとなっています。
食用油の原料はほぼ遺伝子組み換えであるのに、その表示がないため、消費者は知らずに買うという状態に放置されています。EUのように原料が遺伝子組み換え混入が0.9%以上のものは(油を含む)食品すべてに、種子、飼料にまで表示を義務付けています。
世界最大の遺伝子組み換え作物輸入国である日本は、消費者の選択権を奪って目隠しをした状態で知らずに食べさせていると言えます。流通量が大きいのですから優先順位は高いものです。GM表示の実現を強く要請致します。

同様に原料原産地表示もされるべきです。
食用油の表示は現在以下のように首をかしげたくなる表記がされています。

名称:食用ナタネ油
原材料:食用ナタネ油

原材料名は正しくは原料農作物と産地表示がされるべきです。
加えてその作物が遺伝子組み換えならその表示が必要です。

3.ブレンド米の中止を
次に、関税の引き下げ等によってこれまで以上に輸入食料が増大するなかで、一層食品の安全性、透明性を担保することが消費者の安全・安心を守るために求められます。
特に懸念されるのは、ブレンド米の不透明さです。

ブレンド米は産地と割合表示が義務ですが、その表示の正しさを担保するのは困難と思われます。輸入米、古米、くず米が混米され、「割合」表示の真偽は確認できないものであり、産地偽装は連綿と続いています。ブラックボックスであるブレンド米。
主食であるコメが表示制度における最大の欠陥表示に置かれたままにあります。

米の流通はブレンドを禁止して、単一原料米でのみ流通するよう改めて下さい。

消費者が不利益を被るばかりで米流通業者の不当な利益の温床にしてはならないでしょう。

4.成分調整牛乳は「牛乳」と表示させてはいけない
かつては「牛乳」とは成分無調整が定義でした。足しても引いてもいけない、搾ったものを加熱殺菌しただけのものということでした。しかし、平成25年3月の乳等省令で牛乳から乳脂肪分その他の成分の一部を除去した「成分調整牛乳」を認めたのです。乳業メーカーに配慮した措置と言えます。

店頭では、「成分調整牛乳」をほとんどの消費者は気がつかないでこれまでの
牛乳(無調整)と思って購入しています。なぜなら「成分調整牛乳」の文字は「成分無調整牛乳」とそっくりの大きさの文字であり、パッケージも同じ形態だからです。値段的には10円ほど安いため、少し安い牛乳という認識でしょう。
乳業メーカーの都合優先であり、消費者の誤解を利用するような問題の表示です。
成分の一部を除去した乳には「牛乳」表示を禁止するよう、改めてください。

以上4点の表示制度の見直しを早急に取り組まれますよう、強く要請致します。

NPO法人日本有機農業研究会
有限会社影山製油所
食政策センター・ビジョン21
2015年05月19日更新
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