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2013年02月

「BSE規制緩和で輸入開始」
TPPの入場料と言われている米国のBSE規制緩和要求どおり、政府は「30カ月齢以下は特定危険部位の除去不要で輸入可」とし、2月中旬以降輸入が始まる。これで輸入禁止前の90%の米国産牛肉輸入量が復活する。

9割が反対したパブリックコメントの結果を政府は無視し、規制緩和を2月の安倍総理訪米の手土産にするつもりだ。禁止後20ヶ月齢以下を条件に輸入再開したのも小泉元総理の訪米に合わせた決定だった。BSEの規制緩和は対米追随の政治判断でなされている。

米国でBSEの危険はなくなっていない。つい一年前の4月にも、4頭目に当たるBSE牛が見つかっている。即輸入禁止のはずが非定型のBSE(餌を通じて感染する通常のBSEとは異なるタイプ)との米国発表そのまま政府は禁止しなかった。非定型も感染性が強いものもある。そもそもBSEの発生メカニズムが解明されておらず、餌を通じて(代用乳からも)感染することがわかったというに過ぎない。非定型BSEがなぜ発生するのかも不明なのだ。ほんの1gの異常プリオン蛋白を摂取するだけで人の変異型ヤコブ病を発症し、死に至るのだから気を緩めてはならないのだ。

それに米国の検査体制は信頼できない。20ヶ月以下を条件に輸入を決めたとき、20ヶ月齢以下である判定はどうしたか。

米国では月齢を示す生産記録がつけられた牛は1割ほどしかいない。それで肉の品質格付け制度を使い、「A40」と呼ばれる格の牛肉を20ヶ月齢以下とみなすと決めた。検査官が肉の色などで判定する。07年2月、月齢制限を超過している可能性の牛肉が見つかっている。

また、輸出管理体制もずさんで05年12月の輸入再開後、翌年1月には特定危険部位の脊柱が検疫所でみつかって一時輸入停止措置になった(半年後に輸入再開)。危険部位の除去もきちんとされている保証はない。米国の食肉処理場は一日に5000頭も処理する巨大工場であり、枝肉が早いスピードで動いていて処理作業者の怪我が多く、米国の職場環境ワースト1に上がっている。短時間に危険部位を完全に除去できるとは思えない。

また、日本は全頭検査だが、米国の検査は一部の牛を抜き取り検査するサーべイランス検査で、その検査率も1頭目のBSEが出てから10倍に引き上げてすら1%ほどなのだ。検査をすり抜ける可能性が高い。

米国では「へたり牛」という、歩行できなくて屠場にひきずって入れるような牛がたくさんいる。これにBSEが紛れている可能性も否定できない。

また、米国の飼料規制は牛の肉骨粉を牛に与えるのは禁止でも、鶏や豚の餌には認めている。その餌が飼料工場内や輸送、農場で牛の餌に混じる可能性がある。

「特定危険部位」を取り除く必要がなくなったが、合理的な環境が整ったわけではない。米国要求をただ飲んだにすぎない。2012年の全世界のBSE発生件数は9頭、人の変異型ヤコブ病発生2人と、収束したわけではないのだ。店頭に米国産牛肉が並び、外食で安く出回るだろうが、国産牛と比べリスクは天と地の違いがある。(週刊農林 2月25日号 「農林抄」転載)
2013年02月26日更新
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