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2010年12月

増える防カビ剤―輸入果実のポストハーベスト農薬を食品添加物に指定とは!
フルジオキソニルは、土中菌が生産する抗菌性物質をもとに開発された殺菌剤だ。日本では1996年に農薬登録され、水稲及び野菜類の種子消毒剤ならびに各種野菜類への茎葉処理剤としての基準値が設定されている。

一方、米国では収穫後(ポストハーベスト)の防かびを目的として核果類(チェリー、もも、すもも等)、仁果類(りんご、なし等)、かんきつ類、キウイ及びざくろへの使用が認められている。
今般、シンジェンタジャパン(株)からの申請を受け、「フルジオキソニル」を輸入果実のポストハーベスト(PH)として許容するため、農薬残留基準値の変更(緩和)と格段高い数値レベルで食品添加物としても指定する予定だ(表参照)。

なぜ政府は農薬を食品添加物としてわざわざ指定する必要があるのか?

日本国内では、収穫後の農作物への農薬使用(ポストハーベスト)は認めていない。しかし、米国等の輸出国では輸出果実は長距離輸送の間にカビが発生するので、収穫後に殺菌剤(防カビ剤)をワックス塗布したり、シャワー塗布するPH使用を認めている。

1975年、米国からの輸入レモンに防カビ剤OPPが検出され、これを違法として積戻ししたところ、米国は貿易障壁だと激怒した。あわてた政府は、PH農薬の殺菌剤を、食品の保存の目的でかび等による腐敗、変敗の防止のための添加物として指定し流通を認める方便を取った。今回の場合もこれに倣うものだ。

輸入果物に使用されたポストハーベスト農薬の残留は当然高い。これを許容するために農薬の残留基準を大幅に緩和すれば、国内使用も区別なく緩和されるから、残留農薬の摂取量は一日摂取許容量(ADI)を脅かす数値になり、設定は困難になる。それで、農薬残留値はそこそこの緩和にとどめ、あとの分は食品添加物として指定、食品添加物としての許容量を設定する。そうすれば食品添加物としてのフルジオキソニルは輸入果物からの摂取だけで、その必要のない国産果物からはゼロのため、高い値を設定したとしても食品添加物としてのADIには十分収まる。同じ物質を農薬と食品添加物に分けてそれぞれの基準で許容値を設定するのは、こういう寸法なのだろう。

農薬を食品添加物として食べ物に添加するという、ぞっとするイメージを国民に与えてまで、米国からのPHまみれの果実を受け入れるために汲々とする日本政府。輸出コスト低減を狙い消費者の健康など眼中にない米国政府の要求は自由貿易ルールを盾にエスカレートするばかりだ。このフルジオキソニルの認可が前例となり、(TPP参加などすればなおさら、)さらなるPH農薬の許容を拒否できなくなるだろう。

これまでに食品添加物指定して使用を認めたPH農薬の殺菌剤(防カビ剤)は、5剤(ジフェニル、OPP、OPPナトリウム、TBZ、イマザリル)ある。これらは変異原性、染色体異常、肝臓、腎臓障害、遺伝子損傷性など有毒性がわかっている。そのため、通常、添加物表示は容器包装されたものにだけ義務付けられるが、これらを使用した柑橘とバナナには「ばら売り」にも表示が必要と例外規定されたしろものなのだ。

フルジオキソニルの登場は耐性菌によってこれまでの殺菌剤が効かなくなったためという。耐生菌発生といたちごっこで、より強力な殺菌剤に頼るという悪循環に陥っている。
ビジョン21は他団体とともに消費者庁に申し入れを行った。フルジオキソニルの食品添加物指定の見直し、また食品添加物指定をそのまま受け入れた消費者庁、表示の検討だけを進める消費者委員会のあり方について大臣と消費者庁長官に面談し、消費者の立場から「総量規制」「予防原則」などの理念に基づいて添加物や農薬などの新規指定、認可にあたっては検証する場を消費者委員会に置くことを求めた。

なお、バラ売りの輸入果実の防カビ剤の表示をみかけなくなったと指摘したところ、消費者庁担当官は年末までに全国の保健所が市場調査をすることになっていると答弁した。

輸入かんきつ類(オレンジ、レモン、グレープフルーツなど)とバナナのバラ売りでポップに防かび剤使用の表示がされているか、されていなければ店長に聞いて見るなどしてください。

表では、国産しか想定されないみかんでは、0.1ppm(以下数値単位同じ)。うめは0.5。一方輸入かんきつ類は米国基準と同じ10でみかんの100倍だ。キウイはなんと20!

