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2005年11月

内閣府 食品安全委員会宛に意見書を提出しました
「米国・カナダの輸出プログラムにより管理された牛肉・内臓を摂取する場合と、我が国の牛に由来する牛肉・内臓を摂取する場合のリスクの同等性」に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての意見 

「20ヵ月齢未満の牛、特定危険部位を除去という前提(が守られた場合)の輸出なら国内の牛とのリスクの差は小さい」とする吉川座長提示の答申案を結論とするに至ったが、専門調査会の何人もの委員が座長答申案を批判し「科学的に評価することは困難」との付言を盛り込んでいる。それなのに「年内輸入再開」との報道を流させる政府のやり方に憤りを覚える。これは11月に来日予定だったブッシュ大統領のみやげにすべく政府・官僚の強い意向が食品安全委員会に政治的にこのような結論を出させたと感じる。

2003年12月のBSE発生以来輸入停止となっていた米国牛肉だが、ブッシュ政権は畜産業界を代表する人物を農務長官にして、対日輸出再開のために日本政府に揺さぶりをかけていた。BSE発生国は最後の発生から7年間発生がないことが確認されて始めて輸入再開とする国際ガイドラインがあり(それも米国の圧力で改悪されたが)それからいえば米国の要求は身勝手な要求であった。輸出するなら少なくとも日本と同等の安全確保は当然のはず。米国が全頭検査を頭から拒否したことから、あろうことか、日本政府は日本のほうを緩和することにした。20ヶ月齢以下を検査対象から除外し、全頭検査体制は廃止とされた。

世界保健機構(WHO)が「BSEの防御は食物連鎖に入れないこと」と勧告している。日本の全頭検査は食肉になるすべての牛をスクリーニングするのでまさにこの勧告に合致していた。だから現在までに20頭のBSEの発生が確認されても、国民は安心して牛肉を食べられたのだ。

米国は日本の2倍の人口だが、牛は1億頭もいて、毎年3500万頭が食肉になる。日本の10倍も大量の牛が食肉になるが、これまで検査率はわずか0.5%で、しかも兆候のある牛に限られる。また脳・脊髄除去は30ヶ月齢以上の牛に限られていた。

今回日本向け輸出分は危険部位を除去するという。しかし、それが確実に行なわれるかどうかの保証はない。食肉処理の最大手タイソンフーズの労働組合の話によれば、労働環境全米ワーストワンで、処理スピードが速く、労働者の怪我が絶えないという。除去が難しい背根神経節など慎重な除去が万全に行なわれる保証は示されていない。また米国では肉骨粉は牛に禁止でも豚や鶏の餌にはOKだ。しかも鶏糞が牛の餌として利用されていて、鶏糞の30%に肉骨粉が含まれているというからこれでは禁止もしり抜けといえる。牛の出生からの経歴をたどれるトレサビリティもない。だから20ヶ月齢以下の輸入といっても、果たしてそれが正しく行われるかどうかは不明だ。枝肉の格付け・骨格形成などによる判定法で20ヶ月以下がわかるとするが、とうてい科学的客観的とはいい難い。日本の全頭検査で21ヶ月のBSE牛がみつかっているのに、グレーゾーンの牛が入ってくることは間違いない。

米国には各地でヤコブ病の集団発生が起きて問題になっている。また、アルツハイマーと診断された患者のうちの13%がヤコブ病であったという報告もある。これらのなかにBSE由来が隠されている懸念が指摘されているのだ。

EUからの警告を無視した結果、日本にBSEの発生を許してしまったその反省に立って食品安全委員会を設置したはず。BSEの脅威から真に国民の健康を守るため、「消費者の立場にたって」、「予防原則で」「科学的知見に基づき客観的かつ中立公正に評価を行う」機関とうたったスタート時の理念は露と消え、米国を向いた政府の御用機関に成り下がったといわれても反論できまい。たった1mgの脳で感染し、治療方法もないBSEのリスクは、米加の牛肉輸入で増大することになるだろう。
2005年11月30日更新
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ドキュメンタリー「ザ・コーポレーション」試写を見て
投資の自由化、公共事業の民営化、生命の特許化、紛争を影で引き起こしている軍産複合体の存在などいま世界を被う、人権も環境もなぎ倒していくこの力技はどこから来ているのか。企業化社会の、どこをどうすれば解決の道があるのだろうかと漠と思っていました。

先日「ザ・コーポレーション」というカナダのドキュメンタリー映画の試写を見る機会がありました。この映画の原作を書いたジョエル・ベイカン(法学者、弁護士、作家)が差し迫った問題として、「企業は、フルスイングで加速する経済のグローバル化において世界を支配し、社会や政府を圧倒するものとして出現しようとしている」とし、
企業がこのような行動をとるのはなぜかという問いからこの映画はとられています。

すごいインパクトでした。145分という時間に40人もの人物が「企業とは」と語ります。ナチスに協力して巨利を得たといわれるIBMや石油メジャーなど大企業のCEO、労働組合委員長、企業スパイ、9・11には金の高騰を思ったという商品取引業者や歴史家のハワード・ジン、ノーム・チョムスキー、マイケル・ムーアも。バンダナ・シヴァ、ピーター・ドラッガー、ボリビアの水道民営化に反対したリーダーたちとさまざまな分野の人物の発言から企業の本質を浮き彫りにしていきます。

なぜ企業を「法人」といい、「人」扱いなのでしょう。

ベイカンによれば米国の黒人差別をなくすために作られた法のもとで、自由という権利が侵害されたと訴え出たのは黒人ではなく、大半が企業であったそうです。企業は人と同じように自由な活動を権利として獲得していくが、人には倫理感が備わっていて自由にも規律が働く、しかし法人には人でいえば人格障害といえる倫理感をもたないという欠陥があるというのです。

憲法は政府にのみ適用され、企業にはあてはまらない。企業の活動を公正、正義の名のもとに規制する法がいま必要なのだと気づかされました。法が定めた権利なら規制するのもまた法の力によってできるということでしょう。

国連では多国籍企業行動規範を作るという作業が出されてはつぶされ、かわりにOECDが多国籍企業行動指針を策定していますが、多国籍企業に対して政府が行う勧告で罰則も強制力もないものです。しかも事業活動を行う国の法律の枠内とか、費用、事業上の秘密及び知的所有権保護を犯さないところでの環境配慮とか、現実起きていることから言えば、絵に描いた餅にすぎないと思わざるをえません。

「ザ・コーポレーション」
 12月10日より
渋谷のUPLINKファクトリーで公開されます。必見です。
カナダアカデミー賞、最優秀ドキュメンタリー賞ほか世界各国の映画祭で最優秀ドキュメンタリー観客賞をそうなめにしています。
2005年11月14日更新
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抗告理由書
組み換えイネの野外栽培差し止め仮処分訴訟は最高裁へ上告しました。その抗告理由書を10月4日に提出しました。この裁判の意味するところが明快に指摘されています。

人工的に常時抗菌物質を分泌する組み換えイネが耐性病原菌を出現させる可能性が高く、そうなった場合、人類はもとより生態系、環境に及ぼす破壊的影響が危惧されると専門家がはっきりと指摘しています。

柳原敏夫弁護士による精魂込めた文章をぜひ読んでください。この裁判の内容と意義が熱い思いとともに明快に伝わってくるはずです

下記で全文を読むことができます。

安田節子のGMOコラム「新潟組み換えイネ訴訟最高裁への抗告理由」

リンクURL:https://www.yasudasetsuko.com/gmo/column/051111.htm
2005年11月11日更新
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