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2005年01月

「肉質判別」で米国牛肉輸入再開か?―BSE(狂牛病)をめぐって

 BSE(伝達性海綿状脳症)は1986年にイギリスで最初の症例が発見されて以来、イギリスで178,000頭のBSEが確認され、370万頭が焼却処分された。現在のところ発生数の減少はみられるが、いまも BSE の発生は世界各地で続いている。

 BSEは神経細胞中のプリオンと呼ばれる蛋白質が変形した異常プリオンの増加で神経細胞が死んで脳がスポンジ状になる。神経過敏、攻撃的あるいは沈鬱状態となり麻痺、起立不能等の症状を示す進行性、致死性の神経性疾患だ。

■BSEの問題点とvCJDとは

 BSEが問題なのはBSEの牛肉を食べた人に、異常プリオンがわずか1mgでも、人に同様の疾患=変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)を引き起こし、死に至らしめるからだ。この病気は若者に発病する傾向があり、平均発病年齢は約27歳で、進行は早く治療法はない。

 すでにvCJDと確定されたものは、2004年1月現在、英国で145名が報告され、その他フランスで6名、アイルランド、イタリア、米国及びカナダで各1名が報告されている。1995年にこの病気が初めて診断されてからの死者数は148人。原因物質といわれる異常プリオン蛋白は薬剤でも放射線でも加熱でも不活化されないやっかいな物質だ。

■崩れ去る常識=「危険部位を除けば安心」

 ごくまれに起こる羊の海綿状脳症スクレイピーが羊が肉骨粉とされ牛に餌として与えられるシステムのなかで牛に感染し、感染牛も肉骨粉にされて拡大再生産されていったと見られている。

 BSEはいまだ未解明の部分が多く、最近になって新種のBSEが見つかっている。また、異常プリオンが蓄積する危険部位は脳や脊髄、腸などとされ除去対象だが、04年11月に国内11例目の牛の検査から末梢神経節や副腎から異常プリオン蛋白が検出された。末梢神経節は肉にある(!)。次々と新たな知見がでてくる未解明のものであることを念頭に慎重かつ予防的防護措置が不可欠なのだ。

■BSE発生国は7年以上の輸出入禁止が通例なのに米国産肉輸入を再開?

 日本はこれまでに14頭のBSE牛が見つかっている(05年1月12日現在)。対応の遅れから発生を許してしまった政府は、牛の全頭検査で消費者の信頼をようやく回復した経緯がある。発生国がBSE清浄国に復帰するためには、肉骨粉飼料の8年以上の使用禁止、監視システム並びに検査体制の7年以上の経過が必要と国際機関(OIE)が条件としている(全農ウェブサイトより)。通常この間は輸出入は停止される。

 ところが03年末米国でBSEが見つかり、米国産牛肉は輸入禁止となったが、米国政府は畜産業界のために国際的取り決めを無視し、早急な輸入再開を求め日本に強い圧力をかけてきた。日本の牛肉輸入量の45%を米国産が占める。ブッシュ政権は日本が求めた全頭検査を拒否し、04年末には20ヶ月齢以下は検査なしでの輸入再開を合意させた。

■「20ヶ月以下の牛」を判別するための出生証明書が整備されていない米国

 ところが大半の畜産業者は月齢を確認できる出生証明書などを整備していない。そこで米国側は枝肉の色や骨の固さによる成熟度の格付けで月齢を推定する方法を認めるよう求めてきた。05年1月15日報道によると「肉質判別」を受け入れる方向で調整に入ったという。

 肉質判別法が採用されれば、ほとんどの業者が対日輸出を再開できる。英国では20ヶ月、日本では21ヶ月と23ヶ月のBSE牛が見つかっている。米国はグレーゾーンの牛を20ヶ月以下として押し込んでくるつもりだ。