防カビ剤まみれの輸入果物ではなく、きっぱりと国産果物を選ぶことです。

また、12月28日期限で募集された消費者庁の防かび剤使用対象拡大に関するパブリックコメントに以下の意見を提出した。

【意見1 対象果物の品目拡大に反対】
防かび剤の使用を認める果実の品目拡大に反対です。防かび剤を使用しなくても低温コンテナや二酸化炭素充填コンテナによる輸送、また空輸などで輸出はできないことはありません。しかし、輸出関連企業はコスト低減、利益増大のために、最も安上がりな防かび剤処理でいきたいのです。この要求に従って日本政府が容認するのは、日本の消費者の健康を犠牲にして米国など輸出国に与するものでとうてい許容できません。

【意見2 表示はバラ売りにも義務づけを】
防かび剤使用果実の拡大を認めるものではないことを断ったうえでですが、表示については、改正案の果実の「防かび剤(フルジオキソニル)使用」表示は「容器包装に入れられた」場合のみならず、「バラ売り」にも義務づけるべきです。バラ売り表示については、ガイドラインではなく強制力のある義務付けであるべきです。果物はバラ売り販売が多いのに、ガイドライン運用だと徹底した表示はなされないからです。

【意見3 既存防カビ剤の指定削除をしてください】
今般のフルジオキソニルは既存防カビ剤が効かなくなったため開発されたと聞きます。このようにして防カビ剤はどんどん増え続けます。防カビ剤の恒常的使用から耐性菌ができて効かなくなり、より強い薬剤に頼る、それにもいずれ耐性菌が生まれるといういたちごっこです。指定添加物をできるだけ低減していく方針があるはずです。効かなくなった薬剤の指定削除をするのは最低限やるべき措置です。既指定の柑橘、バナナに認めた防かび剤を指定削除してください。

【意見4 農薬を食品添加物指定する奇策は容認できない】
今回、フルジオキソニルの残留農薬基準緩和とともに、防かび剤として食品添加物指定するという奇策をとったのはポストハーベスト(PH)農薬を使用して高濃度残留する輸入果実を受け入れるためでしょう。このような工作をしてまで輸入果実のPH農薬残留を許容することは容認できません。かんきつ類でみると、輸入はないミカンの場合と比べて、輸入がほとんどのオレンジなどかんきつ類は100倍の残留値案となっています。まさにPH使用を許容する以外のなにものでもありません。日本は国内農産物にPH農薬使用は認めていません。売りたければ、輸入国(お客)の基準に輸出側が合わせるのが筋というものです。WTO協定のSPS協定を金科玉条にするのではなく、その不公正さを正していく主張を、ましてや輸入国なればこそ、するべきです。

もし、これが許可されるなら、私たちは広範な輸入果実ボイコット運動を展開せざるを得ません。

【意見5 監視機能(リスク管理)の機関を設置すべき】
食品安全委員会がリスク評価、厚労省がリスク管理とされていますが、実際は、単品ごとの申請に応じ、安全性審査から認可、表示と自動的に手続きが流れて次々と告示されていきます。

消費者の立場から総量規制や予防原則の観点で審査する部門は存在しません。

1972年国会付帯決議で「食品添加物の使用はできるだけ低減していく」とされているにもかかわらず、体にとって異物である食品添加物はうなぎのぼりです。多数の国から食料輸入する現状において、それらの国で認可した食品添加物を輸入国日本は次々認可し、使用が認められた添加物は1500品目にも上ります。それに加えて今度はフルジオキソニルです。歯止めなく輸出国側の要請で増え続けるにまかせてよいはずはありません。

早急に監視機能に特化した独立機関を設置してください。「総量規制」、「予防原則」そして「社会的受容」を判断の基準とし、消費者による審査機関の設置を強く要請致します。以上

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残留基準値案 (ppm)
※1 農薬として使用した場合の残留基準値案
※2 食品添加物として使用した場合の使用基準案
※3 残留基準値案(食品中に残留する基準値、農薬および食品添加物の両使用法を含む)
残留基準値案
2010年12月27日更新
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