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2009年02月

体細胞クローン家畜食用解禁
米国食品医薬品局(FDA)は、08年1月、体細胞クローン家畜およびその子孫から生産される畜産物の安全性は通常の畜産物と変わらないとする、最終リスクアセスメント報告を公表した。これまで生命倫理や宗教の立場から反対論が強く、流通は認められていなかったが、ついに流通にゴーサインを出し、しかも表示義務を課すことはないとしている。

米国政府はいち早く、日本政府に対して08年1月中旬ごろから体細胞クローン牛の食肉や加工製品の輸入の検討を非公式に打診してきていた。日本政府はこれを受けて、慎重だった体細胞クローン家畜について、同じく安全とする研究結果を発表したうえ、内閣府食品安全委員会に安全性評価を諮問。そして09年1月、食品安全委員会の専門家ワーキンググループは、成長した体細胞クローン牛と豚について「従来の牛と豚に比べて、差異はない」として安全性を認める報告書をまとめた。

日本では体細胞クローン牛はすでに557頭が生まれている。このうち生存は07年12月22日で82頭と数が少なく、商業生産という状況にはない。

12月24日の北海道新聞によれば、日本最大の体細胞クローン牛生産拠点である(独)家畜改良センター・十勝牧場は今年度限りで体細胞クローン牛の生産から撤退することを決めたという。撤退理由としては、成功率の低さ、不採算、消費者の不理解があげられている。

この答申は輸出して処理したい米国の要請に応えた輸入解禁のためのものといえる。

食品安全委員会の安全評価の発表にあわせるかのように、死後13年間凍結されていた飛騨牛の名牛「安福(やすふく)号」の冷凍精巣の細胞からクローンで子牛が誕生していたとのニュースが報じられた。これは体細胞クローン牛は優れた肉質の牛を大量複製でき、消費者においしい霜降り肉が安く食べられるかのような幻想を抱かせるイメージ戦略ではなかったかと思う。

なぜ幻想かというと、クローン肉は商業ベースには到底なり得ない、あまりにもコストがかかりすぎるものだからだ。作出までの生産コストだけで一頭約400万円もかかる。それに加えて通常の飼育費用がかかる。大量に安く食べられるようになるはずはないからだ。

体細胞クローンは自然界では存在し得ない有性生殖を経ずに生まれる人工的に生み出された実験動物であり、死産や出産直後死率の異常な高さなど未解明の部分を大きく抱えた研究途上にあるもの。その安全性は全体的観察と長期的試験が必要で、長い時間をかけなければわからないものだ。生涯飼い続け、次世代を含めた長期の観察・試験が必要なのだ。

以前、クローン研究者と対談したことがある。その折、実験動物であるのに食用に売却するのは納得できないと言ったところ、牛は(ネズミと違って)経済動物だからとの返答に驚かされた。研究目的である体細胞クローン牛の出産に成功すればあとは出荷して処理したいということなのだ。飼育し続けるにはコストがかかり、売ればお金になるからだ。

米国の思惑はまさにこの理由で出荷して経済合理的に処理したい、つまり(国内的には流通業者が自粛しており輸出して日本人にも)食べてもらおうということなのだ(表示もなしにして)。

なお、欧州議会は、体細胞クローンの牛や豚とその後代(子孫)の食用化に関して08年9月、クローン動物の食用禁止とクローン動物の輸入禁止を賛成622、反対32の圧倒的多数で採択している。

体細胞クローンは成功率があまりにも低く、したがってコストが高くつきすぎ商業化できるのか疑問に思う。科学技術はけして万能ではない。人間が思ったようには生命操作はうまくはゆかないのではないだろうか。(「いのちの講座57号」090226より)
2009年02月26日更新
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