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2009年11月

食料「新植民地主義」
8月20日、外務省・農林水産省共催の「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」は「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を公表した。指針によると、政府と総合商社などが農業関連投資を促進できるよう官民連携モデルを構築。政府開発援助(ODA)を活用し、穀物輸入先である中南米や中央アジア、東欧などへの投資を支援し、生産・流通インフラなどの投資環境を整備していくとしている。

一昨年の食料高騰を機に、食料自給率の低い、しかし資金力のある国が食料基地のために途上国の農地囲い込みラッシュが起きている。日本も政府が企業を後押しし、積極的にこの隊列に加わるというのだ。

石弘之氏によると、

「一昨年、韓国の財閥系企業グループがマダガスカルの未開墾地130万ヘクタールを、99年間無償で借り上げる契約を結んだ。この国の農地の半分以上にもなる広大なもの。しかし国内で反対運動が暴動化し、政府が倒れたため契約は無効となった。

中国はアフリカ各地で農地を確保し、100万人以上ともいえる農業移民を送りこんでいる。コンゴ民主共和国では280万ヘクタールの農地を確保。ザンビアでは200万ヘクタールの農地借用の交渉が進んでいる。同時に大量の農業移民を送り込み、中国人経営の大農場が20ヶ所以上ある。

アラブ産油国のサウジアラビアは農業海外投資基金を設立してエチオピアなどで盛んに農地を取得している。クエートやカタールなども追随する」

BSのドキュメンタリー番組でルーマニアの穀倉地帯が外国資本に買いあさられ農業が変貌しているさまを伝えていた。ルーマニアは経済的には貧しく、ついこの間まで牛を引いて耕し農薬や化学肥料を使っていない、肥沃で広大な農地を有する国だが、近隣諸国の7分の1ほどで農地が買えるとあって外資による売買ラッシュが起きている。買い集めた農地では小麦やナタネなど輸出用穀物の大規模単一(モノカルチャー)生産が大型機械を導入して行われるようになった。

モンサント社やデカルブ社といったバイテクや農薬の企業がやってきて近代的農業技術を農民に指導している。一方、穀物メジャーのカーギル社が穀物の買い付けを一手に握り、しかも穀物貯蔵庫(サイロ)を買い占めているため、農民は収穫した穀物を高値の時期まで貯蔵することができず、安値でカーギルに売り渡さざるを得ない。

農地売買の仲介業で稼ぐフランス人が、畑の土をとって嗅ぎ、「腐葉土のにおいだ」と言って、自分はこのような土を作っているルーマニアの農民を尊敬している、この国の将来を案じる気持ちを抱いているとぼそっと述べていた。痛みを覚えた。穀物関連の大企業が素朴な農民を餌食にしていく。肥沃な土が、ここでも失われていく。

近代化農業を進める人達は地球の資本ともいうべき土壌を破壊し荒廃化してきたことにまだ気づいていない。

人類はいま確実に土壌の肥沃さを失っている。米国は過去5000年の間に自然界が作った腐植による肥沃な耕地のおかげで大量の穀物生産を続けてこられたのだが、この50年間でそのほぼ40%を失っている。

化学肥料と農薬による近代農業が、土壌の肥沃の根幹である腐植を喪失させ、土壌浸食が起きている。このままいけば100年後には砂漠に変わるといわれている。途上国のまだ近代化農業が入らず、農薬や化学肥料に汚染されない肥沃な農地が、貪欲な経済至上主義者たちによって新たな植民地にされている。

日本の国土環境においては基本的食糧の自給は可能だ。途上国諸国にふたたび災禍をもたらすであろう新植民地主義は恥ずべき愚行と見定め、新しい内閣は、食料自給のビジョンを実現させるために、自給率向上の政策を認めないWTO協定の問題性をこそ取り上げ改革させるべきだ。(「いのちの講座」60号より)
2009年11月17日更新
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