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2009年10月

遺伝子組み換え(GM)イネ裁判は東京高裁へ
2005年新潟県北陸研究センターのGMイネの野外実験強行に対し、中止を求める仮処分の裁判が起こされ、新潟地裁は、請求を却下したものの、北陸研究センターに異例の情報公開の厳しい注文をつけました。翌06年も続けられた野外実験に対して、今度は新たに加藤登紀子、ちばてつや、山下惣一、中村敦夫、毛利子来、西丸震也らの各氏を加え総勢25名の原告により、05年12月、野外実験中止を求める通常裁判が提訴されました。

GMイネが人工的に常時産生する抗菌タンパク質のカラシナ・ディフェンシン(DF)によって「DF耐性菌」が出現するかが主な争点になりました。被告は「DFはイネ体外に出ない(だから耐性菌は生まれない)」と自らの実験結果をもって主張。原告は第三者による鑑定によるべきと主張、裁判所は第三者の鑑定を決め、さらに07年3月、原告推薦の研究室が鑑定依頼先に決定。ところが、被告は鑑定に提供すべき、保有する試料(抗体)が不能だから新たに作成するとして、6ヶ月を要したのです。

07年12月、鑑定がスタートしたのですが、終了予定の08年4月に、鑑定人から「タンパク質の検出が想定以上に困難」と、期間延長が2度にわたって申請され、08年9月末に、三度、鑑定人から「被告が提供した試料では、本来、反応しないはずの非組換えイネのタンパク質と反応という極めて困難な問題に直面している」という理由で、さらに別の実験(質量分析)の依頼と再々延長の申請がされました。最終的に08年11月に提出された鑑定報告書は被告が提供した試料が不備なため、最終的な結論が得られなかった、というもの。鑑定は失敗に終わったのです。

09年2月に裁判所から、鑑定人に対し、「もし、まともな試料(抗体)を使えば、最終的な鑑定結果が得られる可能性があるか」という質問書には肯定する回答が提出され、今度は原告側で適切な抗体を準備して、再鑑定する旨の意見書を提出。被告は審理を終結すべきと強く主張。09年5月、裁判所は再鑑定を「容易」でないという理由で却下。

09年7月、原告側は耐性菌研究の世界的権威である平松啓一順天堂大学教授がこの実験を知って緊急に書かれた意見書を提出。その内容は、GMイネが常時作り出すDFと接触するイモチ病菌などが耐性化し、増殖する可能性が高く、その耐性菌発生のメカニズムは抗生物質の多用による薬剤耐性菌の場合と同様であると断じ、この耐性菌が多くの動植物が作り出すDFにも耐性を持つ可能性があり、生態系全体に影響を与える大きな危険性をはらんだ実験と指摘したのです。

しかし、裁判所は10月1日に原告の訴えをすべて棄却との判決を出しました。原告側は直ちに東京高等裁判所に控訴を決めました。舞台は東京に移ります。引き続きご支援をお願い致します。

裁判支援金のお願い(印紙代他裁判実費に当てます)
団体 1口5000円
個人 1口2000円
何口でも
郵便振替口座番号:00580-8-58503 加入者名:イネ裁判支援
(いのちの講座60号より)
2009年10月25日更新
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米国、GMテンサイ(サトウダイコン)の商業栽培承認に違法裁定!
09年9月22日米国カリフォルニア北地区連邦地方裁判所は、米国農務省(USDA)によるモンサント社の除草剤耐性(ラウンドアップレディ)テンサイの商業栽培承認は違法との裁定を下した。USDAは2005年の栽培承認に先立ち、重大な影響はないから環境影響評価書(EIS)の必要はないとしていた。

裁判所はGMテンサイの花粉が非組み換えのテンサイや近縁種のフダンソウ、テーブルビートと交雑し拡散する恐れがあり、これらの栽培農家が経済的損失を蒙ることから、あり得る拡散の結果を評価すべきとし、環境影響評価書の提出が必要と述べた。なお、改善のための法的手段に関しては未決定で、そのための審理は10月30日に開始される。

