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2006年01月

GMイネ、民事裁判を提訴 06.1.16
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構の北陸研究センターが昨年強行した遺伝子組み換え(GM)イネの野外栽培試験に対する差し止め仮処分裁判は現在最高裁で審理中です。しかし、センターは2006年も引き続き野外栽培試験を予定しています。そのため、私たちは今度は民事訴訟の本訴を昨年12月19日に新潟県高田支部に申し立てました。

請求の趣旨は
1 GMイネの試験栽培の中止
2 損害賠償(精神的苦痛に対する慰謝料)です。

仮処分裁判を通して明らかにされたのは、野外実験による自然交雑の可能性があること。交雑防止のための距離規定は根拠となるデータの乏しさから、新たなデータがでるたびに変更せざるをえないという状況で、規程が守られていれば交雑しないとはとうてい言えないことなのです。

また、GMイネに新たに作られ人工的に常時分泌するようになった抗菌物質が耐性菌を出現させることです。これは人を含む生物の生体防御機構に取り返しのつかない脅威をもたらす可能性があります。昨年11月10日号の科学専門誌「ネイチャー」にも耐性菌の出現は予想以上の高い頻度で起こるという英・仏の研究者による研究論文が掲載されました。

こうした危険性は自然界ではなかったことです。生物は病原菌が取り付いたときにだけそこに抗菌物質が作られ、耐性菌が作られるようなことはありません。耐病性をうたうGM作物の作出が微生物に抗菌物質耐性の変異をもたらすのです。ところが、野外栽培実験基準を定めた国の第一種使用規程では、耐性菌についてはまったく触れられていません。

本来ならこうした新たなリスク情報は積極的に収集し、分析し、予防的に慎重な対応をとるべく規程に反映されなければならないはずです。GM生物の影響は予測できない未知の領域があること、その影響は回復不可能であること、増殖し地理的にも時間的にも広がっていくという特質から、予防原則で対応しなければ、人類の生存や環境を守ることはできないのです。

消費者の大半が食べるのを拒否するGMの米を、米どころで野外栽培実験するという蛮行。その強行によって、地元の米に汚染がもたらされ、風評被害を農家が蒙る可能性があります。また耐性病原菌による環境汚染が引き起こされた場合、汚染の除去、回復のために膨大な費用が生じます。こうした農家への損害賠償や環境回復の費用負担について、センター側は「そういうことは起きない」とただ主張するだけで、賠償責任に一切触れず、責任所在を示さない無責任さです。これまで国策事業というものに、どれほど地元の人々の暮らしと環境が犠牲にされてきたことでしょう。

このGMイネの問題はひとり新潟だけの問題ではなく、ひろく国民共有の喫緊の課題です。原告は地元生産者と消費者10名に加え、新たにGMイネを憂慮する以下の市民も加わりました。歌手/加藤登紀子さん、漫画家/ちばてつやさん、俳優/中村敦夫さん、作家/山下惣一さん、研究者(リスク評価専攻)/中島貴子さん(ハンガリー・ブタペスト在住)です。今後、さらに新たな原告を追加していきます。

日本で初めてのGM裁判、第一回公判は2月2日午後1:30新潟県高田支部の法廷で行われます。山下惣一さんが地元原告とともに陳述を行います。

この裁判を通して日本の食料生産、農のあり方も問われることになるでしょう。
2006年01月16日更新
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