■誤った常識=「20ヶ月以下の牛なら安心」

 そもそも20ヶ月以下ならBSEにならないのではなく、今の検査では異常プリオン蓄積の低い若い牛では見つかりにくいというだけのこと。米国でも異常プリオン蛋白の発見でノーベル賞を受賞したスタンリー・プルシナー米カリフォルニア大教授や消費者の88パーセントが全頭検査を要求。教授は、より精度の高い検査技術(CDI法)を開発したと発表している。

 ブッシュ政権が全頭検査を拒否するのは食肉処理企業の利益のためだ。その圧力に日本政府は屈して国民の健康を危機にさらそうとしている。

 米国のBSE牛はカナダから年間170万頭輸入している生体輸入牛の1頭だったが、そのカナダで今年に入って3頭目のBSEが見つかった。しかし米国はカナダからの生体牛輸入再開を決めている。米国・カナダは1997年に肉骨粉を禁止したが、牛の肉骨粉を豚、鶏などに与えることができるため飼料工場での「交差汚染」が指摘され、豚鶏に与えるはずの牛肉骨粉が、以前から牛に給餌されているとの指摘がある。

 また原因物質が蓄積する危険部位除去についてもずさんな実態や、BSEに似た症状のダウナー牛という起立不能の牛が闇で処分されたりしている。こうした問題が解決されない以上、輸入再開はあり得ない話なのだ。20カ月齢以下ならよいなどという論は輸入再開のためだけに作り出されたもので、安全性確保という本質的問題に蓋をしたままであることを忘れてはならない。

■米国がひた隠す事実=米国人のBSE被害者は年間12000人以上?!

 さらに米国ではvCJDの患者が見逃されているとの指摘もある。米国各地でCJD患者の集団発生が報告されている。アルツハイマー病あるいは痴呆症と診断されていた患者の3〜13%が実際はCJDに罹患していたことが判明。米国では毎年アルツハイマー病と診断される患者が400万人、痴呆症患者は数十万人が発生していることから、最も少なく見積もって12000人以上のCJD患者が検出されず、公式統計に含まれない可能性があるという。 実際、アルツハイマー病と診断された死亡患者数は1979年には857例であったものが、2000年には50倍以上の5万例近くとなっている。

■若牛とは「病気になる前に出荷した」牛のこと

 近代畜産では、牛たちは牧場でのんびり飼育なぞされてはいない。年間の肉類消費量がインド人の24倍、日本の3倍という米国人の肉消費量をまかない、世界中に輸出するためにも、コストの安い肉生産のために、米国では、牛は6ヵ月頃から肥育に入ると、15ヵ月前後の短期間で出荷体重に達するように、飼育場にぎゅうずめに詰め込まれ添加物や抗生物質配合の穀物飼料を与えられ続ける。牛たちは早晩病気になって死ぬからその前に出荷しなければならない。それが今回検査対象外とされる若牛たちだ。こういう飼育で起立不能になる牛がダウナー牛と呼ばれる。

■放牧国にBSEなし/先進国は肉食を考えよう

 英国に端を発したBSEは欧州や世界各地で発生しているが、モンゴルやニュージーランドのように放牧の国では発生していない。極限まで経済効率を求め、速成肥育のために草食動物の牛に共食いをさせ、感性を持つ生き物を扱うという動物福祉の視点を持たない、動物の生理を無視した残酷な飼い方が変異を生んだとしか思えない。自然の報復を招いた人災といえよう。

 国々が経済発展とともに肉食を増やし続けているが、地球人口の四分の一の先進国が四分の三の動物蛋白を消費し、肥満と成人病を増大させている。その一方で、飢餓に苦しむ人たちが8億以上もいるという矛盾。牛肉1キロ生産するには穀物11キロが使われる。肉食は穀物の浪費であり、先進国は肉食を減らす必要がある。健康のため、また膨れ上がる医療費抑制のためにも。

 温暖化で食料減産が現実味を帯びてきている。健康で幸せに飼う有機畜産への転換と畜産物を少量、無駄なく感謝して食べる食べ方に私たちが変えられるかにBSE問題の解決がかかっている。
2005年01月16日更新
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