この裁定は、07年2月のGMアルファルファ違法裁定を踏襲したもので、GMアルファルファと同様にGMテンサイの商業栽培禁止へと発展する可能性がある。

GMアルファルファは、05年7月に米国農務省(USDA)はモンサント社の除草剤耐性GMアルファルファの商業栽培を承認したが、07年5月、カリフォルニア北地区連邦地方裁判所が、環境影響評価書が提出されるまで、全国的に禁止した。USDAは未だに環境影響評価書の提出を拒んでいるので栽培は禁止されたままである。

08年1月23日にUSDAのGMテンサイ商業栽培承認の差し止め提訴をした米国サンフランシスコのThe Center for Food Safety(CFS)、Organic Seed Alliance、Sierra Club、High Mowing Organic Seedsら、環境保護グループや有機栽培農家などの原告団は、GM作物栽培訴訟で連勝したことになる。これは米国において94年にフレーバーセーバーGMトマトが承認されて以来、既に商業化されたGM作物の栽培を差し止めた初の司法判断である。

日本はバイエルクロップサイエンス社とモンサント社のGMテンサイ3品種(いずれも除草剤耐性)を食用、飼料用に認可している。テンサイは、砂糖、ビートパルプ及び糖蜜に加工されたものが流通している。

ただ、砂糖用としてアメリカ産テンサイの輸入はないが、絞りかすを飼料用(ビートパルプ)として輸入している。糖蜜は、酵母、化学物質、医薬品の生産などに使用されている。今後GMテンサイの混入が避けられることを歓迎したい。

テンサイは他花受粉で、野生種、近縁種と交雑しやすく、風や昆虫によって運ばれる。裁判では、被告の科学者による交雑距離最高800メートルに対し、ひとつのレポートでは3200メートルの隔離距離で交雑は起こることや大気の状況によってはテンサイ花粉は24時間以内に、最高864,000メートル(864キロメートル)飛散し得ることが示された。GMテンサイの花粉汚染によって有機農家や非GM生産の農家が経済的損失を蒙ることは避けられない。

日本のGMイネなどの野外栽培実験指針に定められた交雑防止距離が、まさにこれと同等の問題を示している。

指針では、イネ30m、大豆10m、トウモロコシ600m(防風林がある場合は300m)、西洋ナタネ600m(周囲に1.5m巾の非組み換え西洋ナタネを作付けした場合は400m)。

これで交雑を完全に防止できるとはとうてい認められまい。上昇気流、強風、花粉源の広さ、気温、媒介生物、さまざまな要因を考慮すれば、野外栽培における交雑を完全防止できる距離を定めるのは困難だろう。

だからといって便宜的距離を定めるのは科学的真実から目を逸らし、災禍を先送りする無責任きわまりないものだ。GM栽培は汚染を避けられないとの認識にたてば野外栽培はしてはならないと判断するのがまっとうである。

モンサントのラウンドアップ(除草剤)耐性作物は、除草剤の恒常的な使用となり、ラウンドアップ耐性雑草の急速な出現を生んでしまった。現在、全米で、何百万エーカーも、スーパー雑草と呼ばれる除草剤耐性雑草によってコストと労力の大幅なアップで農家の収入減を引き起こしている。USDAデータの独立した分析(ベンブルック博士による)によると、組み換え作物が導入された1996年から2004年までの9年間で、米国では1億3800万ポンドの除草剤使用を増やしている。

これまで日本政府はGM作物栽培の開発、商品化を優先し、野外栽培実験を形ばかりの環境影響評価で強行し、交雑被害をうける農家や消費者の選択権をまったく考慮しないままで来た。政権交代による変革への期待として、環境汚染防止に真に有効な「栽培禁止」措置の実現を求めたい。(「いのちの講座」60号より)
2009年10月09日更新
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