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2013年03月

【TPP問題】食品表示について、緊急申し入れ書を提出
現在、消費者庁によって食品表示の一元化が検討されています。
表示規制にはJAS法、食品衛生法、栄養増進法の3つの法律が関係しています。これを整理、統合した表示制度にしようというものです。

しかし、いま、表示制度に手をつける政府のこの動きは、TPP参加に向けた下準備なのではとの疑念があります。なぜなら、一貫して消費者団体が求めている加工食品の原料原産地表示や遺伝子組み換え食品表示の拡充、アレルギー表示の拡充ではないからです。

TPP参加によって、米国より遺伝子組み換え食品表示の撤廃が要求される可能性も指摘されています。

ビジョン21は加工食品の原料原産地表示と遺伝子組み換え食品表示の拡充を要請してきました。このたび、これらに関して象徴的な食用油の表示を取り上げ、緊急に下記の申し入れ書を提出しました。

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2013年3月26日
消費者庁長官 阿南 久様
消費者委員会委員長 河上 正二様 

食用油の表示について申し入れ書

輸入食料の増大に対応し、JAS法において生鮮食品の原産地表示、また加工食品の原料原産地表示が順次取組まれてきました。ただし、輸入農産物のなかでもっとも大量輸入している油糧作物を原料とする食用植物油脂については、原料原産地表示、GM表示の検討はまったくされないまま放置されています。消費者団体・市民団体が一貫してこれらの表示を求めているにもかかわらず、表示の検討がされないのはなぜでしょうか。食用油脂業界や米国など原料油糧用作物輸出国への配慮と思われますが、JAS法表示制度の精神である消費者の選択権、知る権利をないがしろにするものです。TPP参加によって、表示規制の一層の後退が危惧されます。消費者の利益を守るための表示制度という原点に立って表示規制に取り組んでいただきたく、申し入れます。

1.食用植物油の原料原産地表示について
現在表示欄は
商品名:食用○○油
原材料名:食用○○油
と商品名と原材料名が同じです。他の加工品表示ではありえない表示が油にはされています。これでは原材料の実態を知ることができません。油糧作物を輸入して国内搾油する場合はその原料油糧作物名を、輸入した油(粗油)を精製利用する場合はそのことを、それと合わせて輸入国名を表示すべきです。例えば以下のように表示すべきです。
原材料名:大豆(米国) 
原材料名:大豆粗油(米国)

社団法人日本植物油協会資料(平成20年11月4日)によると、なたね油(カノーラ油)は輸入ナタネ種子による国内搾油割合は98%(平成19年 以下同様)で輸入した油は2%です。大豆油は94%が国内搾油です。コーン油は100%が国内搾油です。オリーブ油やパーム油は逆に輸入油での供給が100%となっています。そのことを表示するのは難しいことではないはずです。
なお、業界は輸入先が入れ替わることがあるから表記できないと主張しているようですが、主な輸入先を列記する、それ以外は「その他の国」とすればよいでしょう。製造番号で輸入国を問い合わせる、あるいはHPで照会できるようにすれば済むことです。
例えば下水油を精製した、有害物質を含んだ粗油が中国で出回った事件がありました。このような油がいくつかの国を経由して輸入される事態もあるのです。油は有害物質が溶け込みやすいので、その安全性の確保のためにはトレサビリティが必須です。
食品原料調達のグローバル化が一層拡大する情勢下では、その安全性確保に高い信頼性を構築することが求められます。

2.調合油について
JAS規格の品名で調合油、精製調合油、調合サラダ油があります。原料は2種類以上の食用植物油脂を混ぜている商品です。大豆油と菜種油を混ぜたものがほとんどです。

調合油について、
原料それぞれの混合割合を表記すべきです。また同じナタネ油であっても、産地の異なる場合はそれぞれの産地表示を義務づけて内容を正確に伝えるべきです。国産ナタネとオーストラリア産ナタネを混合している場合がありますが、その割合表記は消費者が判断するのに必須の情報です。米においてはブレンドの場合、割合表示が義務付けられています。

3.商品名に油の種類を表示する場合はその油が100%の場合に限定すべきです。また国産原料使用の表示は100%国産の場合に限定すべきです。

現在は種類表示される油が60%以上であればよいとされています。「食用ごま油」と記載されていれば、ごま油が60%以上入っているということで40%も異なるものが入っているのは不正表示です。


4.遺伝子組み換え不分別の原料を使用する食用油にその旨の表示が不可欠です。
現在の遺伝子組み換え表示においては、最終商品のDNA分析によって検知できる場合に表示という理屈になっています。油脂では遺伝子組み換え由来のたんぱく成分がごく微量であるため検出できないからと表示対象から外されています。しかし、アレルギー患者はこの微量成分に反応します。大豆アレルギー患者は大豆油を食べられません。大豆、キャノーラ、コーン、綿実はほとんど全量がそれぞれ遺伝子組み換え品種が9割〜8割を占める生産国からの輸入によっています。原料のほとんどが遺伝子組み換え品種であることからも、その情報は消費者に開示されるべきです。

表示に当たっては、EUのように原料作物での検知を基準にするよう切り替えるべきです。遺伝子組み換え不分別の原料を利用した油はその旨を表示されるべきです。
EUの遺伝子組み換え表示は遺伝子組み換え成分が0.9%以上検出される原料作物を使った食品はすべて、飼料も含め遺伝子組み換え食品表示が義務付けられています。日本で表示されない油も醤油も畜産物もEUでは表示対象です。レストランメニューも表示対象です。彼我のこの落差は対米関係のなせる結果ですが、市民・消費者の権利侵害が続く現状は、対米感情の悪化という日米関係において由々しき事態を招きつつあります。

5.製造者固有記号について
製造所所在地、製造者氏名の表示については、あらかじめ消費者庁長官に届け出た製造所固有の記号の記載による例外的な表示方法が認められています。固有記号では、消費者が製造所を知ることが困難です。製造所の情報は事故が起きたとき、事故製品の回収およびいち早く収拾するために必須の情報です。明治乳業の春日部工場製造の粉ミルク「ステップ」が、福島原発事故の放射能汚染が検出され回収騒ぎになった事件があります。これは春日部工場が乾燥のために取り入れた外気の汚染が原因とされています。このように製造所の情報は消費者に必要です。固有記号では届きません。固有記号を廃止し、製造所所在地、製造者氏名の表示をしてください。

以上

食政策センター・ビジョン21
代表 安田節子
2013年03月26日更新
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